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Ⅴ ソロモン革命
2節 先駆 ④
しおりを挟む「ハッチオープン!」
「了解。出入り口、開放セヨ!」
三階、翼竜離発着場。本来はエレンら竜騎士が、スクランブル発進するための場所である。はずなのだが、使われたことは滅多になく、現在翼竜は数匹のみ在留している。
そんなデッドスペースと化していた部屋の壁が、ガラガラと音を立てながら、人力で外側に開くように展開。実に数年ぶりに使われようとしていた。
「開放、完了しまし__」
「よっしゃ行くぜ!」
竜騎士の報告を待つまでもなく、床と壁が水平になった時点で、蹴り出しカッ飛んでいく。
「いぃ~~やっほーうッ!」
翼を展開。叫びながら、僅か数秒でトップスピードに。先日と異なり、高度確保や同乗者への配慮がいらないために、何の遠慮もせずに飛ばすことができる。更に、その時の反省から、魔力効率やペース配分もまた向上しているようである。その速度に匹敵するのは、最早レイヴンくらいなものである(ベリアルのフルパワー形態でも出せないことはないが、そもそも形態変化の認知度が低い)。
そうしてエイジはご機嫌に、大空を飛翔していく。気流を掴み、落ち着いてきたところで、考えを巡らす。
「さーて、着いたらまずは、転移魔じ……あっ」
独り言の途中で何かに気づき、顔が引き攣る。姿勢もブレる。
「やっべ!」
進路を真上に急速変更。そのままターン、城へ向かう。遠心力のエネルギーは F=mv^2/r 。超音速で飛翔する戦闘機よりは遅いが、半径が小さい分、壮絶なGがかかる。しかし、魔族さえ超越した丈夫さである身体を持つエイジは、歯を食い縛りながらそれに耐えてみせ、速度を落とすことなく進路を転回。
「魔術陣、敷くの忘れた‼︎」
一方こちら、翼竜離発着場。僅か二分足らずで、城から七キロ以上離れていったエイジ。その様子を確認したオペレーター達は、ハッチを閉じようとしていたのだが。赤紫色の光が突如向きを真上に変えたかと思うと、再びその輝きを増していき__
「あれは……閉鎖中断、退避ー!」
現場責任者はその動きを捉えると、焦ったように避難命令を下す。ハッチは三分の一ほど上がっていたが、指示に従いその角度を維持、ハッチ周囲及びその直線上から人員が避難する。
避難を終えて一分。今彼がどこにいるか、目視で確認する術は彼らにはなかったが、空気を切り裂く轟音が、その接近を知らせる。衰えぬ気配に、いつ減速するのだと危惧しつつ何もできないオペレーター。
そのままの速度では、城にぶつかる十秒前。彼は手足、そして翼を前方に向け、魔力を全力で噴射。急ブレーキによる慣性によって手足が潰れ、翼がひしゃげる。そんな感覚を覚えながらも耐え抜き、壊れない程度で壁に激突する。
「ゲホッ…ゲホッ……宰相閣下、ご無事で……あれ?」
舞った埃で咳き込む中、風圧から立ち直ったリーダーが壁を見ると、そこには何もいないのであった。
「迂闊ッ」
壁に着地するや否や、エイジはワープルームに向かって疾走していた。
当該の部屋に到着すると、扉を蹴り開き、部屋を見渡し、空いたスペースを見つけて駆ける。膝と手をつき、魔力を高めつつ、魔道具触媒を取り出し魔術を展か__
「あ、どうやって……いや、知らねえわ」
そういえば。自分で展開したことがなかった。やり方がわからない。
立ち上がると、部屋を飛び出す。そして、すぐ近くをたまたま通りかかったメディアをとっ捕まえて、やり方を教えてもらった。否、教えさせた。
そして、成功するとすぐさま再び翔び立った。そして、一回できたからといって油断していたら、やはりというか、苦戦した。
とにかく今日のエイジは、慌ただしいの一言に尽きる。
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