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24:その言葉の意図は……

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キスをするわけではないが、限りなくキスをしているような体勢になることを、アズレーク自身も自覚しているようだ。小川のほとりで朝食の片づけをするスノーに「10分ほどはなれるが、すぐ近くにいる」と告げ、森の奥の方へ歩き出した。

私はその後を、小走りで追いかける。
しばらく進むと、倒木があった。
雷でも落ちて、倒れた木だったのだろうか。
少し焼け焦げた部分がある。
アズレークはその倒木をベンチ代わりにして、私に座るように勧めた。

私が腰を下ろすと、アズレークも隣に座る。

「魔力をこんな風に誰かに送るということは、そう簡単にできることではない。そんなことが簡単にできたら、誰もが魔法を使えるようになる。……パトリシアに私の魔力が馴染んだ。これもある意味奇跡だ」

すぐに魔力を送られると思っていたので、突然話を始めたアズレークに「ふぁ、そうなのですね」と、思わず間の抜けた返事をしてしまう。だがアズレークはこの返事に気にすることなく、話を続ける。

「パトリシアは……特別な存在だ。こんな風に自分の魔力が馴染む相手には出会ったのは、初めてのこと。私は……運がいいのかもしれない。いや、運がいいのは……王太子か」

そこで苦笑すると「では始めようか、オリビア」と私の腰に腕を回した。特別だとか運がいいとか、唐突に言われ、その意図を理解しようとしたのだが。

すでに魔力を送るための体勢をアズレークがとり始めたので、それ以上質問はできない。

「今日は外で風も冷たい。頬は冷やさなくてもいいか?」

頷くと、すぐにアズレークは顎を持ち上げる。
少し開けた口に、魔力の塊が流れ込んでくる。
確かに外だからだろう。
いつもほど口の中に広がる魔力に、熱さを感じない。
それでも喉を通り過ぎ、体内へと魔力が流れ込んでくると、全身が熱くなる。

ただ、外気に触れている部分は、ヒンヤリしたままだ。
そう、顔や耳は冷たい。でも服に包まれた体は、熱い。
冷たいのか熱いのか。
体の部位により反応が違い、不思議な気分になる。
だが次第に体から、力が抜けていく。
その瞬間。
アズレークの顔が離れたと思ったら、ゆっくり体を抱きしめられた。
力が抜けた私の体を支えるために。

陽光が静かに降り注ぎ、鳥の甲高い鳴き声が聞こえる。
風が吹き抜け、小動物が踏みしめる枯れ葉の音がする。

アズレークはしばらくの間、私を抱きしめ続けた。
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