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第3部 周りと仲良くしろと言われました

90.自覚をしてもらえないのはとても困ります(延夕玲視点)

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四神宮の人々の話です~
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 香子の肌の美しさや髪の鮮やかさ、そしてたわわになりつつある胸などは四神に愛されている証拠である。
 ただ元々香子の肌はにきびなどはできにくく、中国茶をがぶ飲みしていたせいかどうかは知らないがキメ細かく綺麗であった。そこに四神の愛が重なったことで、一般的にどちらかといえばかわいいと言われる容姿がよりかわいく、綺麗になっているのである。
 もちろん香子自身そんな自覚は全くない。彼氏はいたし、その彼氏にはかわいいかわいいと言われていたが、それは彼氏限定だと思っていた。
 そして自分の容姿は見えないが故に、自分に対しての客観的な判断というのが香子にはできないでいた。
 元の世界では洗面所などにも大きな鏡があったので自分の姿をその都度確認できていたが、今は化粧などをされてから手鏡で見せてもらうぐらいである。髪は下ろせばその鮮やかさは確認できるが、顔となるとさっぱりである。かといって大きな鏡がほしいかと言われても香子は首を傾げてしまう。自分で化粧をしたり髪形を整えたりするのならば鏡は大きいものがあるといいとは思うが、香子は全て侍女任せだ。それ故に、香子は自分の顔を鏡で見ても、いつも侍女さんたちがキレイにしてくれて嬉しいなぁとしか思っていなかった。
 香子の自覚のなさは、大きな鏡がない故の弊害だったのである。
 ただし、そのことには四神宮の侍女たちも、そして女官である延夕玲も正しく理解はしていなかった。その為、彼女たちは香子の自覚のなさに振り回されていた。
 香子が四神宮に戻り、そのまま白虎の室にお持ち帰りされた後皇后に仕える女官と侍女たちが訪ねてきた。よほど皇后は香子の肌の美しさが気になったようだった。四神宮に入れるわけにはいかないので、彼女たちは謁見の間に通された。
 夕玲はこちらへ戻ってきた時、主官である趙文英に皇后の女官や侍女たちが自分を訪ねてくることは伝えてあった。だがまさかこんなに早く訪ねてくるとは誰も思っていなかったので、趙と夕玲は内心冷汗を掻いた。
 四神宮の中へ人をやり、普段香子の肌の手入れをしている者を呼ぶ。彼女たちは皇后の女官と侍女が来ていると聞くと、目を白黒させた。

「このような不躾な訪問をしたこと、誠に申し訳ありません。皇后娘娘は花嫁様の美しさに感嘆され、その美しさの秘密の一端に触れたいと仰せです」

 皇后の女官に言われ、侍女たちは一瞬顔を見合わせた。
 花嫁の美しさの秘密と言われても、毎日ゆっくりと入浴をし、それにマッサージをしたりするぐらいである。香子の元々の肌の美しさもあろうが、侍女たちからすると香子の美しさは全て四神に愛されているが故ではないかというのが常識であった。なので聞かれても困ってしまった。

「恐れ入ります。私共は特別なことを花嫁様にしているわけではございません」

 そう言ってから侍女は一つ思い出したことがあった。
 それは鉛白粉のことである。
 鉛白を肌に塗るとより白く見えることから日本でも使われていた歴史がある。けれど相手は鉛だ。決して身体にいいものではない。なので現在は香子の命により、四神宮では鉛白粉は使われていない。(第二部79話参照)

「こちらで考えられますのは、鉛白粉を使っていないということです」
「鉛白粉を? 何故ですか?」

 女官が不思議そうに尋ねた。その先は夕玲が引き取った。
 香子が話した鉛白粉を使用するにあたっての危険性などを夕玲はよどみなく語った。

「まぁ……そのような恐ろしいものを私たちは使っていたというのですか……」

 皇后の女官とその侍女たちは蒼褪めた。そして代替品をすぐ手に入れるようにすると言い、慌てたように帰っていった。

「延様、ありがとうございました」

 侍女たちに感謝され、夕玲は少しくすぐったかった。だが鉛白粉つながりで、夕玲はまだ皇太后にこの話を伝えていなかったことを思い出した。そういえば、皇太后は皮膚にできものができた関係で近年は余計に白粉をよく塗るようになっていた。

「趙様!」
「延、どうかされましたか?」
「私、これから皇太后にお会いして参りとうございます」
「わかりました。少々お待ちください」

 趙はそう言うと、侍女に何やら言づけた。

「延殿をお一人で向かわせるわけには参りませんので」
「私は……その、一人でも大丈夫です」
「いいえ。それはなりません」

 趙は有無を言わさぬ笑みを浮かべた。目が笑っていない。夕玲は少しだけその笑みに怯んだ。そうして待っていると、青藍が現れた。

「趙殿がお呼びと伺いましたが」
「はい。延殿が皇太后の元へ向かわれるとおっしゃるので、付き添いをお願いしたいのです」
「承知しました」
「わ、私は……」
「夕玲、参りましょう」

 反論は許されなかった。夕玲は頬をほんのりと赤く染めながら、青藍に手を取られて皇太后の元へ向かった。
 皇太后に伝えたいことはしっかり伝えられたが、青藍がどうしても手を放そうとはしなかったので、夕玲は皇太后にとてもからかわれたのだった。



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ファンタジー大賞応援ありがとうございました。

「準備万端異世界トリップ~俺はイタチと引きこもる~」

最終38位でした。これからも書き続けていきますのでよろしくお願いします。
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