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第40話 よみがえった記憶 ~ユリア(ミリア)目線~
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その大きな揺れは突然やってきました。
皆しばらくは茫然とされていましたが、気を取り直すと熟練騎士のセイダさんが後輩騎士たちに命じました。
「おい、森の様子を見る班と町の様子を見る班、それとここにとどまって防衛しながら片づけを手伝う班に分かれるぞ。動ける者は動け!」
「「「「「「はい!」」」」」」
すぐさま班分けが行われ行動が開始されました。
そしてしばらくして、町の様子を見に行った班が返ってきました。
「やはり町医者一人じゃ対応できないみたいです。それからみな不安がってそれほど被害を受けていない住民も私たちが来るといろいろ質問しまくってね。私たちだってよくわからないというのに……」
「では、治療師を何名か派遣しましょうか?」
リーダー格の先輩治療師が申し出て、何名か町に派遣する者、私もその中に選ばれました。
騎士たちは馬、治療師たちは馬車に乗って町に赴き、中央の広場に討伐の時の野宿用の一番大きなテントを張って、そこを臨時の治療所としました。
町医者とも話し合い、重傷者は彼が引き受け、軽症者はこちらで引き受けることとなりました。
気になったのは、怪我をしているわけではない町民たちまで建物の中に入ろうせず外に出て、私たちの様子をうかがっているのです。
不安を払しょくする情報が欲しいのでしょう。
もうすぐ日が暮れるというのに、皆家に帰らず広場の周りをうろうろと。
まだ冬のさなか、どんどん寒くなってくるというのに……。
私はあることを思いつき、リーダー格の騎士に提案しました。
「あの、ここで炊き出しをして町の人に食べ物をふるまうというのはどうでしょう?そろそろ夕食の支度をしなければならない時間だというのに、皆さま、怖がって家に帰ろうとなさらない。温かいものをふるまったら元気づけられると思うのですが?」
「タキダシ?」
「はい、時々大きな獲物を狩ると中庭で大なべを使って野菜もいっぱい煮込んでスープを作りますよね。騎士団の方が研究所や治療所の私たちにもふるまってくださいます。それをこの町でやるといいと思うのですが?」
「面白い考えだな、聞いてみよう」
リーダーは早馬を駐屯所に飛ばし、小一時間ほどたつと、食料や医療用品などを積んだ荷車がやってきました。
保存してあった肉や野菜、それを豪快に煮込んでできた野外メシ。
いや、メシというか、米はこの世界にないけど、できたスープを町の人々に配ると喜ばれました。
そうやって数日が過ぎましたが、幸い余震らしきものは起こらず、数名を町に残して私たちは駐屯施設に戻ることとなりました。
「いやあ、ユリアちゃんの炊き出しのアイデア良かったな」
熟練騎士のセイダさんからもお褒めにあずかり光栄です。
数日後、駐屯地は通常運転に戻りましたが、以前言われていた魔物が増え手ごわくなった件といい、気になる点が多く、それについては王宮からエルフの王のもとに人を派遣するそうです。
その答えを待っていたある日のこと、大変なことが起こりました。
エミール王子が重傷を負って医療施設に運び込まれたのです。
「出血がひどい、まず血止めを!」
みぞおちのあたりを魔獣に刺されたようです。
傷は内臓まで達している可能性もあります。
魔獣には毒を持っているものも多く、毒の性質も様々ですが、初めて見る種類だったので、そもそも毒を持っているかどうか、持っているとしたら一体どんな類の毒なのか、まったくわからないのです。
「ユリア、血止めの土属性と洗浄の水属性を」
「はい!」
わからないまま手さぐりで治療を続けます。
「そうだ、エルフの森に治療師のアルツ氏がいるそうです。呼び寄せることはできませんか?」
「すぐ連絡を!」
幸運にも今ちょうどエルフの王に会いにいっていた治療師がいるそうです。
エルフの森の近くの東の駐屯地はこちらと転移装置でつながっています。
しかし間に合うのでしょうか?
