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第41話 反逆のぬれぎぬ
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エミール王子の容体が落ち着いて、アルツ氏が一息ついたのを確認してから、私は皆と離れ、医療施設の中をうろうろと歩き回りました。
行きたいところがあったわけではなく、どこかでミリアが働いている様子を目にすることができるのでは、と、期待したからです。
しかし、当ては外れ、どこに行ってもミリアの姿は確認できませんでした。
「ああ、いたいた、リーニャ。帰るわよ」
ミンディが私を見つけ走り寄ってきました。
「もう、ですか?」
「アルツ氏はもう少しここに残るわ。魔物の毒はあとで効いてくるものもあるし、初めて見た種類だったら、念のためにってことであと数日はここにいることにしたそうよ。私たちはここにいてもすることはないし、先に王宮に帰って国王陛下に今回のエルフ王との会合の内容をお知らせしたほうがいいでしょ」
「そうですね、強力な魔物が復活とか、いろいろ準備しないとダメそうなことがありますからね」
アルツさんを除いた私たち四人は帰ることになりました。
中央駐屯地にある転移装置を使い、行きとおなじようにあっという間に王宮の地下に帰りつきました。
「国王ご夫妻がお待ちです。皆様どうぞこちらへ」
私たち四人は中程度の広間に通されました。
入り口から見て中央奥の席には国王夫妻が着席されていました。
エドゼル様が先頭に立ち、膝を折り曲げて臣下の礼を取りました。
私たちもそれに続いて同じようにしました。
エドゼル様がアルツさんの書いた報告書を渡すと、国王様はその場で開いてお読みになると、隣に座っておられる王妃様もそれに目を通されました。
「陛下、ほぼお告げで語られた通りですね」
王妃様が夫である国王様に言いました。
ああ、と、国王様が王妃様に短く答えると、おもむろに立ち上がり号令をかけました。
「エドゼル・ブリステル、反逆の疑いでそなたを拘束する!」
その言葉にエドゼル様はがくぜんとされました。
私たちもあぜんです。
「お待ちください、私が反逆? 何を根拠に?」
「そなたはヴェルダートルの残党と組んで、エルフの血を強く引く者と自身の妹をめあわせ、新たな王朝を作ろうともくろんだであろう!」
王が周囲を取り囲む衛兵たちにもよく聞こえるよう、大きな声で語りました。
「ヴェルダートル……、いったい何のことやら?」
エドゼル様は本当に皆目見当がついていないご様子に見えますが?
「信頼できる筋からの情報です。ああ、まさかあの恐ろしいイレーネ様の一族が再び私たちのところに……。今思えば、エミールの大けがも仕組まれたものだったのですわ」
王妃様がおびえたようなしぐさで嘆きます。
「連行しろ!」
「お待ちください、国王陛下!」
衛兵に両脇を抱えられ、エドゼル様が連行されていきました。
「同行していた三名も城の一室に監禁せよ。エルフの王に洗脳されているかもしれぬ。完全に惑わされてないとわかるまで返すわけにはいかぬ」
ええっ!
私たちも連行されるの?
私、ミンディ、フォーゲル先生も衛兵に連れていかれ、城の一室に三人一緒に閉じ込められました。
客間でしょうかね?
ベッドはそれなりに大きいサイズのが一つ。
ホテルで言うところのツインの部屋に男女三人適当に押し込めたのかしら?
