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【続編】
43:行かないでと願った日々
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「パトリシア……」
「は、はいっ」
「そんなに見つめないでくれ」
「……!」
私から視線を逸らしたアズレークの目元がほんのり赤くなっている。私がじっと見つめてしまったので、照れている……?
照れていると思う。クールなアズレークのこんな表情。頬が緩みそうになる。
視線を逸らしたままのアズレークは、今度は少しだけ頬を染め、この状況を打破しようと私に尋ねた。
「……ソファに、座っても?」
「も、もちろんです」
アズレークが部屋の中に入り、扉がパタンと閉まる。
すたすたと歩いて行くその後ろ姿を見ると。
プラサナスで過ごした日々を思い出す。
魔力を送ってもらい、それが終わるとすぐに部屋を出て行ってしまうアズレークを見て。何度も「行かないで」と心の中で叫んでいた日々が懐かしくなる。
「パトリシア?」
プラサナスの時と違い、アズレークはすぐに立ち止まりこちらを振り返る。黒い瞳には気遣いが読み取れ、それだけで胸がキュンとしてしまう。それどころか私のそばまで戻って来ると……。
「どうした、パトリシア?」
両腕を私の背に回し、優しく抱き寄せた。
温かいその胸の中に包まれ、言葉にできない安心感で満たされる。
プラサナスの地では。
こうやって抱き寄せてくれることを何度も願った。
それが今、叶えられている……。
嬉しくてその胸に顔を押し当てると。
アズレークは腕に力を込め、私のことをギュッと抱きしめる。
「……アズレークの後ろ姿を見たら、プラサナスの屋敷で過ごした日々を思い出したの」
「後ろ姿を見てか?」
私はこくりと頷く。
「……もう魔力を送られても、体から力が抜けなくなって、熱さで頬が火照ることがなくなったら……。アズレークはすぐ私に背を向け部屋を出て行ってしまうから、寂しかったの。行かないで……って」
「パトリシア」
アズレークが再び力強く私を抱きしめる。
「……本当はパトリシアのことを抱きしめたかった。離れたいとは思っていない。限りなく冷たく見えていただろうが。私の胸のうちは狂おしい思いで嵐が吹き荒れていた」
「アズレーク……」
「私の心はずっとパトリシアを求めていた」
背に回されていた手が、私の顎を優しく持ち上げた。
見上げたアズレークの瞳には、焦がれるような熱が浮かんでいる。
自然と瞼が閉じ、彼の唇が私の唇に重なった。
その瞬間。
お互いのことを想いながらも、決して触れ合うことのなかった日々が長かった分。こうやって触れ合うことが出来る今に、全身が喜びで震えている。それはアズレークも同じなのだろう。何度も何度も私を抱きしめ、キスを重ねた。
「は、はいっ」
「そんなに見つめないでくれ」
「……!」
私から視線を逸らしたアズレークの目元がほんのり赤くなっている。私がじっと見つめてしまったので、照れている……?
照れていると思う。クールなアズレークのこんな表情。頬が緩みそうになる。
視線を逸らしたままのアズレークは、今度は少しだけ頬を染め、この状況を打破しようと私に尋ねた。
「……ソファに、座っても?」
「も、もちろんです」
アズレークが部屋の中に入り、扉がパタンと閉まる。
すたすたと歩いて行くその後ろ姿を見ると。
プラサナスで過ごした日々を思い出す。
魔力を送ってもらい、それが終わるとすぐに部屋を出て行ってしまうアズレークを見て。何度も「行かないで」と心の中で叫んでいた日々が懐かしくなる。
「パトリシア?」
プラサナスの時と違い、アズレークはすぐに立ち止まりこちらを振り返る。黒い瞳には気遣いが読み取れ、それだけで胸がキュンとしてしまう。それどころか私のそばまで戻って来ると……。
「どうした、パトリシア?」
両腕を私の背に回し、優しく抱き寄せた。
温かいその胸の中に包まれ、言葉にできない安心感で満たされる。
プラサナスの地では。
こうやって抱き寄せてくれることを何度も願った。
それが今、叶えられている……。
嬉しくてその胸に顔を押し当てると。
アズレークは腕に力を込め、私のことをギュッと抱きしめる。
「……アズレークの後ろ姿を見たら、プラサナスの屋敷で過ごした日々を思い出したの」
「後ろ姿を見てか?」
私はこくりと頷く。
「……もう魔力を送られても、体から力が抜けなくなって、熱さで頬が火照ることがなくなったら……。アズレークはすぐ私に背を向け部屋を出て行ってしまうから、寂しかったの。行かないで……って」
「パトリシア」
アズレークが再び力強く私を抱きしめる。
「……本当はパトリシアのことを抱きしめたかった。離れたいとは思っていない。限りなく冷たく見えていただろうが。私の胸のうちは狂おしい思いで嵐が吹き荒れていた」
「アズレーク……」
「私の心はずっとパトリシアを求めていた」
背に回されていた手が、私の顎を優しく持ち上げた。
見上げたアズレークの瞳には、焦がれるような熱が浮かんでいる。
自然と瞼が閉じ、彼の唇が私の唇に重なった。
その瞬間。
お互いのことを想いながらも、決して触れ合うことのなかった日々が長かった分。こうやって触れ合うことが出来る今に、全身が喜びで震えている。それはアズレークも同じなのだろう。何度も何度も私を抱きしめ、キスを重ねた。
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