エミール殿下の顔色がだんだん悪くなり、呼吸が小さくなっていきます。
「あの、光魔法も同時に毒消しをした方がいいのではないでしょうか?」
私は提案してみました。
光には魔獣の毒を消す効果もあります。
「いや、君の今の魔力容量じゃ三つの属性を同時にはできないだろう。毒が含まれているかどうかも分からないし、含まれていないのなら光に使った魔力が無駄になる。今は土で血止めに専念してくれ」
セイダさんが殿下のけがの様子を見て言いました。
私にもっと魔力容量があれば……。
凄腕の治療師なら、初見の魔物にやられた怪我でも自動的に適切な属性の魔法を放って治すことができるそうです。
悔しいですね。
目の前でどんどん様態が悪くなっていく人がいるのに、力不足でできることが限られているなんて。
「アルツ氏はまだか!」
見守っている方々に焦りの色がでてきました。
もっと、もっと、魔力を注ぎ込んで、ああ、じれったい……。
なんでしょう、この感覚?
自分はもっとできるのに、何か壁に阻まれて力を出し切れていないような?
もっと、もっと……。
限界を超えて自分の力を絞り出すようにしたその瞬間。
あくまで体感ですが、自分の中の壁がパリンと割れて、もっと大きな力が流れそれを放出できるようになりました。
血止めのために傷をふさぐ速度が上がりました。
それと同時に頭の中に膨大な情報が流れ込んできます。
「アルツ氏がいらっしゃった!」
間に合った。
「おお、よくぞ応急処置を施してくださった。後は任せて」
私はアルツ氏に席を譲りました。
そのとたん、足元がふらつき、そばにいた先輩治療師に倒れるところを支えられました。
「疲れたでしょう。少し休むといいわ」
私はうなづいて下がらせてもらうことにしました。
治療に専念していた時には無視していたけど、頭に流れ込んできた膨大な情報は、私がここに来る前の記憶です。
家族全員を魔物に殺されたユリア・ポーラスなんて嘘です。
私の本当の名はミリア・プレデュス。
先ほど一生懸命救おうとしていたエミール殿下とは学園の生徒会で一緒でした。
その殿下がこちらに派遣されることとなったのは、伝え聞いた情報を総合すると、私が起こした事件が原因でしょうか?
考え事をしていると、治療室の端で、アルツ氏とともにエルフの王のところに派遣されていた人々が固まって話しているのが見えます。
リーニャ?
なぜここにあなたが?
私は彼女と顔を合わせるのを避けるために、別の出口からそっと退出しました。
皆しばらくは茫然とされていましたが、気を取り直すと熟練騎士のセイダさんが後輩騎士たちに命じました。
「おい、森の様子を見る班と町の様子を見る班、それとここにとどまって防衛しながら片づけを手伝う班に分かれるぞ。動ける者は動け!」
「「「「「「はい!」」」」」」
すぐさま班分けが行われ行動が開始されました。
そしてしばらくして、町の様子を見に行った班が返ってきました。
「やはり町医者一人じゃ対応できないみたいです。それからみな不安がってそれほど被害を受けていない住民も私たちが来るといろいろ質問しまくってね。私たちだってよくわからないというのに……」
「では、治療師を何名か派遣しましょうか?」
リーダー格の先輩治療師が申し出て、何名か町に派遣する者、私もその中に選ばれました。
騎士たちは馬、治療師たちは馬車に乗って町に赴き、中央の広場に討伐の時の野宿用の一番大きなテントを張って、そこを臨時の治療所としました。
町医者とも話し合い、重傷者は彼が引き受け、軽症者はこちらで引き受けることとなりました。
気になったのは、怪我をしているわけではない町民たちまで建物の中に入ろうせず外に出て、私たちの様子をうかがっているのです。
不安を払しょくする情報が欲しいのでしょう。
もうすぐ日が暮れるというのに、皆家に帰らず広場の周りをうろうろと。
まだ冬のさなか、どんどん寒くなってくるというのに……。
私はあることを思いつき、リーダー格の騎士に提案しました。
「あの、ここで炊き出しをして町の人に食べ物をふるまうというのはどうでしょう?そろそろ夕食の支度をしなければならない時間だというのに、皆さま、怖がって家に帰ろうとなさらない。温かいものをふるまったら元気づけられると思うのですが?」
「タキダシ?」
「はい、時々大きな獲物を狩ると中庭で大なべを使って野菜もいっぱい煮込んでスープを作りますよね。騎士団の方が研究所や治療所の私たちにもふるまってくださいます。それをこの町でやるといいと思うのですが?」
