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第1章 王都編

第27話 魔術師家系の娘 レオナルドside1

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 アリアとリカルドの背中を見詰め、自身の不甲斐ふがいなさと心の狭さに自嘲じちょうが漏れた。
 結局、僕はいつもリカルドのことを遠くから見ているだけ。どうしたら良いのかも分からず、何もしないのだ。
 それなのに、アリアと二人きりになるリカルドに醜い感情が浮かぶ。僕が望んできたことなのに──。
 
 
 
 僕は周りよりも少し、いやかなりできる方だ。
 
 魔術の才能はなかったが、勉強も稽古も少しの努力でできるようになるから苦労した経験はない。どういう態度で接すれば相手が喜ぶのか、自身の思い通りにいくのかも、物心がつく頃には何となく分かっていた。
  
 だけど、リカルドのことになるとダメだった。魔力が高くない僕が励ましても嘘っぽいだろうし、本当の意味での理解者にはなれない。一度そう考えてしまえば、僕からリカルドへかける言葉はどれも偽物のようで何も言えなくなってしまった。
 
 そんな時に思い出したのが婚約者候補のアリア・スコルピウス嬢。スコルピウス家は魔術師の家系で彼の祖父の瞳は赤い。後継者は魔術師にはならなくとも、幼い頃から魔術の訓練をするという。
 スコルピウス家ならば、アリアならば、リカルドへも偏見なく接してくれるのでは、良き理解者になってくれるのではないか……と期待をした。
 
 本当は後継の子息の方が良かったが、僕は彼の顔も知らない。アリアも会ったことはないが、婚約者候補第1位であれば近いうちに会えるだろう。その時がチャンスだ。
 僕は今か今かとその時を待っていた。だけど、アリアはなかなか社交の場には出てこなかった。
 
  
 僕は5歳の誕生日から社交の場に出ていたが、それは王族の決まりで、王族僕たち以外は各家の判断になる。
 僕は、様々な思惑を持った人に囲まれる社交の場はあまり好きではない。 大人だけではなく、時には子どもまで自分を利用しようと近寄ってくることもあるし、次期王妃の座を狙ってやってくる令嬢の相手は面倒でしかない。
  それでも、王座を継ぐ身としてあまり敵を増やすべきではない。だから、適当に笑顔で受け流していく。
 
 その時間も、アリアを待ち始めてからは不思議なことに前ほど苦痛ではなかった。 
 だけど、気が付いてしまった。アマ・デトワール学園に入学するまでは会えないかもしれないことに。
 
 スコルピウス公爵は過保護だという噂。自分の可愛い娘をこんなに思惑が交差している場所に幼い頃から連れてくるのか……。僕なら絶対にしない。
 
 それなら、アリアが社交界に出てきた時のために僕の地盤を固めておこう。いつでもアリアが困ったら助けられるように。僕が仲良くなれば、リカルドともきっと会ってくれるはずだから。
 
 
 初等部の入学まで会うのは無理だろうと諦めてはいたが、その間にもリカルドは日に日に外へ出るのを嫌がるようになっていた。
 リカルドのために何もできない自分が嫌いだった。だが、思いがけないチャンスが舞い込んだ。母上がアリアをお茶会に招待すると言うのだ。
 
 やっとアリアに会える!! と 喜んだものの、元気づけるためにお茶会に招待すると聞いて、何があったのか心配になった。
 母上に聞けば、なんと階段から落ちたことがショックで寝込んでしまったのだという。 きっと階段から落ちたのが余程怖かったのだろう。か弱い令嬢を想像し胸が締め付けられる思いがした。 
 
 それは初めての感情で、戸惑いはしたが嫌な気分ではなかった。 僕も少しでもいいからアリアを元気づけたい。 その時始めて魔術師の家系だからでも、リカルドの理解者になって欲しいからでもなく、アリアを意識した。
 
  お茶会の開催が決まれば、僕に何かできることはないかと少し恥ずかしがったけれど母上に相談をした。今まで社交の場では相手から来るばかりで、自分から話しかけることはなくて、どうすれば良いのか分からなかったから。
  母上は僕の相談にとても驚いていたが、同時にアリアのために何かしたいという僕の気持ちを喜んでくれたんだ。 
 
 子供がメインの堅苦しくないお茶会にすることが決まり、僕はお茶会でやる催しを考える。 お茶を飲み、語り合うだけのこともあるのだが、プロの奏者が来て演奏をするなどの何かしらの楽しみがないと僕達子どもは暇をもて余すのだ。
  女の子が喜びそうな催しを一生懸命考え、勇気を出してアリアへの招待状は僕が書いた。 
  アリアからの参加するという返事に舞い上がり、丁寧に書かれた文字を何度も見返した。
 
 お茶会前日に、最後まで渋っていた父上を何とか説得して催しの許可を取り、後は当日を迎えるだけとなった。
 
  
 そして、当日。朝からそわそわと落ち着かない。招待客が少しずつ到着するなか、今か今かとアリアのことを待っていた。
  次々とやってくる令嬢を軽くあしらいながらも会話をしていると、急に会場が静まり返った。
 
 その視線の先に目を向ければ、モスグリーンのドレスに薄ピンクのショールを羽織った少女がいた。
  美しい艶やかな金の髪に、雪のような白い肌、頬は薄く色づいており、煙るような長いまつ毛が瞬けば紅い意思の強そうな瞳が見える。
 特徴的な少しばかり吊り上がっている目尻が、凛とした気高さを物語っているかのようだ。 
 
 まるで時が止まってしまったかのように会場は静まり返り、誰も声を発することができなかった。その静寂の意味を理解した母上が彼女とその母に声をかけるまでは……。            
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