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見つめる視線の先
しおりを挟む「なぁ姉ちゃん、俺もおっさん」
私は少年を見つめた。
「じゃない、兄ちゃんみたいに強くなれるか?」
「強くなれるかどうかは貴方次第よ。彼だって初めから強かった訳ではないわ。彼は誰よりも努力家だったの。それに、元々彼は情が深く優しい人なの。だから強くなったのよ。誰かを護りたい、その心は強さに繋がるの。それでも折れる時は誰にでもある。その時諦めるか立ち上がるか、彼は立ち上がり続けただけ」
だから皆がリーストファー様に魅了される。
誰よりも剣を振り、誰よりも稽古に励み、辺境の大きな家族を護りたい、その心は彼を立ち上がらせ続けた。
テオン様達の無念の死で折れかけた心。
それでも彼の志は強かった。
『護りたい』その心が強かった。
「諦めない心、努力はいつか必ず実を結ぶ。
それでも、努力がすぐ現れる人もいる。誰よりも努力してもすぐに現れない人もいる。でも、努力をし続ければそれは自分の身になる。日々の稽古が大事なのは、どんな局面になろうと身についた動作は自然と体が動くからよ。稽古以上の力が出せる時はあるわ。でもそれは努力を重ねた先の話。
貴方が天賦の才を持っているのならまた別の話だけどね。でももし貴方が天賦の才を持っていたとしてもその才に驕ればいつか努力し続けた人に負ける時がくる。どれだけ才能を持っていても向上心は必要なの」
「姉ちゃん、俺は天賦の才を持っていると思うか?」
「さあ?凡人の私には分からないわ。それでも努力は裏切らないと私は信じているわ。あるかないか分からない才能に縋るより、努力し続ける心の方が強いと私は思っているもの」
「なら俺も努力し続けたら兄ちゃんのように強くなれるんだな」
「だからそれは貴方次第だと言っているでしょう。強くなりたいと思っているのは貴方。強くなる為にこれから努力するのは私ではなく貴方なのよ?
強くなりたいと思う心は向上心を高めるわ。憧れや理想は目指す道しるべになる。諦めず、どんな困難にぶち当たろうとも立ち上がり続け、己の志さえ見失わなければ貴方の努力はいつか実を結ぶ。でも強くなろうと無理をしては駄目よ。時に立ち止まり休憩をして、また立ち上がればいいの。
誰にでも今の己の限界という壁が立ちはだかる時があるわ。でも焦らなくていいの。立ち止まる事は弱さじゃないわ、勇気よ。私は貴方に時に立ち止まる勇気を持ってほしいと思っているわ。
真っ直ぐ前を向いて歩くのも良し、時に回り道をして時に休憩をして周りの景色を見て楽しみながら進む道も良し、どんな道でも貴方の道を進んでほしいと私は願っているわ。
人の優しさも温もりも、それから人の情も、貴方がこれから出会う人との縁を貴方には大切にしてほしいと私は思っているの。人は一人で生きているのではないと、誰かに支えられながら生きているのだと、いつか貴方にも知ってほしい」
私は少年に優しく微笑んだ。
今は分からなくてもいい。今は一人で生きるんだと肩肘を張っていてもいい。
それでもいつか、貴方が許せる誰かが現れた時、貴方には迷わずその手を取る勇気を持ってほしい。
「誰かに優しくされたら、今度は貴方が誰かに優しくすればいい。誰かに助けられたら、今度は貴方が誰かを助ければいい。こうして人は誰かに支えられながら、誰かを支えながら生きているのよ?」
難しそうな顔をしている少年。
「貴方の心の思うままにすればいいの。貴方の心の声を貴方だけは聞いてあげて?
もしこの先手助けが必要になった時、必ず手を貸してくれる人はいる。何十人の人に無視をされてもいつかその一人は必ず現れる」
「俺は盗賊だぞ」
「貴方は望んで盗賊になったの?」
「望んだといえば望んだ」
「そう。なら貴方はこれからも盗賊として生きていきたいの?」
少年は顔を横に振った。
「なら今の貴方の心の声をきちんと聞いてあげて。貴方の望む心は?」
少年は真っ直ぐリーストファー様とリックの姿を見つめた。
ふふっ、貴方の視線の先の二人は貴方の心の声に答えてくれる。
だから勇気を出して?
貴方が今の貴方から一歩進む勇気を。
「姉ちゃん…、悔しいけど、強いな…」
「そうね」
少年は目を輝かせて二人を見つめている。
それより、二人はいつ終わるのかしら。
いつの間にか辺境隊の方々までも二人を見ていた。
終わりが見えない戦いだと思っていた。それでもどんな戦いでも終わりはある。その終わりは突然やってきた。
リーストファー様の剣先がリックの首元に、リックは両手を挙げた。
「参りました」
リックがそう言うとリーストファー様は剣を鞘に収めた。
両手を下ろしたリックは真っ直ぐリーストファー様を見ている。
リック?
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