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気持ちの変化
しおりを挟む毎日二人で庭を散歩する。自分達で植えた苗の成長を見ながらゆっくりと歩く。
緑の葉が風に揺られ、まるでダンスをしているよう。立ち止まり二人でのんびり眺めまた歩き出す。
「ちょっと休憩していいか」
リーストファー様はベンチに腰掛けた。私はその隣に座る。『ふぅ』と一息吐いたリーストファー様。
「疲れましたか?」
「正直言えばずっと歩き続けるのはまだ疲れる」
「無理は禁物です。こうして立ち止まり、ベンチに座ってゆっくり景色を眺めるのも必要だと思います。鳥だってずっと飛び続ける事はできませんし、馬だって走り続ける事はできません。時には休息は必要なんです」
「ああそうだな。今日はいい天気だ」
リーストファー様は両手を広げている。
「はい、とても気持ち良いですね」
私は心地良い風を感じる。
リーストファー様の手が私の肩に乗った感触を感じ、そして私の肩を抱き寄せ、私の頭はリーストファー様の肩に乗った。
肩を抱かれ、リーストファー様の肩にもたれながら見る景色は一段と綺麗に見える。まだ花が咲いていない青々とした葉、穏やかに揺れる葉が私の心を穏やかにしてくれる。
目を閉じるとリーストファー様の息遣いが聞こえ、リーストファー様の温もりが頭から伝わる。そしてまた私の心は穏やかになる。
私の頭とリーストファー様の頭がコツンとぶつかり、重なる頭から距離の近さを感じ、そしてお互いの気持ちが伝わる。
これを幸せと呼ばずなんと呼ぼう。
「いつもありがとな」
近くから聞こえる穏やかな声は、私の頭の中を響かせる。
「こちらこそいつもありがとうございます」
私の肩を抱く手に少し力が入った。
「悪かったな」
「なにがです?」
「何もかもだ」
きっとその『何もかも』には、褒美で私を得た事や、初めの頃の態度、婚姻式もしていないのに一緒に暮らし始めた事、挙げればきりがないかもしれない。
でも今はそれも良い思い出。
「こんな俺の妻になってくれてありがとう」
私は手をリーストファー様の膝の上に乗せた。
「私の夫になって下さりありがとうございます」
そして私達は同じ景色を見つめる。お互いの顔は見えない。それでもきっとお互い穏やかな顔をしている。私達二人を包む優しさを帯びた風が私達の心を表しているかのように。
リーストファー様の膝の上に置いた私の手に、リーストファー様の手が重なる。ギュッと握るその手に私は自然と微笑む。
そして私は、私の肩を抱いているリーストファー様の手に手を重ねる。自然と絡む指。そして私はリーストファー様に体を預ける。
言葉は必要ない。二人を纏う空気だけでその意味は分かる。
「俺もそろそろ夫の役目を果たさないとな」
「そうですね、婚姻式も来月ですし、二人で使うベッドも届きました。リーストファー様の部屋も家具が揃いましたよ?」
「ち、違うぞ?」
繋がる手や指に少し力が入り、ドクンドクンと大きな音を奏でるリーストファー様の鼓動。重なる頭が一旦離れ、そしてまた重なった。顔が見えなくても分かる。真っ赤な顔をしていると。
そしてリーストファー様には見えない。冷静そうに見えて私の顔も真っ赤な顔をしていると。
「違いました?」
「違わない、いいのか?」
「はい、私が貴方の妻になりたいんです」
リーストファー様は私の肩をギュッと抱き寄せた。
「俺の妻になってほしい」
「はい、お願いします」
私はリーストファー様の膝の上で重なるリーストファー様の指を自分の指と絡めた。
「俺も夫だ、もうそろそろ働きに出ようと思う。いつまでも遊んで暮らす事はできない。足はまだこんなだが、こんな足でも働ける所を探してみる」
「あ!伝えるのを忘れていました」
私はリーストファー様に預けていた体を起こし、リーストファー様を見つめる。
「リーストファー様が落ち着いてからと伝えるのを忘れていました。リーストファー様は私のお父様が持つ爵位を譲り受けました。領地もあります。後はリーストファー様のサインだけで、リーストファー様は伯爵です。もうアンセムを名乗れませんが…」
「それはいい、元々名乗るつもりもなかった。それよりもどうしてそんな大事な事を教えてくれなかった」
「リーストファー様にお伝えしても受け止めるだけの心がないと思ったからです。実際そんな余裕はありませんでした」
「確かにそうだが」
「娘が可愛くて仕方がない親馬鹿からの結婚祝いだと思って受け取って下さい」
「以前の俺なら馬鹿にするなと言ったと思う。だが今は素直にありがたいと思う」
リーストファー様は私を抱きしめた。
「公爵に伝えてほしい。『お義父上の大切なものを俺の全てを掛けて大切にします。伯爵位ありがたく譲り受けさせて頂きます』と。
ありがとう」
私は顔を横に振った。
「大切にする」
「私も大切にします」
リーストファー様に抱きしめられ私もリーストファー様の背に手を回した。
「あ……」
「どうしました?」
「いや、大切にする」
リーストファー様は私をギュッと抱きしめ私の首筋に顔を埋めた。
どれだけ時が経ったのだろう、きっと寸刻。それでも時が止まったように感じた。
リーストファー様は私の首筋に口づけをし私から離れた。
「顔が赤いぞ?」
悪戯っ子のような顔で笑うリーストファー様。
私は口づけされた首筋に手を当てた。
「不意打ちはずるいです」
「俺の奥さんは可愛いな」
幸せそうに笑うリーストファー様と、首筋に手を当て真っ赤な顔を俯けた私。そしてリーストファー様はまた私の肩を抱き寄せ、私はリーストファー様に身を預けた。
「ああ、今日は天気がいいな」
リーストファー様の穏やかな声に私は目を閉じた。いつまでもリーストファー様の温もりを感じていたくて…。
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