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49:見かけによらず、ワイルドだな
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見えた。
いきなり。また、モンスターゴースト。
しかも、醜悪なタイプ……。
巨大なナメクジみたいなそれは、動く度にドロドロとした何か粘着質なものを、周囲にまき散らしている。一瞬体が固まったが、すぐスノーに十字架を冠した杖を預け、聖杯を顕現させる。
「聖杯に聖なる水を。遥かなるオケアノスよ、その水を杯に満たせ」
聖杯に聖水……塩水を満たした。
ここまで迅速に動いたが、アズレークの言う通り、モンスターゴーストの動きは緩慢だ。ドロドロとした粘着物をあちこちにつけながら、ゆっくりと噴水の方へと向かっている。
これならば聖杯を投げつけるのではなく、少し近寄り、塩水をまけばいいだろう。
そう判断し、巨大なナメクジ型のモンスターゴーストに、数歩近づいた。聖杯には、アズレークがブリザード魔法をかけてくれている。聖杯から塩水をふりまくと、吹雪のように塩水がモンスターゴーストに向かう。
だからまさに聖杯から塩水を、醜悪なナメクジ型のモンスターゴーストに、吹きかけようとしたが……。
足元にイヤな気配を感じる。
「オ、オリビアさま、あ、足元に小型のナメクジのモンスターゴーストが……!」
スノーの言葉を聞いただけで。
足元を見るより先に、悲鳴を上げていた。
すると。
シュッという音とズサッという音がして、足元の不穏な気配が消えた。
驚いて足元を見ると、石畳に槍が突き刺さっている。
「聖女さま、大丈夫か?」
「は、は……」
はい、と返事をしようとして固まる。
巨大ナメクジ型のモンスターゴーストのひだひだの足元からは……。小型のナメクジのモンスターゴーストが、次々に沸いてきている。
こ、こんなにいるの!?
「マルクスさま、近寄らないでください!」
マルクスを制し、塩水をふりまく。
すると吹雪のように塩水が広がり、一瞬で小型のナメクジの姿が消えていく。
ホッとするのも束の間、私のこの行為に、巨大ナメクジ型のモンスターゴーストが、激怒したようだ。口と思われる場所から、何かを噴出した。
慌てて聖槍を持ち、マルクスやスノーがいるところまで後退した。
「どうした、聖女さま!?」
聖槍を私から受け取ったマルクスが、心配そうに尋ねる。
「巨大ナメクジ型のモンスターゴーストが、口から何かを噴出し始めました」
「それは厄介だな。場所を指定してくれれば、さっきのように槍を投げることもできるが」
それはいいプランだと思ったが。
返事をする前に、再び、口からの噴出が始まる。
「後退してください!」
そう言いながら、慌てて三人で移動する。
動きは緩慢だが、口からの噴出物は飛距離がある。しかも口からの噴出物は、悪臭を放つ黄色の液体。こんなもの、絶対に浴びたくない。
距離をとると、今度は巨大ナメクジ型のモンスターゴーストの足元から、再びわらわらと小型ナメクジのモンスターゴーストが現れる。
最悪だ。
「オリビアさま、再び、小型のナメクジも多数でてきましたよ」
「分かっているわ。スノー」
そう答えてから付け加える。
「多分、親玉を潰せば、小型のナメクジは出てこないハズよ」
そこで私は思いっきり、塩水が入った聖杯を、巨大ナメクジ型のモンスターゴーストに向け、投げたのだが。
「え……」
巨大ナメクジ型のモンスターゴーストは、口から噴出した黄色の液体で、聖杯を吹き飛ばした。
な、なんの、このナメクジ!?
無駄に知能が高くない?
そうしているうちにも、小型のナメクジのモンスターゴーストは増え、さらに口からの噴出も続き、こちらは後退を強いられるばかりだ。
「聖女さま、どうする? 一時撤退するか?」
マルクスに問われ、撤退も考えたその時。
噴水が目に入った。
この噴水に、塩水を満たすのは、どうだろう?
「撤退はしません! 私が合図を出しましたら、この噴水を破壊すること、できますか?」
回廊を走りながら尋ねると、マルクスはニヤリと笑う。
「無論、それはできるが。聖女さまは見かけによらず、ワイルドだな」
ワイルド? そうだろうか。
ワイルドと言えば、マルクスだと思うのだが。
ともかく私はその場で立ち止まると、噴水に手を向け魔法を詠唱した。
「噴水に聖なる水を。遥かなるオケアノスよ、その水を噴水に満たせ」
噴水の淵ぎりぎりまで水かさは増したが、溢れ出ることはない。
「マルクスさま、お願いします」
「おう、任せてくれ」
そう言ったマルクスが、噴水目掛け、槍を投げつけると。
さすが聖槍。
ただの槍であれば、穂が砕け、それでお終いになりそうだが……。
まるで岩と岩が当たったかのような大きな音がした直後。
聖槍は噴水の大理石を破壊し、一気に塩水を含んだ水が、中庭全体に流れ出す。大小のナメクジ型のモンスターゴーストは、大理石の床を流れる塩水から、逃げることができない。塩水に触れ、そのまま姿が消えた。
「オリビアさま、大小のナメクジ型のモンスターゴースト、すべて消えましたね!」
スノーの声に、マルクスも反応する。
「なるほど。聖水をナメクジ軍勢にぶっ放して撃退と。いいねぇ~、聖女さま。大胆不敵で」
「な、何が起きたのですか!?」
領主ヘラルドが、部屋からは出ずに、扉を少し開け、叫んでいる。
「どうされましたか!?」
そのヘラルドを押しのけ、アルベルトと二人の三騎士が、回廊に出てきた。
