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十八章ならず者国家
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その晩、白井と夕食を食べるために黄金宮に仕方なく向かった。目が痛くなるキラキラな背景が嫌だが、白井との約束なので無碍にはできない。
大食堂とやらに足を踏み入れると、キラキラな広い空間に豪華な細長いテーブルが一つ。クロスの上には洒落た銀盆に乗った水差しと高級果物やバラの花瓶。格式高いレストランとかで見かける椅子や机。派手なペルシャ絨毯風な床。これだけで金がかかってそう。
そもそも、お互いにテーブルの端に座ってその距離が10M以上あるとか、漫画やドラマでしか見た事がなかったが実際あるもんだな。相手の会話聞こえづらそう。まあ、俺としてはムカつく野郎とは距離をとりたかったので丁度良い。
最初は毒でも入れられていたらと警戒していたが、白井が嫁にそんなものを入れるわけがないだろうと呆れられた。いやいや、毒はないとしても媚薬とかその手のモンを入れられる可能性があるだろうが。油断ならんよ。
運ばれてくる料理はどれも最高級のフレンチだかイタリアンだかのコース料理だが、自分的にはガッツリ唐揚げとか牛丼とかを食いたい気分だったのであまり食が進まなかった。美味いっちゃ美味いが、日本食がいいんだけどな。
「おい、俺様の皿に大嫌いなピーマンいれんじゃねえって何度言ったらわかる!」
「も、申し訳ございませんっ!」
「使えねえ使用人共だな。せっかく我が嫁を連れてきた初日だっつうのにメシが不味く感じる。このゴミ使いめが」
「ほ、本当に申し訳ございませんっ!」
飯食ってる最中に使用人に当たり散らす内容がしょうもないものだ。ピーマン嫌いとかいくつだよこいつ。俺は好きなんだけどピーマン。
「あとこの肉どこの産地だ!和牛じゃねえな!?外国産のをあれほど使うなって言ったのを忘れたのか!能無しが!」
「重ね重ね本当に申し訳ございません!」
はあ。こいつがうるせーからメシがまずくなるのであって、俺は席を立ち上がった。使用人が怒られているのを見ながら食えるほど俺は神経は図太くない。外国産でも美味けりゃなんだっていいのによ、つか朝からよくそんな分厚い肉食えるよな。
「もう終わりか。食欲がないのか」
「それもある。あと高級料理はあんまり好きじゃないんでね」
それはあくまで建前だ。この重苦しい中で食事なんぞできるわけがない。怒鳴られた使用人がびびって泣いているじゃねえか。
「口に合わなかったようだな。なら、今日のコック全員クビにしておく」
「……は?」
「「そ、そげなぁあ!!」」
コック一同がさらに悲鳴をあげて泣いている。俺は見ていられなかった。
「おい。そんなつまんねー事で全員クビにすんなドアホが!」
150年前より俺は変わったとかほざきながら、わがまま好き放題な所が変わったとはとても思えん。このデカいガキを相手にしている使用人達が可哀想だな。
「ピーマンを出した事と肉を外国産にする不始末を犯したんだ。クビにするのは当たり前だろう。それにお前が好きじゃない料理を出した。当然だ」
「失敗は誰にでもあんだろーが。ピーマン出したのは情報が行き届いてなかったとかそういうのだろ。俺が好きじゃない料理も事前に訊かれたわけじゃねーのにそれだけでクビとか優しさが欠如してんな」
「なんだと。これでも優しくしているだろうが」
「どこがだ。俺は変わったとか言いながら、もう一人の俺の記憶を共有すればなんも変わってなさそうじゃねえか。ピーマンくらいで文句言えるお前の幼稚さが笑えるぜ」
「っ……!」
白井は近づいてきて頭上に手をあげようとする。
「殴るのか?気に食わないから妻を躾と称してまた150年前みたいに」
「っ……生意気な妻になったな」
「生意気だよ俺は。思った事がすぐ口に出るんでね。150年前のような口答えはせず、言われた事はNOと言わずに黙って行い、てめえのご機嫌とって尽くしてくれる大人しい甘ちゃん奴隷嫁だと思ったら大間違いだ」
