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ジークの本音 1 リーストファー視点

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ミシェル達が女性の家の方へ歩いていき、ジークと向かい合う。

話を聞かせてくれと言った所で素直に話す訳がない。


「よし、今から追いかけっこをしようか。なぁに簡単だ、お互い逃げてお互いに捕まらないようにするだけだ。捕まったら捕まえた方の質問に答える、簡単だろ?

だが質問の答えに嘘をついては駄目だ。本当の事を答える事、いいな?」

「そんなの俺が不利じゃん」

「そうだな…、でもジークは若い。それに比べ俺はおっさんだ。逃げるだけならジークの方が早いと思うぞ?木に登ってもいいぞ?」

「なら楽勝じゃん」

「よし、なら始めようか」


ジークは逃げ俺は追いかけた。


「おっさん嘘ついたな、卑怯だぞ」


今はジークを追い込め今は向かい合っている。


「始まったばかりだぞ?そりゃあまだ体力はあるさ。

なぁジーク、ジークは将来何になりたい」

「質問は捕まえてからだろ」

「こんなの世間話だろ?お互い無言で追いかけっこをするのか?それは少し怖くないか?弟と追いかけっこする時は話しながらしないのか?

で、ジークは何になりたい。やっぱり父親と同じ騎士か?」

「騎士になりたいんじゃなくて騎士になるしかないんだ。騎士は給金が良いから、まだ弟もいるし俺が稼がないと」

「じゃあ他になりたいものはないのか?」

「他って騎士以外に金が稼げる仕事なんてないだろ」

「いっぱいあるぞ?料理人だって医者だって庭師だって、仕事なんて騎士以外にたくさんある」

「俺頭悪いし、母ちゃんが文字を教えてくれるけどすぐ眠くなっちゃうんだ。体動かしてる方が性に合ってる」

「騎士だって頭を使うぞ?闇雲に剣を振ればいい訳じゃない。まぁでも騎士の基本は体力だ。あとは己を鍛えるのみだな。心が強くなければいけない。物事を受け止める強さは必要だ」


でもそれは少しづつ培われていく。強さなんて初めからある訳じゃない。

それに女性は騎士なら自分を護ってくれると言うが、休みはあってないようなものだし、何かあればすぐに呼び出される。いざ戦が始まれば落ちつくまでは家に帰れない。

貴族の邸に勤める騎士達だって優先して護るのは恋人よりも邸の主人。私兵を出せと言われれば邸に勤める騎士達も戦場へ向かう。

本当に護ってくれる人は医師や料理人の方じゃないのか?医師は病気を治してくれる。料理人は料理で体を丈夫にしてくれる。庭師だって綺麗な花を咲かせ心の安らぎを与える。

族や輩からは護ってやれるが、それだって側にいなければ護るものも護れない。結局騎士の妻になれば自分の身は自分で護るしかない。それにいつ何時命を落とすか分からない。

奇跡や希望を持つのはその人の勝手だ。ジークの母親の気持ちも辺境の奥さん連中には痛いほど良く分かるだろう。辺境の騎士達だって亡骸がかえらない者はいる。剣が行方不明になる事も形見を持ちかえれない時もある。現実を受け止めきれなくて当然だ。それでも周りが支え一人にはしない。そして唯一遺してくれた子供を立派に育てあげる。

親の意志を継ぐと騎士になる者もいる。生きて帰れる保証はないと別の職に就く者もいる。できるだけ大勢を助けたいと医師を志す者もいる。

ジークには仕方がないからではなく自分がなりたいものになってほしい。


もうそろそろ終わらせるかと俺はジークを捕まえた。


「なら質問だ。ジークは父さんや母さんは好きか?」

「そりゃあ好きだよ。でも父ちゃんは嘘つきだから嫌いだ。それに最近の母ちゃんは嫌いだ…」

「騎士をやっていれば命の保証はない」

「それでも帰ってくるって約束した」

「そりゃあ戦う前から死んでかえってくるとは言わないだろ?きっと父さんは家族のもとに帰りたい、帰ってくるぞ、そう強い思いを口にしたんじゃないのかな。待ってる家族がいる、それだけで力が出せる時はある。戦は過酷だ。その中で家族の存在が人を強くする。会いたいと願い、瞼を閉じれば思い出すのは家族の顔。そして夜が明ければまた相手に向かっていく。必死に戦い、それでも家族のもとにかえれない時はある。

ジークの父さんは諦めず戦いぬいた」

「どうしてそんな事が分かるんだよ」

「目の前の敵から逃げ出さなかったから戦死した。最期まで剣を振り続けた証拠だ」


戦の為に集められた農民達の中には逃げ出す者もいる。物陰に身を隠してじっと終わるのを耐える者もいる。勿論相手に向かっていく者もいる。

それでも騎士は違う。目の前の敵から自分の意志で逃げはしない。撤退の合図があるまではその場で戦う。敵味方が入り交じる戦場で剣を休めたらそれは死を意味する。皆戦場では必死だ。ジークの父親の強さは知らないが、誰もが生きるか死ぬか、相手より早く剣を振れるか、一対一じゃあるまいし相手の出方を観察する暇もない。

その中で戦いぬいたからこそ戦死した。


「どうして母さんが嫌いなんだ?」

「最近の母ちゃん、どこか変だ。俺や弟なんていらないんだ」

「だから悪戯するのか?こっちを見てほしくて、ここに居るぞって、悪戯すれば母さんが見てくれるからか?」

「俺だって騎士の父ちゃんが死んだって聞かされた時は嘘だって思った。でもおっさんの言うように命の保証がないくらい分かってる。稽古じゃないんだし。

俺だって父ちゃんが仕事から帰ってきてからも剣を振ってる所を見てきた。日々のたん、れん?は必要なんだって父ちゃんが言ってたしな。だからまさかあの父ちゃんがって思ったさ。

でも父ちゃんが言ってた。父ちゃんより強い人はたくさんいるって。その人達に追いつきたいからその人達以上剣を振らないといけない。でも父ちゃんなんてまだまだだって。

でも母ちゃんは父ちゃんが一番強いと思ってる。父ちゃんが死ぬわけないって。絶対どこかで生きてるって。俺が父ちゃんは死んだんだって言っても聞いてくれない。父ちゃんは死んだって思ってるならもう私の子供じゃないって。だから俺と弟は父ちゃんは生きてるって言うしかないんだ……」


ジークは下を向いた。

子供のジークの方が現実を受け止めている。



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