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第39話 アランティアとの対談

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「はい、先日の地震でございます。これについて何かご存じではないかと? 一番揺れたのはどうやら国の東方、このエルフの集落の近辺でございますし」

 アルツさんがエルフの王に質問しました。

「うむ、原因というか、思い当たることが一つある。ユグドレーシアの木のある所からさらに奥に入ったところの洞窟に数百年前に封じられた魔物がいる。そなたたちの先祖、五人の英雄が協力して封じた強力な魔物だ。もしかしたらその封印が解けかかっているのかもしれぬ」

 フリーダ女王の時代、五人の英雄が協力して魔物を封じた話は子供でも知っている歴史であり、おとぎ話のように語られている話です。

 その五人の英雄が王家に最も近い公爵家の祖となり、現在残っているのはフェリシアのいるブリステルと、サラ会長のいるヴァイスハーフェンです。

 物語ではエルフ王の助力(いわゆるバフかけ)のもと、五人が協力しても倒すことができず何とか封印することができたという話です。

「英雄たちでも倒せなかったのをどうやって……」

 エドゼル様がつぶやきました。

 あなたのご先祖の話ですよ。

「あれは私の先代が王の頃の話だからな。むしろ人間たちの方が戦闘の様子や魔物の弱点など何か書き残しているのではないか?」

 エルフの王アランティアが言いました。

「なるほど、探してみましょう」

 アルツさんが答えました。

「要件としては以上かな? 同行した『戦士』たちに個別に話しかけたいことがあるのだが?」

 アランティアが言い、私たちは個別に彼と話ができるよう別室に呼び出されました。

 エドゼル様が話を終えて戻ってきたときには、すこし怒っているような興奮しているような様子でした。

 ミンディもかなり楽しそうでしたが、一番目をキラキラさせて帰ってきたのはフォーゲル先生でした。

 なんでも、この森に住まう独特の魔物の種類をいろいろ教えてもらったそうです。

 そして最後に、一番年若の私。

「君の水と光の能力があれば、かつての『戦士』なみに『浄化』の力を発揮できるだろうな」

 私を見るなり開口一番、アランティア王はそう告げました。

「『浄化』ですか。魔物に対するデバフの……?」

「『デバフ』という意味が分からないが、『浄化』は魔物を倒すためだけに使うのではないぞ。たとえば森と国土を隔てている壁。あのレンガにはところどころ『浄化』の力で満たされた魔石が埋め込まれているんだ」

「国を覆う壁にそんな仕掛けが……、知りませんでした」

「そうだな、魔法省に勤めている者でないとな。昨今では、当たり前に建っている物と認識されるようになった壁だが、あれは森が浄化しきれなかった瘴気を浄化する役割も持っている。そのための魔石だ」

「はい……」

「埋め込まれている魔石だが、満たされている『浄化』の力は瘴気に当たると少しづつ目減りしていずれは尽きる。だから魔法省は常に壁を点検して、力が枯渇した魔石には新たな『浄化』の力を注ぐ」

 なるほど、いわゆるメンテナンスというやつですね。

「だから『浄化』の素質のある者は魔法省の魔道建築部にとっては喉から手が出るほど欲しい人材であるらしいぞ」

「ほんとですか! だったら就職の心配せずに済みそうで、うれしいです!」

「はは、まあ、いい。少し早いが『浄化』の術の発揮の仕方を教えておいてやろう。もしかしたら予想より早く使うことになるかもしれぬからな」

 アランティア様は光と水の粒子を練って多面体を形作りました。

「この塊に瘴気を通すような形にすれば浄化することができる」

 説明してくださいました。
 
 塊はプリズムのようにも見えますね。

 私は見様見真似で光と水の粒子を手から出してみました。

「そう、光と水の量は均一に。そしてできるだけ細かい粒子を出して少しづつ練っていくのだ」

 くううっ、難しい!

 二つの属性の力を同時に出すのも難しいし、でき切るだけ粒子を細かくして練るとか、そのあと固めるとか……。

 一生懸命固めてもアランティア様のように大きな塊にはならず、せいぜい片手で握れるくらいの大きさでした。

「最初にしては上出来だ。訓練をかかさなければ、いずれ大きな塊にすることができるし、大きな『浄化』に力を再び細かい粒子にして敵の魔物にぶつけて弱体化させることもできるようになるぞ」

 ものすごく疲れたけど、いいこと教わった感で得した気分。

 みんなのところに戻ると、同じくご機嫌なペルティナとフォーゲル先生が、何を話したのか、と、訪ねてきました。

 エドゼル様は先ほどと同じく不満げな顔でぶつぶつと言っておられます。

「さて、そろそろお暇するぞ」

 アルツさんが立ち上がって言いました。

「なんだ、今夜一晩とまっていけばいいのに。宴の準備もさせるぞ」

 エルフ王アランティアが引き留めます。

 エルフの宴、興味津々です。

「いや、結果をできるだけ早く国王に伝え、来るべき日に備えねばなりませんからの」
「そうですよ、早く帰らなければなりません!」

 アルツさんとなぜかエドゼル様がせかします。

 もうちょっと滞在しちゃダメなんですかね?

 私を含め他の三名が名残惜しそうにしていました。

 だが、それを打ち破って、帰らざるを得ない報告が急きょ入ってきました。

「治療師アルツ殿、至急中央駐屯地にお越し願いたい。エミール王子が大けがをなされた。現在そこにいる見習いの治療師で応急処置を施しているが、はやく対処しなければ危険な状態なのです。お願いします」

 王宮と各駐屯地を結ぶ連絡、それをつなぐ魔石があります。
 ホットラインのようなものです。

「急ぎましょう、皆さまもお早く!」

 案内人のディレクさんが叫びました。

「中央へ移動するにはいったん我々の駐屯地に戻るしかありません!」

 私たちはエルフたちへのあいさつを早々に済ませ、元来た道を走って戻りました。
 
 でもこれって必要なのはアルツさんだけじゃないの?

「ふう、ふう……、若い者と違って走って戻るのはきついわい……」

 アルツさんけっこう息を切らしています。

「風の力で押します、少しは楽になるでしょう」

 エドゼル様がサポートされます。

 なるほどこういうのに必要なのですね。

「リーニャ、あなた光の力をアルツさんにあてて。光には体力回復の効果もあるのよ」

 ミンディが私に言いました。

 光にそんな作用があるなんて知りませんでした。

 階段落ちの一件以来、顔を合わせていなかったエミール王子の危機。
 その彼を救うべく、私やフェリシアの兄であるエドゼル様も含めた一行が急いでいるのも奇妙な因縁です。

 でも、今はそんなことすら考えている暇はありません。

 一刻も早く中央駐屯地にたどり着かねば!
  
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