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第1部 四神と結婚しろと言われました
55.大した理由ではなかったようです
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あともう一つ気になることがあった。
『そういえば領地での税金とかはどうなっているのですか?』
『租税のことでございますか?』
香子が頷く。
『この国に納める義務はありませんので、一応災害対策用に納めさせてはいます。備蓄期間は三年で、それを過ぎた物は祭りの時期に放出します』
(ということは保存がきく食べ物とかってことかな……?)
そもそも神の治める土地に災害などがあるのだろうか。
香子は眉を寄せた。
『災害なんてあるのですか?』
『他の土地に比べてめったにはございませんが、全くないとは言いきれません。現に玄武様の治める北の領地ではここ何年も雪害が続いております』
青藍から聞いて香子ははっとする。
『それは……眷族の数や寿命も関係するのですか……?』
『……それも関係ないとは言いきれません』
香子は愕然とした。
神に嫁ぐとは、そういうことなのだ。
『……私の選択で、もしかしたら人の暮らしまで変わってしまうんですね……』
そう呟くように言うと、不意に青龍に抱き寄せられた。
『青龍様?』
『そなたがそこまで考える必要はない』
青龍の瞳は黒かった。玄武とは反対の色合いだなと香子は思う。
『でも……』
『香子、そなたが義務で嫁いだところで子は産まれぬ。そなたが我らを心から愛しいと思わなければいくら体を繋げても意味がないのだ』
真剣な眼差しで諭され、そういうものなのかと顔を俯かせた。
青龍の腕の中は心地よかった。暑くもなく寒くもなく、なんだか透明な膜のようなもので守られている気がする。
『……そういえば……青龍様は私の何を誤解されていたのですか?』
そう聞くと、青龍の体が微かに身じろいだ。
『……答えねばならぬか……?』
なんだかとても嫌そうではある。けれどあれだけ嫌味というかとげとげしい言葉をかけられたのだ。香子には聞く権利があるだろう。
『是非お聞かせ願いたいですね』
にっこり笑って促すと、青龍はごまかすように香子を膝に乗せた。
(だから、お前もか!?)
心の中でツッコミを入れながらも青龍の腕に手を添えてその目を覗きこんだ。聞くまで逃がすわけにはいかない。
『……そなたの香りは間違いなく花嫁のものなのに、なにか違うものも同時に感じたのだ』
『はぁ……』
青龍が言いづらそうに言う。香子としてはピンとこない。もしかしたら日本人と中国人の違いがそれなのかもしれないと思う。
『名を偽るというのはなにかやましいことがあるのではないかと、変に邪推してしまったのだ。どうか許してくれまいか』
そう言って青龍は香子の目元に口づけた。
まぁ実際やましいというか、日本人と言ったらどこぞに放逐されるか最悪殺されるのではないかと思ってしまったのだから仕方がない。
(絶対何かの間違いだと思ってたしねぇ……)
それにしても、絶対手を出されないと思っていたのにこの口づけの嵐はなんだろうか。
目元から始まって、頬、鼻、唇の先、顎、額、髪とただひたすらに口づけられている。
『あの……それはいいんですけど、なんで青龍様は私に……?』
そうごにょごにょと尋ねても口づけは止まなかった。
青龍の膝に座らせられて、それこそ逃げられないように抱きしめられている状態で受ける口づけはなんだかひどく恥かしい。
青龍は玄武や朱雀とはまた違ったタイプの美丈夫だった。見た目が爽やかなだけに恥ずかしがっている香子の方がなんだか悪いような気までしてくる。
(どうしよう……)
答えてくれないし、しかもいつのまにか青藍も姿を消している。
『香子……』
澄んだ水を思わせる透き通ったような声に色が混じる。
(爽やかなのにそれは反則ーーーー!)
