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十八章ならず者国家

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 白井の後に続いて数分、島全体を見おろせる高台へやってきた。家の種類は瓦屋根があったり、レンガの家があったり、木造のバラック小屋だったり、遊牧民みたいなゲルタイプだったりと、土地ごとに分けられて建っている。育った国によって家の雰囲気が違うのは人種ごとに判別しやすくするためだと言っていた。

 その家々のメインストリートを真っすぐ突き抜けて進むと、ここより高い高台に大きな宮殿が建っている。すっげぇ豪華な宮殿だなと見ていると、あれが白井を王とする自宅なんだと。

 高台から眼下の平民を一望とはマジで王様気取りだな。しかも宮殿が全部金で作られているとかどんだけだよ。無駄な所に金かけてんなと平民育ちの俺は思う。

 150年も生きて日本を影から牛耳ってりゃあ金も有り余っているってやつか。牧田の話では総資産は数京以上とか聞いたんだが、数京以上ってなんやねん。聞いたこともない桁だぞ。兆以上とかありえねえっつうの。

 もはや日本の矢崎財閥が霞んで見えてくる桁違いの総資産である。まあそんな事はいいとして。

「Eクラスの皆はどこだよ。早く逢わせろ」
「心配しなくてもクラスメートとの再会は明日にさせてやる。全員無事だ。今日は我慢して我が家で大人しくしていろ」
「家って……やっぱあの黄金の宮殿かよ。キラキラしすぎて目が痛くなりそうなんだけど」
「お気に召さないか?」
「するわけないだろ。黄金なんて落ち着かないし、普通の和風の一軒家にしてくれ」
「ふふ、やはり150年前に住んでいた茅葺屋根の家がいいか。そう思って離れに茅葺屋根の別荘があるからそこで生活しろ。何不自由のない生活をさせてやる。世話係の小間使いを数人つけてやるから欲しいものがあればそいつに言え」
「や、小間使いとかいらねーし。鬱陶しい」

 そんなもんがいたらのんびりエロゲも出来なさそうじゃねえか。誰かいると思うと鼻くそも堂々とほじれないし、屁もこけないし、シコれない環境なんて嫌である。

「小間使いがいて当たり前の生活になっておかないと今後苦労するのはお前だぞ」
「嫌なモンは嫌だっつうの。自分の事は自分でするのでお構いなく」


 離れに住む事は了承されたが、食事の時間だけは黄金宮の大食堂に来るようにと言われた。面倒くせーな。広すぎる上にどこもキラキラしすぎて目が痛い場所に行くのは嫌である。だが、今後夫婦となっていくのだから食事くらいは共にしてもらうと強引に決定させられた。

 黄金宮の中は思った通り広くて海外の宮殿ホテルの上位互換て感じだ。いくら金掛けたんだってくらい華やかな噴水広場にバラ園にプールに他いろいろ。庭に孔雀やリスなどがいる。しかも品種は絶滅危惧種らしい。どっから捕まえて来たんだよ。

 まるでベルサイユ宮殿をゴテゴテにした感じだな。お貴族様になれってか。離れで明日まで引きこもるわ。


「甲斐様、本日より甲斐様のお世話をさせていただきます」
「は……」

 茅葺屋根の和風離れに到着すると、侍女か女中か知らんが、アジア風の女数人が俺の専属の小間使いだと紹介された。なぜ全員女なんだと聞いたら、お前に悪い虫が付かないように女にしたとかなんとかほざかれた。普通性別逆にするもんじゃね。どんだけ俺が魔性の男たらしだと思われてんだよ。

「さっそくですが甲斐様、大浴場で湯浴みの方を済ませてくださいませ」
「いや……別に風呂なんて後で」
「甲斐様は大事な白井様の奥方様になられるのです。白井様が惚れ惚れするほど綺麗なお肌にするべく、私どもが隅々まで綺麗に致しますわ。まずは全身を精油でピカピカにして髪や体には特製クリームをば」
「いやいやいや。綺麗な肌とか髪とか余計なお世話でございます。野郎に綺麗な肌もクソもございません。普通のシャンプーとリンスとかでいいっす」
「まあ!女性のようにスベスベな肌や御髪にして綺麗なドレスを着ていただかないと白井様が可哀想ですわ」
「意味わからん。野郎なのにドレス着せられる俺の方が可哀想だろ。キモヲタにドレスはいらねーんだよ。鬱陶しい」
「そんなはしたない言葉を使うのはいけませんわ!奥方様になられるのですから言葉遣いには気を付けてくださらないと。でなければ白井様にふさわしい淑女になれませんわよ」
「フサワシイ淑女ってなんやねん。野郎にそんなもん求めるなよ。あとふさわしくなくて結構。うっぜぇな」
「んまっ!なんて品性のない!わたくしが徹底的に教育をしてあげますをば!」

 侍女連中は俺のベルトを取って、あろう事かズボンごとパンツまでおろそうとしやがった。

「ぎええっ!!男なのに淑女なんかになるか!出て行けーーっ!!」
「「キャアアーー!!」」

 しつこいバカ侍女にゴキおもちゃを投げつけてなんとか追い出した。スケベ野郎からすればAVみたいなシチュでご褒美なんだろうが、まともな野郎からすれば女集団に隅々までゴシゴシされるなんてあまりに拷問だ。あと奥方だからって肌を綺麗にとかドレスだとかアホかと思う。いくら元母親として女装はしていたとはいえ、俺にそんな趣味はねえからな。

 ちなみにいつもポケットに入れているゴキおもちゃは武器だとみなされなかったのか没収されなかった。なんでだ。

 その後、小間使いはちゃんといらないと判断されたのかゴキおもちゃにビビったのか知らないが、誰も来なくなったのでホッとする。

 しかし、タンスの中を見ればどれも女モノでしかも下着まで女モノだったので、またブチギレそうになった。なんでどれも下着がベビー●ールなんだよ。ふざけんなよくそが。小間使いのくせして全然小間使いしてくれねえ。

「ああ、甲斐様!そちらは客間でございますのでどうかお戻りください」
「うるせえ」
「甲斐様、それは男性モノのお着物でございまして、奥方様にはもっとふさわしいドレスが」
「黙れ。ドレスなんかいるか。俺、アイアム男。女モノ、ノーセンキュー」


 小間使いの制止を振り切って客間にある部屋を次から次へと物色。ちゃんとあるじゃねえか男モノ。女モノしかねえとか嘘つきやがってムカつくわ。

 とりあえず着れそうな服と下着を何着か強奪して離れの家に持って帰る。女モノしかくれないなんて白井からの嫌がらせなんじゃないかと思った。

 それから離れでのんびり風呂を沸かして入っていると、小間使いがまた俺を綺麗な淑女にさせようと侵入してきたのでゴキおもちゃで撃退。まだあきらめてなかったのかバカ侍女共。あいつらの頭はお花畑か。

 俺は身の回りの事が全くできねえ無能貴族令嬢じゃねーんだぞ全く。金持ち成金扱いされるのは性に合わん。白井のクソ野郎に徹底的にクレームを入れまくってやる。そんでもってバカ侍女侵入対策として、ゴキおもちゃの罠を大量に作っておこうと決めたのであった。
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