配慮に欠ける乱暴なやり方です。
でも、今回は逆にそれが幸いしました。
私たち三人はソファーに座って、今回の事態を話し合い整理することにしました。
文殊の知恵は三人いればできるものですからね。
「それにしても、懐かしい名前を聞いたわね。ヴェルダートルか」
ミンディがつぶやきました。
「あの、ヴェルダートルって?」
私は理解が追いつかず彼女に尋ねました。
「二十年ほど前に反逆の罪でほろんだ公爵家の名前よ」
「えっ? そんな名前の公爵家ってありましたっけ? 確か歴史で習う公爵家は、ルルージュ、メレディス、この二家は昔ほろんだのね。そして二十年ほど前にはフェイダートルが跡取りがいなくて断絶。現在残っている公爵家はサラ会長のヴァイスハーフェンと、エドゼル様やフェリシアのブリステル」
私は歴史で習う建国以来の五大公爵家を思い出して言いました。
「ああ、それね。そのフェイダートルなんだけど、実は二十数年前に起こった『反逆』の事実を隠すために改ざんされているって話なのよね」
「改ざん?」
「ええ、事実を知っているのは一部の高位貴族だけ。クルーグ家は代々魔法省の重鎮を占めていたから、当時を知っている者からこっそり教えてもらったんだけど、その『反逆』は国王と王妃が着せた濡れ衣だって話なのよ」
「反逆の濡れ衣? まさかエドゼル様も?」
「う~ん、そっちはわからないのよね。ヴェルダートルだったら、当時の事情から考えると理由は推測できる。でも、ブリステルは軍事のかなめだし、そんなところに濡れ衣着せて内戦でも起こしたいのかしら?」
ミンディが考えながら答えました。
「うちは高位貴族じゃないけど、当時のヴェルダートル公爵令嬢イレーネ殿と同年代の方が親戚にいてね。あの方がエシャールを害していたなんてとても信じられないって。あ、エシャールって今の王妃様の名前だけどね」
フォーゲル先生も話に加わってきました。
「へえ、あんたでも、こういう貴族内の人間関係の話知ってるんだ。森の魔物のことしか知らないと思っていた」
ミンディがフォーゲル先生に茶々を入れます。
「親戚に聞いた範囲だけだよ。リーニャ君がちゃんと覚えていた五大公爵家も、僕はすっかり忘れていたけどね」
フォーゲル先生が頭をかきながら照れ笑いをします。
「それであのヴェルダートルって?」
「実は若いころの国王には、今の王妃様とは別の婚約者がいらっしゃったの? それがヴェルダートル公爵家のイレーネという人なのよ」
ミンディが説明を始めました。
なんかどっかで聞いたような話ですよ。
行きたいところがあったわけではなく、どこかでミリアが働いている様子を目にすることができるのでは、と、期待したからです。
しかし、当ては外れ、どこに行ってもミリアの姿は確認できませんでした。
「ああ、いたいた、リーニャ。帰るわよ」
ミンディが私を見つけ走り寄ってきました。
「もう、ですか?」
「アルツ氏はもう少しここに残るわ。魔物の毒はあとで効いてくるものもあるし、初めて見た種類だったら、念のためにってことであと数日はここにいることにしたそうよ。私たちはここにいてもすることはないし、先に王宮に帰って国王陛下に今回のエルフ王との会合の内容をお知らせしたほうがいいでしょ」
「そうですね、強力な魔物が復活とか、いろいろ準備しないとダメそうなことがありますからね」
アルツさんを除いた私たち四人は帰ることになりました。
中央駐屯地にある転移装置を使い、行きとおなじようにあっという間に王宮の地下に帰りつきました。
「国王ご夫妻がお待ちです。皆様どうぞこちらへ」
私たち四人は中程度の広間に通されました。
入り口から見て中央奥の席には国王夫妻が着席されていました。
エドゼル様が先頭に立ち、膝を折り曲げて臣下の礼を取りました。
私たちもそれに続いて同じようにしました。
エドゼル様がアルツさんの書いた報告書を渡すと、国王様はその場で開いてお読みになると、隣に座っておられる王妃様もそれに目を通されました。
「陛下、ほぼお告げで語られた通りですね」
王妃様が夫である国王様に言いました。
ああ、と、国王様が王妃様に短く答えると、おもむろに立ち上がり号令をかけました。
「エドゼル・ブリステル、反逆の疑いでそなたを拘束する!」
その言葉にエドゼル様はがくぜんとされました。
私たちもあぜんです。
「お待ちください、私が反逆? 何を根拠に?」
「そなたはヴェルダートルの残党と組んで、エルフの血を強く引く者と自身の妹をめあわせ、新たな王朝を作ろうともくろんだであろう!」
王が周囲を取り囲む衛兵たちにもよく聞こえるよう、大きな声で語りました。
「ヴェルダートル……、いったい何のことやら?」
エドゼル様は本当に皆目見当がついていないご様子に見えますが?