俺が強く睨みながら言い放つと、白井はムッとした表情を見せながらもぐっと抑えて黙った。
「今までてめえのまわりには、てめえが怖くて文句も言えずに都合のいいイエスマンしかいなかったんだろうが、俺は都合よく忖度なんてしねえし、思った事はズバッと言うのでそのつもりで」
使用人に当たり散らすわ、すぐにクビにしようとするわ、初期の頃の直以上に俺様でわがまま野郎だな。150年前の奴ならここで手が出ていたんだろうが、本当のことをズバッと言われて暴力に走らずに我慢した所は少しは成長したようだ。知らんけど。
「てことで明日、Eクラスの皆とちゃんと逢わせろよ、白井サマ」
「っ……わかっている。明日は俺様は何かと忙しいから代わりの従者に日本人街を案内させるつもりだ。ああ、そうそう」
白井は思い出したようにこちらを見てニヤつく。
「結婚するまでは手を出さないでおいてやる。妻を労わる事もできるようになったからな。お前には優しいだろ?俺サマ」
「自分で優しいとか言うなクソが。まずはもっと我慢する事を覚えて使用人を労われるようになってから言えっつうの」
こいつと初夜を迎える事は懸念材料ではあったが、結婚後だという話で少しほっとした。いくら見た目が黒崎大和で直にそっくりだとはいえ、奴は直ではないし、最低最悪な白井だ。直以外の者と体を繋げるなんてやっぱり嫌だったから、猶予が伸びただけ心の準備ができるというもの。それでもいつかは奴との初夜がくると思うと憂鬱ではあるが。
「ああ、ちなみに結婚式は三か月後だからその時が楽しみだな」
「あーソウデスカ。ソリャタノシミデゴザンスネ」
三か月後か。随分急なような、前から準備していたからなのか知らんが、俺の一途に愛した直への想いも三か月後には終わるという事か……。
あんな風に別れを告げてしまったけれど、直は元気でいてくれたらなと思う。いや、元気ではないだろう。きっとショックを受けて廃人のようになっているかもしれない。子供達だって泣いているかもな。
そう自分で決めて仕向けたとはいえ、どうか俺の事でこれ以上傷ついて泣いてほしくないなとは思う。
大食堂とやらに足を踏み入れると、キラキラな広い空間に豪華な細長いテーブルが一つ。クロスの上には洒落た銀盆に乗った水差しと高級果物やバラの花瓶。格式高いレストランとかで見かける椅子や机。派手なペルシャ絨毯風な床。これだけで金がかかってそう。
そもそも、お互いにテーブルの端に座ってその距離が10M以上あるとか、漫画やドラマでしか見た事がなかったが実際あるもんだな。相手の会話聞こえづらそう。まあ、俺としてはムカつく野郎とは距離をとりたかったので丁度良い。
最初は毒でも入れられていたらと警戒していたが、白井が嫁にそんなものを入れるわけがないだろうと呆れられた。いやいや、毒はないとしても媚薬とかその手のモンを入れられる可能性があるだろうが。油断ならんよ。
運ばれてくる料理はどれも最高級のフレンチだかイタリアンだかのコース料理だが、自分的にはガッツリ唐揚げとか牛丼とかを食いたい気分だったのであまり食が進まなかった。美味いっちゃ美味いが、日本食がいいんだけどな。
「おい、俺様の皿に大嫌いなピーマンいれんじゃねえって何度言ったらわかる!」
「も、申し訳ございませんっ!」
「使えねえ使用人共だな。せっかく我が嫁を連れてきた初日だっつうのにメシが不味く感じる。このゴミ使いめが」
「ほ、本当に申し訳ございませんっ!」
飯食ってる最中に使用人に当たり散らす内容がしょうもないものだ。ピーマン嫌いとかいくつだよこいつ。俺は好きなんだけどピーマン。
「あとこの肉どこの産地だ!和牛じゃねえな!?外国産のをあれほど使うなって言ったのを忘れたのか!能無しが!」
「重ね重ね本当に申し訳ございません!」
はあ。こいつがうるせーからメシがまずくなるのであって、俺は席を立ち上がった。使用人が怒られているのを見ながら食えるほど俺は神経は図太くない。外国産でも美味けりゃなんだっていいのによ、つか朝からよくそんな分厚い肉食えるよな。
