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夜に霞む

【10】

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この連載 ※ ばかりになってるよって思ってたけど、やっと今回は、 ※ なし!


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『待ってるのも楽しいね。一緒ならもっと楽しいだろうなぁ。大神おおがみさま、まだかなぁ……』



ふさふさ尻尾! 捕まえたい!
『『父!』』
『待ってたって言ってたぞぉ~。オッカァが教えてくれたぞぉ~』
『アレは嫁の声だったんだな。オッカァが、それは、弟だってと言ってたぞ。弟は嫁だよな?』
尻尾を押さえ込んだ。ぴくりとも動かない。
おかしいなぁ。毛玉と共に父の顔を見に行く。
『父? 目からお水出てるぞ。目が溶けるぞ』
『溶けるぞぉ~』
『嫌で、腹を裂いた、訳では、なかったのか……』
父の目を舐める。



泣いてた。
オレも目から水が出てる。
目覚めたら、大洪水だ。

起き上がって、しゃくり上げながら泣いてたら、三田みたさんがすっ飛んできた。

「大丈夫ですか?!」
「二人は相思相愛じゃないかぁぁぁぁぁ」
「はぁあ?!」
「可哀想じゃないかぁぁ! わぁぁぁん! あぁぁぁん…!」

泣き続けるオレの隣で、背中を摩りながら、スマホを弄ってる。

程なくして、兄上登場。
今日もスーツがお似合いです。濃紺が夜を濃くします。胸元の青いチーフは誰のチョイスですか。ネクタイとかあまり合ってません。少し残念ですよ、兄上。

ぐすん、ぐすん……
渡されたタオルが湿ってる。

「夢で泣いてたのか? エドを泣かせる怪しからん夢はどんな夢だ?」
兄上がオレを膝の乗せて、頭をナデナデしてくれる。

今まで見た断片的な夢を繋ぎ合わせて、ポツポツと話した。
とは言え、どうもオレの視点、仔犬だと思うんだ。

大神さまという白いふさふさ尻尾の大きな獣が人間の男の人を攫って、嫁にしたけど、1日しか一緒に居れなくて、離れ離れで、迎えに来たら、腹を裂いて死んでて……

あれ?

「コレって、タクの村の神様の話?」
「そうか…。贄を無理矢理に嫁にしたのではなかったのか。しかも両想いだったのに……。ミッター、うるさいッ。泣くなら向こうで泣け」

横で正座してオレの話を聴いてた三田さんがハンカチ片手に泣いていた。
歳を取ると涙脆くなるのだろうか。

「タクさん呼び戻しましょうよぉ。エドさまが死んじゃいますぅ。その人みたいに、おなか裂いたし」
死なないし! 塞がったし!

「あいつは……ちょっとムリだ」
「そう言えば、タク何処なの?ーーー兄上、殺しちゃった? プチってしちゃったの?」
呼べるって事は要らないってどっかに捨てた訳じゃないんだ。

「プチって。確かに、縊り殺してやろうと思ったが、母上が……」
なーんだ、良かった。
ん? 母上? 母上?!
あぅぅ、両親のところかぁ。
タク……。ガ、ン、バ、レ。



『父に語ってくれぬか? 嫁はなんと言ってた』

『子どもが出来たって知ったら、驚くかなって』
『驚いたぞ。一度で出来ると思わなんだ』

『好きだってぇ~。待ってるってぇ~』
『そうか。そうか』
白い尾っぽがパタパタと揺れてる。

『十月十は長いって』
『ん? おお、人と同じに考えとったか。二月ぐらいなのだ。すまぬ事をしたのう』

『嫁のポンポンは気持ちがいいんだ』
『ポンポンは気持ちいいねぇ~』

何かを考えてた獣が、尻尾をぽふぽふと当ててくる。
ふぁさふぁさして気持ちいい。
『父、気持ちいいぞ』
『気持ちいいぞぉ~』



気分良く目が覚めたら、タクの匂いがした。

解放されて帰ってきたのだ。
痩せた? ボロボロだね。。。
「眠らせてくれ」と一言。オレの横に倒れ込んで、寝てしまった。
その上に二匹の白い仔犬が飛び乗ると、丸まって寝てしまった。
重くないの?

えーと、この仔たちがオレの子って事でOK?

パパ? 父? お父さん? 父上?
んーーーー、パパだな。タクが父!
まずは形からだ。

しっかし、大きくないか?
育ったのか?

一匹いや、一頭分でオレの腹の膨れ分あるぞ。

横で思案しながら眺めてたからだろうか。二頭が耳がぴくりと動いて、目が開いた。

おぉおお、目が青いんだぁぁぁ。
かわいいなぁ。

「パパだ。えーと、『パパ』、言える?」
じーっと見られる。なんかお尻がムズムズ。落ち着かない。

中型犬サイズのが、二頭、むっくり起き上がって、オレの周りでゆっくり匂いを嗅ぎながらうろうろと伺ってる。気のせいか、お尻をめっちゃ嗅がれてるぅぅぅ。

えーと、オレ……喰われる? 品定め?

「「ハハ」」
ハ、ハぁ?
ハハ?
母! 嗚呼、母かぁ。
うんうんと頷きながら、ハタと固まる。
んん???? 母???!

「ノンノン、パパ。OK? ぱ、ぱ。ね?」
ニッコリ笑顔で言ってみたが、フランス語に英語に日本語……いいのか?!

「「母。母! 母ぁぁぁ!」」
ドタバタとベッドと床へとオレを中心に駆け回る。
タク踏んづけられてる。。。あ、蹴られた。
寝てる。

三田さんがこっそり覗きに来てくれた。
仔犬たちをおやつで釣って、連れていってくれた。

朝までそのままの死んだように眠るタクの顔を眺めながら、横でコロコロしてた。

タク。死んでないタク。目の下クマちゃん飼ってても、オレのタク。おかえりタク。

もう、もう、頭がタクでいっぱい。

タク、タク、大好き。大好きなタク。タク、好き好き、だーーーーーーーい好き!

好きもいっぱい。

もう……朝になっちゃうじゃん。ぶぅうううう。

タクの腕を掴んだまま眠りに落ちる。
天蓋が閉じられる音がした。三田さんの匂いと子どもたちの匂い。タクの匂いと温もり。
安心感に包まれての眠りは久しぶり……。
三田さん、ありがとう。。。



『嫁に会いたいのう。もう会えんのかのう』
『オッカァが言ってたぞ。弟は俺たちの中に生きてるって』
『オラたち似てるんだよぉ~。だから、オッカァそう言うんだよぉ~』
『人の姿になれるようになったが……似てはおらんが。似てるかのぉ?』
『似てるさ』
『似てるさぁ~』



「起きた」
タクが笑ってた。
一瞬、大神さまかと思った。
似てないけど、オレにとったらタクの方が数倍かっこいいぞぉ。大神さまイケメンだったな。。。浮気になる? えへへ。

「おかえり」
昨日言えなかった事を伝える。
顔色いい。クマちゃんも薄くなってる。

ググーっと伸びて起き上がる。

足元のベッドの縁に白い顔が顎を乗せて、こっちを見てる。

「右が、アイン。左が、ドゥル」
「はぁあ? 名前?」
「無いと不便だろ。というか、ちゃんとつけた訳じゃねぇ。お前のおふくろさんが勝手に呼んでた」
「ちょっと待って……」
あの母上の事だ。何か下地がなければ、こんな具体的についてない。興味がなければ、あれそれで済ませてしまう。下地はなんだ?
頭を抱えながら、考えてる横でタクがボソボソ喋ってる。

「お前の兄貴なんて、1号2号だぞ。姿は犬って言っても甥っ子だろうに……」
甥っ子ってタクさんの順応性が凄すぎて……下地見つけた!

「タクさん、ちゃんと二人で考えよう」

「なんで? 可愛いなぁと思ってるけど?」

「1号2号と変わりない。ほぼ数字のもじりです」

「俺ももしかして……」

「なんて呼ばれてたの? ヴァハとかワンさんとか中国人と勘違いされてたと思ってたけど」
「あー、番犬とわんわんって事かな? 遊ばれてたね」

「双子の面倒見てた。育児の勉強とか言われた。アイツらも楽しそうだし、いいかなって。あはは…」

のちに母上と話したら、割と真剣に考えてくれてたらしい。
1号2号は流石に可哀想だと思ったとか。
タクは発音し辛いらしい。
タァクで手を打った。

あと、なんだか意地悪したくなっちゃうらしい。でも、あの大雑把な性格で意地悪されてる事に気づいてくれなくて詰まらなくなったところで、オレが回復したと連絡が来たらしい。
仲良くなったのよって笑ってた。

母上はいつも平常運転です。
大好きです。

「「パパァァ」」
体当たりしてくる仔犬たち。
広いところに引っ越そう。
じぃさんに貰った別宅がいいかも。庭もあるし。兄上に相談してみよう。



彼らはしっかり喋れる。
両親も気を遣って日本語で話してくれてたようで、日本語の会話に困らない。
オレ、たぶん、可愛い時期見てないよね?!

もやっとしてたら、写真や動画を父上が送ってくれた。
双子と一緒なんだけどね。
ま、察するところではあるんですが、いいんですよ! いいんですよ? いいんですけどね。

自分の子が可愛いよね。
でも、孫なんですけどぉぉぉお!

双子ちゃんに尻尾鷲掴みされて、振り回されてるとか、引き摺られてるのとか、追っかけ回してるのとか、ウチの仔たちもいっぱい映ってるよ……。ちっちゃくて可愛い……けど。映ってるんですけどね……微妙。

うん! 皆んな可愛いからいいね。うん、いいよ。

おぉ、コレ見切れてるけど、タク?

これ以上は危ないなってところで、割って入ってる?

タクってイクメンじゃん。

大神さまもイクメンだったけど…。

きゅんきゅんしちゃう。番犬のくせして、何これ。何気にカッコいいじゃないか! タクのくせに。
ぷんぷんしてたら、タクが仕事から帰ってきた。

「おかえりぃ」
「ただいま」
ほっぺにキス。めっちゃ自然。外国帰りっぽい。まさに外国帰りなんですけど……。

「また見てたのか?」
三田さんが、息子たちにブラッシングしてる。

「うん。可愛い。今も可愛いけど。この時期一緒に居たかったなぁ」
着替えてきて、ぺったり横に座って腰を抱き寄せてくる。
「また作るか? 今度はヘマしない」
耳元で囁いてくる。腰にクル。その声、罪です。
「えーと……」
確か、兄上は、次は出来るか分からんって言ってたな。臓器取っちゃったし。でも、アレってタクが作ったんだよね……。

「当分、いいや。彼らの成長が見たい」
タクの肩に手を掛けて、グッと伸び上がる。
「エッチはしたいけど」
耳に囁く。

ブラッシングの終わったアインがトトトとやってくる。
彼は落ち着いていて、よく物事を見てる。
ブラッシングがまだ終わってるか怪しいドゥルが駆けてくる。
彼は少し落ち着きがない。ぽやんとしてるところがある。気もそぞろでよく風呂場で洗われてる。溝とかに落ちたり、水溜りにダイブするらしい。
アインが兄、ドゥルが弟という感じだろうか。
容姿の違いは、吊り目がアインで、垂れ目がドゥル。雰囲気でなんとなく分かるけど。

彼らがオレの膝に乗ってくる。
オレは白い毛玉に埋もれた。
モフモフは気持ちいい。
また大きくなった。もう少しで大型犬ぐらいになりそう。
やっぱ引っ越そう! 改築もうすぐ終わるって言ってたなぁ。

「エドさま、わたくしそろそろお暇してもよろしいでしょうか?」
ごめん!!!! 三田さん借りっぱなしだった。

「うんうん! もう大丈夫です。ありがとうございました」
毛皮を掻き分け、立ち上がって、最敬礼のお辞儀。
「では、この子たちと一足先に新居の方に行って参りますね?」
ん?
テーブルの上でオレのスマホが鳴ってる。

『出来たぞ。いつでも来れる』兄上だった。
忙しいのだろう。一方的に喋って切れちゃった。

電話してる後ろで三田さんとタクが話してる。
二人ともペコペコ合戦。日本人的です。

新居が出来たらしい。全部、兄上に任せちゃった。

タクは向こうで仕事を探すらしい。ボスさんところの弁護士の件は継続になったらしいけど、次が見つかるまでだって。

どうやって行こうかなぁと思ってたら、三田さんがニコニコしてる。
封筒を渡される。宛名は三田さん。封も開いてる。見るように促されて、開くと、兄の字だ。引越しの手伝いをする事が書いてあった。
子どもたちは邪魔だろうから、三田さんが運んでくるように指示されてる。

奥から大きなスーツケースを運んできて広げてる。

「あちらで主人あるじ殿が待っておりますので」
兄上向こうにいるんだ。三田さん、ソワソワ、ウキウキ。可愛いね。

オレの手から手紙を受け取ると丁寧に内ポケットに仕舞った。

手招きして彼らを誘導する。
なんか……予感はしてたけど……さ!

「このマンション、抱えれる動物までが飼育可ですので」
涼しい顔で、スーツケースの彼らを詰め込んで、蓋を閉めた。

「駐車場までですので、大丈夫ですよ」
手慣れた感じでしたけど、散歩の時もそれで外出てた? キャリーバックとかあるんじゃないのぉぉ?

ゴトンと立てる。
中どうなってるの??? アイン、ドゥル、大丈夫???

「行って参ります」
優雅にお辞儀して三田さんが去って行った。

ポツンと取り残されたオレ。

連れていかれたぁぁぁ。

「タク! 連れて行かれた! 追いかける?!」

ソファに座ってる。
当たり前みたいな顔。何、これ事前に打ち合わせ済み? オレだけ蚊帳の外? ブーーーーッ!

膨れてたら、近寄ってきて、頭撫で撫で。
ぎゅっと抱きしめられる。

「機嫌直せ。ーーー二人っきりだぞ?」
チュッチュとつむじにキスしてる。
くすぐったい。

「移動はオレが運んでやるから。今夜は久しぶりにしないか?」
実は、さっきからキュンキュンお腹の奥の奥が疼いて仕方がなくて困ってた。

帰国してから、定期的に血は貰ってたけど、エッチはお預け状態。仕方ないけど、セックスレスです。

「しよ?」優しいタクの声音。
きゅっとタクに抱きついた。
恥ずかしくて、顔上げれないけど、たぶん耳も首も真っ赤になってると思う。
だって、全身熱い。




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