「信頼できる筋からの情報です。ああ、まさかあの恐ろしいイレーネ様の一族が再び私たちのところに……。今思えば、エミールの大けがも仕組まれたものだったのですわ」
王妃様がおびえたようなしぐさで嘆きます。
「連行しろ!」
「お待ちください、国王陛下!」
衛兵に両脇を抱えられ、エドゼル様が連行されていきました。
「同行していた三名も城の一室に監禁せよ。エルフの王に洗脳されているかもしれぬ。完全に惑わされてないとわかるまで返すわけにはいかぬ」
ええっ!
私たちも連行されるの?
私、ミンディ、フォーゲル先生も衛兵に連れていかれ、城の一室に三人一緒に閉じ込められました。
客間でしょうかね?
ベッドはそれなりに大きいサイズのが一つ。
ホテルで言うところのツインの部屋に男女三人適当に押し込めたのかしら?
配慮に欠ける乱暴なやり方です。
でも、今回は逆にそれが幸いしました。
私たち三人はソファーに座って、今回の事態を話し合い整理することにしました。
文殊の知恵は三人いればできるものですからね。
「それにしても、懐かしい名前を聞いたわね。ヴェルダートルか」
ミンディがつぶやきました。
「あの、ヴェルダートルって?」
私は理解が追いつかず彼女に尋ねました。
「二十年ほど前に反逆の罪でほろんだ公爵家の名前よ」
「えっ? そんな名前の公爵家ってありましたっけ? 確か歴史で習う公爵家は、ルルージュ、メレディス、この二家は昔ほろんだのね。そして二十年ほど前にはフェイダートルが跡取りがいなくて断絶。現在残っている公爵家はサラ会長のヴァイスハーフェンと、エドゼル様やフェリシアのブリステル」
私は歴史で習う建国以来の五大公爵家を思い出して言いました。
「ああ、それね。そのフェイダートルなんだけど、実は二十数年前に起こった『反逆』の事実を隠すために改ざんされているって話なのよね」
「改ざん?」
「ええ、事実を知っているのは一部の高位貴族だけ。クルーグ家は代々魔法省の重鎮を占めていたから、当時を知っている者からこっそり教えてもらったんだけど、その『反逆』は国王と王妃が着せた濡れ衣だって話なのよ」
「反逆の濡れ衣? まさかエドゼル様も?」
「う~ん、そっちはわからないのよね。ヴェルダートルだったら、当時の事情から考えると理由は推測できる。でも、ブリステルは軍事のかなめだし、そんなところに濡れ衣着せて内戦でも起こしたいのかしら?」
ミンディが考えながら答えました。
「うちは高位貴族じゃないけど、当時のヴェルダートル公爵令嬢イレーネ殿と同年代の方が親戚にいてね。あの方がエシャールを害していたなんてとても信じられないって。あ、エシャールって今の王妃様の名前だけどね」
フォーゲル先生も話に加わってきました。
「へえ、あんたでも、こういう貴族内の人間関係の話知ってるんだ。森の魔物のことしか知らないと思っていた」
ミンディがフォーゲル先生に茶々を入れます。
「親戚に聞いた範囲だけだよ。リーニャ君がちゃんと覚えていた五大公爵家も、僕はすっかり忘れていたけどね」
フォーゲル先生が頭をかきながら照れ笑いをします。
「それであのヴェルダートルって?」
「実は若いころの国王には、今の王妃様とは別の婚約者がいらっしゃったの? それがヴェルダートル公爵家のイレーネという人なのよ」
ミンディが説明を始めました。
なんかどっかで聞いたような話ですよ。
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