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ガツンと叱られます
しおりを挟む「あの…、まずジョイスさん、首飾りは私が外しました。申し訳ありません」
私はジョイスさんに向き直し頭を下げた。
安心したのかジョイスさんは『ふぅ』と一息吐いた。
「あの…、リーストファー様?」
今度は怖い顔をしているリーストファー様と向き合った。
「外した首飾りはどこにある。今出してくれ」
「今は、……手元にありません」
「ミシェル!」
怒号のような大きな声に体がビクッと震える。
「首飾りはどうした」
「今はバーチェル国の騎士の手にあります」
「どうしてバーチェル国の騎士がお前の首飾りを持ってるんだ」
「首飾りを私がバーチェル国の国土に投げたからです」
「はああぁぁぁ」
大きな溜息を吐いたリーストファー様。
「後できちんと説明する予定でした」
「いつも言っているよな?何かしてからじゃなくて何かする前に相談してくれって。
違うか?」
「すみません…」
「俺は何も相談できない男か?」
私は顔を横に何度も振った。
「ならどうして」
「リーストファー様に相談すれば反対されるからです」
「当たり前だ!もしかしたら今ここにお前はいなかったかもしれないんだぞ!本当に鎖に繋いで家から出さないようにするぞ!」
「すみません…」
私は顔を俯けた。
「ジョイス、迷惑をかけたな。すまないが…」
「あ、ああ、俺は戻るが…、程々にしてやれよ?」
ポンポンと何かを叩く音が聞こえた。きっとジョイスさんがリーストファー様の肩か背中を叩いた。
俯いている私にはその顔は分からない。
でもきっとリーストファー様は鬼のような顔をしている。きっと……。
「ミシェル」
リーストファー様は私の両頬を両手で包み私の顔を上げた。
「ミシェル、顔を上げろ。自分のした事に後ろめたい気持ちがないなら俺を真っ直ぐ見ろ」
私はリーストファー様を真っ直ぐ見つめる。
「ミシェルのことだ、何か理由があるんだろう。俺はミシェルのその行動力も情に厚い所も認めている。でもそれはこの国の中に限ってだ」
「分かっています。ですがこうするしかなかったんです。私だって相手は選びます。勘のようなものですが、それでも相手の話し方、表情、声の強弱、それらを判断しました」
バーチェル国の騎士が『テオドールか』と言った時、その表情は複雑な顔をした。話し方もどこか心配するような。彼の名前を言う時、声の質が変わった。声は低く、どんどん小さくなった。
あの騎士は隊長として知っていた。両親との事を。
騎士は交代で警備をする。夜間だけ警備をする者はいない。昼間と夜間、そして休みを交代しながら警備を行う。
ダムスお爺さんは毎日石垣を見に行っていた。昼間の警備の時にもし父親が石垣に居たら、きっと父親を避ける。夜間なら普通なら寝ている時間だもの。
でも理由もなく一人だけ特別扱いはしない。きっとテオドールさんはあの騎士に全て話した。
きっとあの騎士にも親がいて子供もいる。自分も子の親、お爺さんとお婆さんの気持ちが分かった。何歳になっても可愛い子供。その子供から言われた言葉。縁を切ろう、そう言った気持ち。
でも自分も親の子供で、親には甘えから言ってはいけない言葉を言う時もある。
当時のバーチェル国は戦に負け、誰もが心に余裕はなかった。テオドールさんもご両親まで背負う心の余裕がなかった。一家の大黒柱として何人養えばいいのか。辺境も当時は機能していなかっただろう。その中で先行きの不安がご両親に向けた言葉となった。
私もあの騎士だからこちらの気持ちを話した。
あの時あそこに来たのが違う騎士なら私は宝石を捨てリックに視線を送った。いずれ隊長が来る、その時まで毎日繰り返した。
隊長をする人には独特な風格がある。私はずっと間近で上に立つ人を見てきたのよ?その独特な雰囲気はなんとなく分かる。
そしてあの騎士からもその独特な雰囲気を感じ取った。
だから私は実行した。
私は真っ直ぐリーストファー様を見つめる。
「それで?ただバーチェル国の騎士と話がしたくて首飾りを投げただけじゃないんだろ?お前は何をしたい」
「今日の夜、テオドールさん、ダムスお爺さんの息子に会います。いくら縁を切ったからとダムスお爺さんの今の状態をお知らせしないわけにはいけません」
「ミシェル、ミシェルはご両親の愛で育てられたかもしれないが、今更修復できない親子もいる」
「それも分かっています。ですが、私は賭けてみたいんです」
リーストファー様のご両親は貴族で、テオドールさんのご両親は平民。
貴族は意にそぐわない婚姻を強いられる。そこに愛はないに等しい。リーストファー様のご両親の間にも愛は存在しないのだろう。
でも平民は違う。平民でも意にそぐわない婚姻をする場合はある。それでも、愛を育む努力をする。貴族の邸とは違い狭い家の中で毎日顔を合わせ話をする。毎日同じ空間で暮せば情が湧く。些細な優しさが目に付き、いつしか情が愛情に変わる。
子供が生まれればその子供に愛情を注ぐ。
縁を切ったと言っても、お爺さんのベッドの周りには子供が作っただろうお守りや、子供が描いただろう絵、子供が贈った手紙、それから平民には少し値が張る姿絵。騎士服を来た若い青年と幸せそうに微笑む母親。二人を守るんだと二人の肩に乗せられた父親の手。
毎日お爺さんの顔を見に行って、その時思った。
縁を切っても息子は可愛い息子なんだと。
そして、その息子の後悔。
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