そのまま青龍の口唇が香子に重なるかと思った時、
『お取り込み中のところ失礼します。夕食はどうなさいますかと聞かれておりますが、いかがいたしましょうか?』
室の表からした青藍の声に香子は弾かれたように顔を背けた。
『食べます!』
そして咄嗟に叫ぶように答えた香子に、青龍は軽く舌打ちをした。
『そういえば領地での税金とかはどうなっているのですか?』
『租税のことでございますか?』
香子が頷く。
『この国に納める義務はありませんので、一応災害対策用に納めさせてはいます。備蓄期間は三年で、それを過ぎた物は祭りの時期に放出します』
(ということは保存がきく食べ物とかってことかな……?)
そもそも神の治める土地に災害などがあるのだろうか。
香子は眉を寄せた。
『災害なんてあるのですか?』
『他の土地に比べてめったにはございませんが、全くないとは言いきれません。現に玄武様の治める北の領地ではここ何年も雪害が続いております』
青藍から聞いて香子ははっとする。
『それは……眷族の数や寿命も関係するのですか……?』
『……それも関係ないとは言いきれません』
香子は愕然とした。
神に嫁ぐとは、そういうことなのだ。
『……私の選択で、もしかしたら人の暮らしまで変わってしまうんですね……』
そう呟くように言うと、不意に青龍に抱き寄せられた。
『青龍様?』
『そなたがそこまで考える必要はない』
青龍の瞳は黒かった。玄武とは反対の色合いだなと香子は思う。
『でも……』
『香子、そなたが義務で嫁いだところで子は産まれぬ。そなたが我らを心から愛しいと思わなければいくら体を繋げても意味がないのだ』
真剣な眼差しで諭され、そういうものなのかと顔を俯かせた。
青龍の腕の中は心地よかった。暑くもなく寒くもなく、なんだか透明な膜のようなもので守られている気がする。
『……そういえば……青龍様は私の何を誤解されていたのですか?』
そう聞くと、青龍の体が微かに身じろいだ。
『……答えねばならぬか……?』
なんだかとても嫌そうではある。けれどあれだけ嫌味というかとげとげしい言葉をかけられたのだ。香子には聞く権利があるだろう。
『是非お聞かせ願いたいですね』
にっこり笑って促すと、青龍はごまかすように香子を膝に乗せた。
(だから、お前もか!?)
心の中でツッコミを入れながらも青龍の腕に手を添えてその目を覗きこんだ。聞くまで逃がすわけにはいかない。
『……そなたの香りは間違いなく花嫁のものなのに、なにか違うものも同時に感じたのだ』
『はぁ……』
青龍が言いづらそうに言う。香子としてはピンとこない。もしかしたら日本人と中国人の違いがそれなのかもしれないと思う。
『名を偽るというのはなにかやましいことがあるのではないかと、変に邪推してしまったのだ。どうか許してくれまいか』
そう言って青龍は香子の目元に口づけた。
まぁ実際やましいというか、日本人と言ったらどこぞに放逐されるか最悪殺されるのではないかと思ってしまったのだから仕方がない。
(絶対何かの間違いだと思ってたしねぇ……)
それにしても、絶対手を出されないと思っていたのにこの口づけの嵐はなんだろうか。
目元から始まって、頬、鼻、唇の先、顎、額、髪とただひたすらに口づけられている。
『あの……それはいいんですけど、なんで青龍様は私に……?』
そうごにょごにょと尋ねても口づけは止まなかった。
青龍の膝に座らせられて、それこそ逃げられないように抱きしめられている状態で受ける口づけはなんだかひどく恥かしい。
青龍は玄武や朱雀とはまた違ったタイプの美丈夫だった。見た目が爽やかなだけに恥ずかしがっている香子の方がなんだか悪いような気までしてくる。
(どうしよう……)
答えてくれないし、しかもいつのまにか青藍も姿を消している。
『香子……』
澄んだ水を思わせる透き通ったような声に色が混じる。
(爽やかなのにそれは反則ーーーー!)
そのまま青龍の口唇が香子に重なるかと思った時、
『お取り込み中のところ失礼します。夕食はどうなさいますかと聞かれておりますが、いかがいたしましょうか?』
室の表からした青藍の声に香子は弾かれたように顔を背けた。
『食べます!』
そして咄嗟に叫ぶように答えた香子に、青龍は軽く舌打ちをした。
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