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第3部 周りと仲良くしろと言われました

82.皇太后とまたお茶をしたいと思います

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 皇太后宛に認めさせた手紙には、詳しいことは書かなかった。
 相談があるので時間を取ってほしいとだけ香子は連絡をさせた。
 仕立て屋を呼んでほしいなどと先に言ったら、必要もないのに大量の布が持ち込まれてしまうことは想像に難くない。そしてそのまま何着か注文されてしまうかもしれない。皇太后は香子にとても甘いのだ。
 返事は次の日の朝には届いた。本当に皇太后のフットワークは軽いと香子は思う。
 翌日の午後、御花園でお茶をしながらおしゃべりしましょうとの返信があった。アポを取る為の手紙を持たせて翌々日には会ってもらえるなんて破格の扱いだろう。ありがたいことだと香子は思った。
 そして約束の日、昼ごはんをいただいてまったりしてから侍女たちがにこにこしながら香子を着せ替え人形にした。仕上がりはとても上品ではあったが、この支度をされる時間というものに香子は慣れない。
 今日は内側に臙脂の袍を着て、スカートは黒っぽい色、外側の長袍は薄緑という出で立ちだ。スカートを結ぶ紐は白に金の刺繍が入っている。長袍には青龍の刺繍がところどころ入っていて、上品ながら主張が感じられた。

(これって……わざわざ仕立てさせてるのかなぁ……)

 かかる金額が恐ろしくて香子は身震いした。髪を結い上げて簪を差し、唇に紅を差せば出来上がりである。侍女たちは、本当はもっと髪形をいろいろいじりたいようなのだが、基本香子は四神に抱き上げられて移動する為あまり盛ることができない。だから侍女たちは少し不満ではあったが、四神に抱き上げられている香子を見るのが好きなのでそこは我慢している。
 そんなことは全く知らない香子としては簪が白なのを見て苦笑した。
 白は白虎の色だ。侍女たちは皇太后に気を遣ったのだろう。
 青龍が迎えにきた。

『普段からそなたは美しいが、着飾るとまた格別だな』

 口元を笑みの形に変えて青龍が言う。元々あまり表情は動かない四神だが、香子に会ってからは表情が出るようになった。目はいつだって香子を愛しいと言っているようで、侍女たちは内心身もだえた。四神は美しいし、自分たちが仕えている花嫁もまたどんどん綺麗になっていくし、それに全然わがままも言わないし、最高の主だと侍女たちは思っていた。
 たまに香子の言うわがままなど本当にかわいいものである。そんなわがままだったらいくらでも言ってくださいませ! と言いたくなるほどだ。侍女たちはもう香子がかわいくてしょうがなかった。
 侍女たちの胸のうちはともかく、香子は青龍の言に頬を染めた。

『侍女たちが綺麗にしてくれていますから……』

 はにかむ香子に侍女たちはまた内心身もだえたのだった。
 青龍が香子を優しく抱き上げる。香子は無意識にその胸にもたれた。見た目は爽やかな美形だというのに、こうして抱き上げられてしまうと青龍が逞しい身体をしているということがわかる。四神は香子を抱き上げる時も危うさがない。安心して腕の中に納まれるというのは幸せだと香子は思う。

『行きましょう』
『わかった』

 そのやりとりと共に部屋を出た。今日付き従うのは白雲、青藍、黒月、延夕玲その他侍女のみなさんである。侍女頭は基本四神宮からは出ない。だからこそ女官が必要なのだった。

(本当は……女官ももう何人かいた方がいいのかな)

 だからといってそう簡単に増やそうとしてもできるものではないと香子は思う。
 実際のところ四神宮に勤めたいという希望者は多いのだが、出自などを詳しく調査しなければならないのではいそうですかとはならないのである。ただ香子が望めば何人か派遣されてくることは間違いなかった。
 御花園に向かうと、すでに皇太后はくつろいでいた。

『おお、来たか。堅苦しい挨拶は抜きじゃ』

 皇太后の横には皇后がいた。皇后はとても緊張しているように見えた。

老仏爺ラオフオイエ、この度は……』
『挨拶などいらぬ。妾と花嫁様の仲であろう。ささ、始めようぞ』

 皇太后はとても楽しそうにそう言った。仲良くなってしまえば気持ちのいいおばあちゃんだと香子は思う。
 青龍の腕に抱かれたままで腰掛ける形になった。四神は本当に香子を下ろしてはくれない。そして青龍はなんだかあまり機嫌がよくなさそうだった。
 香子はそっと青龍に触れた。

〈青龍様、どうかなさいましたか?〉
〈……そなたは許したかもしれぬが、皇后のことは許せぬ〉

 あ、と香子は思った。今日は白虎と共に来るべきだったと反省する。

〈悪いのは皇帝です。皇后はその被害者なのですよ〉
〈それでも香子を困らせたことに変わりはないだろう〉

 青龍はまだ皇后に怒っているようだった。

〈私が納得しているのだからいいのです。そうでなくても皇帝の後宮には妻がいっぱいいるのですから、みなたいへんなのですよ〉
〈そなたは優しすぎる〉
〈そんなことはないですよ〉

 香子は内心苦笑した。
 そしてやっとお茶に口をつけた。

毛峰マオフォンですか』

 蓋碗だとあまりその茶葉の特徴が見られなくて残念だが、黄山毛峰は茶葉が立つ緑茶である。黄色っぽいお茶の色も鮮やかで、香子はその味も好きだった。
 皇太后が笑む。

『ほんに花嫁様はお茶通でいらっしゃるのぅ』
『知っているお茶だったからですよ』

 なかなか本題には入れそうもないなと香子は思った。
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