「もう終わりか。食欲がないのか」
「それもある。あと高級料理はあんまり好きじゃないんでね」
それはあくまで建前だ。この重苦しい中で食事なんぞできるわけがない。怒鳴られた使用人がびびって泣いているじゃねえか。
「口に合わなかったようだな。なら、今日のコック全員クビにしておく」
「……は?」
「「そ、そげなぁあ!!」」
コック一同がさらに悲鳴をあげて泣いている。俺は見ていられなかった。
「おい。そんなつまんねー事で全員クビにすんなドアホが!」
150年前より俺は変わったとかほざきながら、わがまま好き放題な所が変わったとはとても思えん。このデカいガキを相手にしている使用人達が可哀想だな。
「ピーマンを出した事と肉を外国産にする不始末を犯したんだ。クビにするのは当たり前だろう。それにお前が好きじゃない料理を出した。当然だ」
「失敗は誰にでもあんだろーが。ピーマン出したのは情報が行き届いてなかったとかそういうのだろ。俺が好きじゃない料理も事前に訊かれたわけじゃねーのにそれだけでクビとか優しさが欠如してんな」
「なんだと。これでも優しくしているだろうが」
「どこがだ。俺は変わったとか言いながら、もう一人の俺の記憶を共有すればなんも変わってなさそうじゃねえか。ピーマンくらいで文句言えるお前の幼稚さが笑えるぜ」
「っ……!」
白井は近づいてきて頭上に手をあげようとする。
「殴るのか?気に食わないから妻を躾と称してまた150年前みたいに」
「っ……生意気な妻になったな」
「生意気だよ俺は。思った事がすぐ口に出るんでね。150年前のような口答えはせず、言われた事はNOと言わずに黙って行い、てめえのご機嫌とって尽くしてくれる大人しい甘ちゃん奴隷嫁だと思ったら大間違いだ」
俺が強く睨みながら言い放つと、白井はムッとした表情を見せながらもぐっと抑えて黙った。
「今までてめえのまわりには、てめえが怖くて文句も言えずに都合のいいイエスマンしかいなかったんだろうが、俺は都合よく忖度なんてしねえし、思った事はズバッと言うのでそのつもりで」
使用人に当たり散らすわ、すぐにクビにしようとするわ、初期の頃の直以上に俺様でわがまま野郎だな。150年前の奴ならここで手が出ていたんだろうが、本当のことをズバッと言われて暴力に走らずに我慢した所は少しは成長したようだ。知らんけど。
「てことで明日、Eクラスの皆とちゃんと逢わせろよ、白井サマ」
「っ……わかっている。明日は俺様は何かと忙しいから代わりの従者に日本人街を案内させるつもりだ。ああ、そうそう」
白井は思い出したようにこちらを見てニヤつく。
「結婚するまでは手を出さないでおいてやる。妻を労わる事もできるようになったからな。お前には優しいだろ?俺サマ」
「自分で優しいとか言うなクソが。まずはもっと我慢する事を覚えて使用人を労われるようになってから言えっつうの」
こいつと初夜を迎える事は懸念材料ではあったが、結婚後だという話で少しほっとした。いくら見た目が黒崎大和で直にそっくりだとはいえ、奴は直ではないし、最低最悪な白井だ。直以外の者と体を繋げるなんてやっぱり嫌だったから、猶予が伸びただけ心の準備ができるというもの。それでもいつかは奴との初夜がくると思うと憂鬱ではあるが。
「ああ、ちなみに結婚式は三か月後だからその時が楽しみだな」
「あーソウデスカ。ソリャタノシミデゴザンスネ」
三か月後か。随分急なような、前から準備していたからなのか知らんが、俺の一途に愛した直への想いも三か月後には終わるという事か……。
あんな風に別れを告げてしまったけれど、直は元気でいてくれたらなと思う。いや、元気ではないだろう。きっとショックを受けて廃人のようになっているかもしれない。子供達だって泣いているかもな。
そう自分で決めて仕向けたとはいえ、どうか俺の事でこれ以上傷ついて泣いてほしくないなとは思う。
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