「聞いてくれ、みんな」
マルクスが笑顔で皆に声をかけた。
いきなり。また、モンスターゴースト。
しかも、醜悪なタイプ……。
巨大なナメクジみたいなそれは、動く度にドロドロとした何か粘着質なものを、周囲にまき散らしている。一瞬体が固まったが、すぐスノーに十字架を冠した杖を預け、聖杯を顕現させる。
「聖杯に聖なる水を。遥かなるオケアノスよ、その水を杯に満たせ」
聖杯に聖水……塩水を満たした。
ここまで迅速に動いたが、アズレークの言う通り、モンスターゴーストの動きは緩慢だ。ドロドロとした粘着物をあちこちにつけながら、ゆっくりと噴水の方へと向かっている。
これならば聖杯を投げつけるのではなく、少し近寄り、塩水をまけばいいだろう。
そう判断し、巨大なナメクジ型のモンスターゴーストに、数歩近づいた。聖杯には、アズレークがブリザード魔法をかけてくれている。聖杯から塩水をふりまくと、吹雪のように塩水がモンスターゴーストに向かう。
だからまさに聖杯から塩水を、醜悪なナメクジ型のモンスターゴーストに、吹きかけようとしたが……。
足元にイヤな気配を感じる。
「オ、オリビアさま、あ、足元に小型のナメクジのモンスターゴーストが……!」
スノーの言葉を聞いただけで。
足元を見るより先に、悲鳴を上げていた。
すると。
シュッという音とズサッという音がして、足元の不穏な気配が消えた。
驚いて足元を見ると、石畳に槍が突き刺さっている。
「聖女さま、大丈夫か?」
「は、は……」
はい、と返事をしようとして固まる。
巨大ナメクジ型のモンスターゴーストのひだひだの足元からは……。小型のナメクジのモンスターゴーストが、次々に沸いてきている。
こ、こんなにいるの!?
「マルクスさま、近寄らないでください!」
マルクスを制し、塩水をふりまく。
すると吹雪のように塩水が広がり、一瞬で小型のナメクジの姿が消えていく。
ホッとするのも束の間、私のこの行為に、巨大ナメクジ型のモンスターゴーストが、激怒したようだ。口と思われる場所から、何かを噴出した。
慌てて聖槍を持ち、マルクスやスノーがいるところまで後退した。
「どうした、聖女さま!?」
聖槍を私から受け取ったマルクスが、心配そうに尋ねる。
「巨大ナメクジ型のモンスターゴーストが、口から何かを噴出し始めました」
「それは厄介だな。場所を指定してくれれば、さっきのように槍を投げることもできるが」
それはいいプランだと思ったが。
返事をする前に、再び、口からの噴出が始まる。
「後退してください!」
そう言いながら、慌てて三人で移動する。
動きは緩慢だが、口からの噴出物は飛距離がある。しかも口からの噴出物は、悪臭を放つ黄色の液体。こんなもの、絶対に浴びたくない。
距離をとると、今度は巨大ナメクジ型のモンスターゴーストの足元から、再びわらわらと小型ナメクジのモンスターゴーストが現れる。
最悪だ。
「オリビアさま、再び、小型のナメクジも多数でてきましたよ」
「分かっているわ。スノー」
そう答えてから付け加える。
「多分、親玉を潰せば、小型のナメクジは出てこないハズよ」
そこで私は思いっきり、塩水が入った聖杯を、巨大ナメクジ型のモンスターゴーストに向け、投げたのだが。
「え……」
巨大ナメクジ型のモンスターゴーストは、口から噴出した黄色の液体で、聖杯を吹き飛ばした。
な、なんの、このナメクジ!?
無駄に知能が高くない?
そうしているうちにも、小型のナメクジのモンスターゴーストは増え、さらに口からの噴出も続き、こちらは後退を強いられるばかりだ。
「聖女さま、どうする? 一時撤退するか?」
マルクスに問われ、撤退も考えたその時。
噴水が目に入った。
この噴水に、塩水を満たすのは、どうだろう?
「撤退はしません! 私が合図を出しましたら、この噴水を破壊すること、できますか?」
回廊を走りながら尋ねると、マルクスはニヤリと笑う。
「無論、それはできるが。聖女さまは見かけによらず、ワイルドだな」
ワイルド? そうだろうか。
ワイルドと言えば、マルクスだと思うのだが。
ともかく私はその場で立ち止まると、噴水に手を向け魔法を詠唱した。
「噴水に聖なる水を。遥かなるオケアノスよ、その水を噴水に満たせ」
噴水の淵ぎりぎりまで水かさは増したが、溢れ出ることはない。
「マルクスさま、お願いします」
「おう、任せてくれ」
そう言ったマルクスが、噴水目掛け、槍を投げつけると。
さすが聖槍。
ただの槍であれば、穂が砕け、それでお終いになりそうだが……。
まるで岩と岩が当たったかのような大きな音がした直後。
聖槍は噴水の大理石を破壊し、一気に塩水を含んだ水が、中庭全体に流れ出す。大小のナメクジ型のモンスターゴーストは、大理石の床を流れる塩水から、逃げることができない。塩水に触れ、そのまま姿が消えた。
「オリビアさま、大小のナメクジ型のモンスターゴースト、すべて消えましたね!」
スノーの声に、マルクスも反応する。
「なるほど。聖水をナメクジ軍勢にぶっ放して撃退と。いいねぇ~、聖女さま。大胆不敵で」
「な、何が起きたのですか!?」
領主ヘラルドが、部屋からは出ずに、扉を少し開け、叫んでいる。
「どうされましたか!?」
そのヘラルドを押しのけ、アルベルトと二人の三騎士が、回廊に出てきた。
「聞いてくれ、みんな」
マルクスが笑顔で皆に声をかけた。
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