61 / 251
61:本音と建前
しおりを挟む
プラサナス城滞在四日目の朝を迎えた。
今晩、小ホールのゴーストを対処できれば、ゴースト退治は完了となる。
となればいよいよ廃太子計画の遂行だ。
廃太子計画の遂行。
自分が何をしようとしているのか。
それを考えると。
一気に緊張感が高まる。
だが、まずは今日のゴースト退治だ。
小ホールにいるゴーストを退治する。
そう思っていたのだが。
アルベルト達は今日一日、プラサナスの自然を視察するという。
自然を視察?と思ったが、この地で一番大きな川を視察し、魚を観察し(という名の釣り)、自然の恵みを確認する(という名の釣った川魚を調理して食べる)という。
つまり今日は釣りをして釣った魚を味わうという、とても緩い予定だった。そしてこの予定にも同行しないかと尋ねられた。
建前では、自分の立場を考えると、アルベルトや三騎士との距離が縮まるようなイベントに参加するのは止めた方がいい、だ。
しかし本音では……行きたい。そう思っていた。川魚釣りなんてやったことがないので、釣れるかどうか分からない。でも話を聞くだけで、みんなでワイワイ楽しそうだ。それにきっと三騎士はそつなく魚を釣り上げ、私のような釣り初心者、釣れない初心者の分も、釣り上げてくれるはずだ。
気分は盛り上がるが……断るしかないだろう。
そう思ったのだが。
断る理由が思いつかなかった。
後から思い返せば、図書室でゴーストについて調べたいから、とか、夜のゴースト退治に備え練習をしたいから、と、理由なんていくらでも思いつくはずだ。
でも、この時の私は……多分、行きたいという気持ちが勝(まさ)っていたのだろう。だからお断りする理由を、思いつくことができなかった。
街に用事がある……と答えようとしたが、でもそれなら昨日、街へ行ってしまった。昼寝をしたい……と答えたら、一日中寝るつもり!?と突っ込まれそうだ。
そんな風に考え、その結果。
「分かりました。行きます」
そう答え、それを聞いたスノーは「わーい」と喜んでいた。
朝食を終え、部屋に戻ると。
「まさか釣りに行くことに、オリビアさまが同意されるとは思いませんでした!」
部屋に戻るなりスノーに指摘され、私は困ったように頭を掻く。
「そうよね。驚いたわよね。でもまあ、もう返事をしてしまったから。準備をしましょう」
まずは着替えを行った。
釣りに行くのだからと、くるぶし丈のワンピースを着ることにした。色はローズレッド。その上にフード付きのロングケープ。色はシャンパンカラー。スノーも勿論お揃いだ。
するとそこに、マルクスがやってきた。
いつものごとく、馬での移動になるので、アルベルトの様子を見て欲しいと言う。
私としては、明日にでも実行することになる廃太子計画の前に、アルベルトの部屋に入れ、かつ寝室の最終確認ができる。だから「喜んで協力します」とアルベルトの部屋へ向かった。
寝室の状況を確認しつつ、聖女の祈りの言葉と光を使い、これまで同様、両肩に広がっているという不穏なオーラを、抑えるようにした。
◇
視察としてこれから向かうイサバル川は、プラサナスの地を横断するように流れている川で、総延長は72キロほどある。水源となっている山には、落差300メートルの壮麗な滝があると言われていた。
プラサナス城からは、街を抜け、馬車で15分ぐらいの場所に、イサバル川は流れている。城からのアクセスは、抜群だ。
川に着くと、三騎士は簡易の天幕をはり、そこに椅子を並べた。そしてスノーと私に、そこへ座るように勧めた。つまり、私達は釣りをするみんなを眺める、ギャラリーの扱いだったのだが。せっかくなので挑戦してみたい、と申し出ると、三騎士は目を丸くして驚いた。だがアルベルトが「チャレンジ精神旺盛で素晴らしい」と絶賛し、スノーと二人、初めての川魚釣りに挑戦した。
結果は……。全然釣れない。
何か引っ張られるような感じがする!!と思ったら、岩に釣り針が引っ掛かっていたり。スノーの釣り糸と私の釣り糸が絡んでしまうハプニングもあった。
それでも初めての釣りなので、楽しくて楽しくてしょうがなかった。
一方、アルベルトと三騎士は、見事に沢山の魚を釣り上げた。そして同行していたプラサナス城の調理人が、その場で捌いて、次々と美味しそうな料理を作ってくれる。出来立ての魚料理をみんなで食べるのは……とても楽しい。
さらに食後のデザートで焼き林檎が用意され、それも絶品だった。良く晴れた空の下で食事をすると、どんな料理でも3割増しになっている気がする。とにかく満腹になり、帰りの馬車でスノーと私は、お互いに肩を寄せ合い、ウトウトと昼寝していた。
今晩、小ホールのゴーストを対処できれば、ゴースト退治は完了となる。
