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【続編】

42:トレードマークは黒だけど

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バスルームを出た後、寝室の隣の応接室に向かった。
そこのソファに腰を下ろし、アズレークが来るのを待つことにした。手持ち無沙汰なので例の番(つがい)の本を読むことにする。

聖獣の血を色濃く受け継ぐ者は、自身の番(つがい)が別の男性に触れられることを嫌うという部分まで読んでいる。そこの続きから読もう。

クロス張りの美しい藍色の表紙を開き、パラリ、パラリとページをめくる。

さっきの続きは……。ここだわ。
書かれている文章を目で追う。

――「銀狼(シルバーウルフ)、天馬(ペガサス)、鷲獅子(グリフォン)などの聖獣の血を継ぐ者は、自身の番(つがい)に対し、マーキングとも言える行動をよくとることで知られている。犬や猫と違い、人間の姿をとる彼らは、自身の番(つがい)を頻繁に抱きしめる。そうすることで、自身の魔力を番(つがい)にまとわせるのだ。このことで唯一無二の存在であると自身の番(つがい)をアピールすることにつながる。これは先祖となる聖獣が行っていた行動であり、本能的に刷り込まれた行動。なおこのマーキング行動は、前述した聖獣以外でも、聖獣の血を継ぐ人間全般で、頻繁に見られる行動であることも付記しておく。」

なるほど。
抱きしめて自身の魔力をまとわせる。
そんなことまでするなんて、本当に大好きなのね、番(つがい)のことを。アズレークはどうなのだろう? よく抱きしめてくれるけど。でもそれは愛し合う二人ならよくする行動よね。

そんなことを思いながら、さらにページをめくろうとすると、扉をノックする音が聞こえる。

アズレーク!

嬉しくなり小走りで扉へと向かう。ワクワクしながら扉を開けると。

「え!?」

そこにいるのはアズレークだ。
アズレークなのだが……。

「アズレーク、どうしたの!?」

思わず尋ねずにはいられない。

彼のトレードマークと言えば、黒。
黒髪に黒曜石のような瞳。身にまとう衣装もすべて黒。
それがアズレークなのに。

「不服か?」
「いえ、驚いただけです」
「……いつも黒と言うから」
「そう、ですよね……」
「黒に戻すか?」
「!? せ、せっかくなのでそのままで……」

そう。
アズレークといえば黒なのに。

今、私の目の前にいるアズレークは襟元は白、全体はシルバーグレーの厚手のナイトガウンを着ていたのだ。驚いた。ただそれだけで雰囲気が変わる。いや、違う。

入浴してまだ時間がそこまで経っていない。
だから髪型もいつもと違うように思える。
サラサラの黒い前髪も分け目が変わっていた。
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