「面白い考えだな、聞いてみよう」
リーダーは早馬を駐屯所に飛ばし、小一時間ほどたつと、食料や医療用品などを積んだ荷車がやってきました。
保存してあった肉や野菜、それを豪快に煮込んでできた野外メシ。
いや、メシというか、米はこの世界にないけど、できたスープを町の人々に配ると喜ばれました。
そうやって数日が過ぎましたが、幸い余震らしきものは起こらず、数名を町に残して私たちは駐屯施設に戻ることとなりました。
「いやあ、ユリアちゃんの炊き出しのアイデア良かったな」
熟練騎士のセイダさんからもお褒めにあずかり光栄です。
数日後、駐屯地は通常運転に戻りましたが、以前言われていた魔物が増え手ごわくなった件といい、気になる点が多く、それについては王宮からエルフの王のもとに人を派遣するそうです。
その答えを待っていたある日のこと、大変なことが起こりました。
エミール王子が重傷を負って医療施設に運び込まれたのです。
「出血がひどい、まず血止めを!」
みぞおちのあたりを魔獣に刺されたようです。
傷は内臓まで達している可能性もあります。
魔獣には毒を持っているものも多く、毒の性質も様々ですが、初めて見る種類だったので、そもそも毒を持っているかどうか、持っているとしたら一体どんな類の毒なのか、まったくわからないのです。
「ユリア、血止めの土属性と洗浄の水属性を」
「はい!」
わからないまま手さぐりで治療を続けます。
「そうだ、エルフの森に治療師のアルツ氏がいるそうです。呼び寄せることはできませんか?」
「すぐ連絡を!」
幸運にも今ちょうどエルフの王に会いにいっていた治療師がいるそうです。
エルフの森の近くの東の駐屯地はこちらと転移装置でつながっています。
しかし間に合うのでしょうか?
エミール殿下の顔色がだんだん悪くなり、呼吸が小さくなっていきます。
「あの、光魔法も同時に毒消しをした方がいいのではないでしょうか?」
私は提案してみました。
光には魔獣の毒を消す効果もあります。
「いや、君の今の魔力容量じゃ三つの属性を同時にはできないだろう。毒が含まれているかどうかも分からないし、含まれていないのなら光に使った魔力が無駄になる。今は土で血止めに専念してくれ」
セイダさんが殿下のけがの様子を見て言いました。
私にもっと魔力容量があれば……。
凄腕の治療師なら、初見の魔物にやられた怪我でも自動的に適切な属性の魔法を放って治すことができるそうです。
悔しいですね。
目の前でどんどん様態が悪くなっていく人がいるのに、力不足でできることが限られているなんて。
「アルツ氏はまだか!」
見守っている方々に焦りの色がでてきました。
もっと、もっと、魔力を注ぎ込んで、ああ、じれったい……。
なんでしょう、この感覚?
自分はもっとできるのに、何か壁に阻まれて力を出し切れていないような?
もっと、もっと……。
限界を超えて自分の力を絞り出すようにしたその瞬間。
あくまで体感ですが、自分の中の壁がパリンと割れて、もっと大きな力が流れそれを放出できるようになりました。
血止めのために傷をふさぐ速度が上がりました。
それと同時に頭の中に膨大な情報が流れ込んできます。
「アルツ氏がいらっしゃった!」
間に合った。
「おお、よくぞ応急処置を施してくださった。後は任せて」
私はアルツ氏に席を譲りました。
そのとたん、足元がふらつき、そばにいた先輩治療師に倒れるところを支えられました。
「疲れたでしょう。少し休むといいわ」
私はうなづいて下がらせてもらうことにしました。
治療に専念していた時には無視していたけど、頭に流れ込んできた膨大な情報は、私がここに来る前の記憶です。
家族全員を魔物に殺されたユリア・ポーラスなんて嘘です。
私の本当の名はミリア・プレデュス。
先ほど一生懸命救おうとしていたエミール殿下とは学園の生徒会で一緒でした。
その殿下がこちらに派遣されることとなったのは、伝え聞いた情報を総合すると、私が起こした事件が原因でしょうか?
考え事をしていると、治療室の端で、アルツ氏とともにエルフの王のところに派遣されていた人々が固まって話しているのが見えます。
リーニャ?
なぜここにあなたが?
私は彼女と顔を合わせるのを避けるために、別の出口からそっと退出しました。
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