となればいよいよ廃太子計画の遂行だ。
廃太子計画の遂行。
自分が何をしようとしているのか。
それを考えると。
一気に緊張感が高まる。
だが、まずは今日のゴースト退治だ。
小ホールにいるゴーストを退治する。
そう思っていたのだが。
アルベルト達は今日一日、プラサナスの自然を視察するという。
自然を視察?と思ったが、この地で一番大きな川を視察し、魚を観察し(という名の釣り)、自然の恵みを確認する(という名の釣った川魚を調理して食べる)という。
つまり今日は釣りをして釣った魚を味わうという、とても緩い予定だった。そしてこの予定にも同行しないかと尋ねられた。
建前では、自分の立場を考えると、アルベルトや三騎士との距離が縮まるようなイベントに参加するのは止めた方がいい、だ。
しかし本音では……行きたい。そう思っていた。川魚釣りなんてやったことがないので、釣れるかどうか分からない。でも話を聞くだけで、みんなでワイワイ楽しそうだ。それにきっと三騎士はそつなく魚を釣り上げ、私のような釣り初心者、釣れない初心者の分も、釣り上げてくれるはずだ。
気分は盛り上がるが……断るしかないだろう。
そう思ったのだが。
断る理由が思いつかなかった。
後から思い返せば、図書室でゴーストについて調べたいから、とか、夜のゴースト退治に備え練習をしたいから、と、理由なんていくらでも思いつくはずだ。
でも、この時の私は……多分、行きたいという気持ちが勝(まさ)っていたのだろう。だからお断りする理由を、思いつくことができなかった。
街に用事がある……と答えようとしたが、でもそれなら昨日、街へ行ってしまった。昼寝をしたい……と答えたら、一日中寝るつもり!?と突っ込まれそうだ。
そんな風に考え、その結果。
「分かりました。行きます」
そう答え、それを聞いたスノーは「わーい」と喜んでいた。
朝食を終え、部屋に戻ると。
「まさか釣りに行くことに、オリビアさまが同意されるとは思いませんでした!」
部屋に戻るなりスノーに指摘され、私は困ったように頭を掻く。
「そうよね。驚いたわよね。でもまあ、もう返事をしてしまったから。準備をしましょう」
まずは着替えを行った。
釣りに行くのだからと、くるぶし丈のワンピースを着ることにした。色はローズレッド。その上にフード付きのロングケープ。色はシャンパンカラー。スノーも勿論お揃いだ。
するとそこに、マルクスがやってきた。
いつものごとく、馬での移動になるので、アルベルトの様子を見て欲しいと言う。
私としては、明日にでも実行することになる廃太子計画の前に、アルベルトの部屋に入れ、かつ寝室の最終確認ができる。だから「喜んで協力します」とアルベルトの部屋へ向かった。
寝室の状況を確認しつつ、聖女の祈りの言葉と光を使い、これまで同様、両肩に広がっているという不穏なオーラを、抑えるようにした。
◇
視察としてこれから向かうイサバル川は、プラサナスの地を横断するように流れている川で、総延長は72キロほどある。水源となっている山には、落差300メートルの壮麗な滝があると言われていた。
プラサナス城からは、街を抜け、馬車で15分ぐらいの場所に、イサバル川は流れている。城からのアクセスは、抜群だ。
川に着くと、三騎士は簡易の天幕をはり、そこに椅子を並べた。そしてスノーと私に、そこへ座るように勧めた。つまり、私達は釣りをするみんなを眺める、ギャラリーの扱いだったのだが。せっかくなので挑戦してみたい、と申し出ると、三騎士は目を丸くして驚いた。だがアルベルトが「チャレンジ精神旺盛で素晴らしい」と絶賛し、スノーと二人、初めての川魚釣りに挑戦した。
結果は……。全然釣れない。
何か引っ張られるような感じがする!!と思ったら、岩に釣り針が引っ掛かっていたり。スノーの釣り糸と私の釣り糸が絡んでしまうハプニングもあった。
それでも初めての釣りなので、楽しくて楽しくてしょうがなかった。
一方、アルベルトと三騎士は、見事に沢山の魚を釣り上げた。そして同行していたプラサナス城の調理人が、その場で捌いて、次々と美味しそうな料理を作ってくれる。出来立ての魚料理をみんなで食べるのは……とても楽しい。
さらに食後のデザートで焼き林檎が用意され、それも絶品だった。良く晴れた空の下で食事をすると、どんな料理でも3割増しになっている気がする。とにかく満腹になり、帰りの馬車でスノーと私は、お互いに肩を寄せ合い、ウトウトと昼寝していた。
応援ありがとうございます!
1
お気に入りに追加
2,198
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる