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第七章
■王太子妃ヘレイナは恋バナがお好き
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□王太子妃サイド□
就寝の準備を終えたメイド達が下がり、広いベッドで本を読んでいた王太子妃ヘレイナは、愛する夫であるスザーレントが部屋に入ってきたことで本を置いて彼を迎えた。
「どうしたんだい? 今日はなんだか、いつにも増して楽しそうじゃないか」
「うふふっ、わかりますか? 実は、ファーネから、彼女の恋人のお話を聞いたのですわ」
彼女の隣に滑り込もうとしていた彼が、ピクリと反応する。
「恋人がいたのか」
「ええ、わたくしもメイドから聞いて知ったのですけれど、うふふ、ちゃんとお洒落をして、デートをしているようですわよ。あのファーネですから、てっきり休みの日もスカートなど穿かないのではないかと心配していたのですけれど、杞憂でよかったわ」
夫が少し考え込んでいるのを知ってか知らずか、彼女は楽しそうに続ける。
「お相手なのですけれど、従騎士だった方で、最近第五騎士団から第十騎士団に移動になったそうなの。あなた、ご存じかしら?」
「あ、ああ、彼か。よく知っているよ、迷宮暴走の立役者のひとりだ」
動揺を隠した声に、彼女の顔は明るく輝く。
「まぁ! そうでしたのね。なれそめも聞きましたのよ――」
妻が楽しく話すのを聞きながら、夫は素早く未来を組み立てていく。第一騎士団長に縁組みを打診したが、ファーネ本人にはまだだったのが幸いだった、明日速やかにジェンドに謝罪して取り下げよう。
「でも、第十と第一でしたら、中々お休みも合わなくて大変でしょうね」
ほぅと悩ましげな吐息を吐く彼女に、確かにそうだろうと内心で頷く。第十は一年の多くを遠征に費やすので、王都に居ない期間が多いのだ。
「ううむ……」
悩む声を出す夫を、妻はそっと見守る。
スザーレントが実際に修羅と会ったのは数回しかない、黒目黒髪のまだ若い青年だった、すらりとした立ち姿だがしっかりと筋肉はまとっていた。あれは第十というよりは、第一といわれたほうが納得できる容姿だったと思い出す。第一の表ではなく、裏の仕事ならば色々融通も利く。
「あなたの口の堅さを信じて教えたのですからね、恋愛のお話は口外無用ですわよ?」
「もちろんだよ、馬に蹴られてしまうからね」
クスクス笑う夫に、妻も上品に笑い返す。
その時にはもう、修羅の身の振り方は決まっていた。かつてない大出世だが、表ではないからそうやっかみも出ないだろう、いやファーネを手に入れたいのならばそのくらいの苦労は負ってもらわなくてはならない。
「若い恋人たちの前途に乾杯しないかい?」
「素敵ですわね、うふふ」
ベッドを降りて、グラスを用意する夫の提案に賛成して、妻も優雅にベッドを降りた。
就寝の準備を終えたメイド達が下がり、広いベッドで本を読んでいた王太子妃ヘレイナは、愛する夫であるスザーレントが部屋に入ってきたことで本を置いて彼を迎えた。
「どうしたんだい? 今日はなんだか、いつにも増して楽しそうじゃないか」
「うふふっ、わかりますか? 実は、ファーネから、彼女の恋人のお話を聞いたのですわ」
彼女の隣に滑り込もうとしていた彼が、ピクリと反応する。
「恋人がいたのか」
「ええ、わたくしもメイドから聞いて知ったのですけれど、うふふ、ちゃんとお洒落をして、デートをしているようですわよ。あのファーネですから、てっきり休みの日もスカートなど穿かないのではないかと心配していたのですけれど、杞憂でよかったわ」
夫が少し考え込んでいるのを知ってか知らずか、彼女は楽しそうに続ける。
「お相手なのですけれど、従騎士だった方で、最近第五騎士団から第十騎士団に移動になったそうなの。あなた、ご存じかしら?」
「あ、ああ、彼か。よく知っているよ、迷宮暴走の立役者のひとりだ」
動揺を隠した声に、彼女の顔は明るく輝く。
「まぁ! そうでしたのね。なれそめも聞きましたのよ――」
妻が楽しく話すのを聞きながら、夫は素早く未来を組み立てていく。第一騎士団長に縁組みを打診したが、ファーネ本人にはまだだったのが幸いだった、明日速やかにジェンドに謝罪して取り下げよう。
「でも、第十と第一でしたら、中々お休みも合わなくて大変でしょうね」
ほぅと悩ましげな吐息を吐く彼女に、確かにそうだろうと内心で頷く。第十は一年の多くを遠征に費やすので、王都に居ない期間が多いのだ。
「ううむ……」
悩む声を出す夫を、妻はそっと見守る。
スザーレントが実際に修羅と会ったのは数回しかない、黒目黒髪のまだ若い青年だった、すらりとした立ち姿だがしっかりと筋肉はまとっていた。あれは第十というよりは、第一といわれたほうが納得できる容姿だったと思い出す。第一の表ではなく、裏の仕事ならば色々融通も利く。
「あなたの口の堅さを信じて教えたのですからね、恋愛のお話は口外無用ですわよ?」
「もちろんだよ、馬に蹴られてしまうからね」
クスクス笑う夫に、妻も上品に笑い返す。
その時にはもう、修羅の身の振り方は決まっていた。かつてない大出世だが、表ではないからそうやっかみも出ないだろう、いやファーネを手に入れたいのならばそのくらいの苦労は負ってもらわなくてはならない。
「若い恋人たちの前途に乾杯しないかい?」
「素敵ですわね、うふふ」
ベッドを降りて、グラスを用意する夫の提案に賛成して、妻も優雅にベッドを降りた。
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