魔王国の宰相

佐伯アルト

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Ⅴ ソロモン革命

2節 先駆 ③

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「じゃあ、会議始めていくよ」

 魔導院の奥、準備室にエイジとレイエルピナが座す。

「で、わたしは具体的に何決めればいいのよ」
「機関車の形状と、動力理論は決まっているから……機関車の大きさ、パーツ種、レール類の規格を決める必要があるね」

「大きさ、か」
「ここで役に立つのが単位だ。これら機械を作るには、全く同じ形状である必要があるからね」

 ここで、部下に通信機制作の指示を出したフォラスが戻ってくる。

「お待たせしましたね。それで、何を話すのです?」

「実は、もうオレから話せることは少ないんだ。構造の説明やらはしたが、実際のSLの大きさだとか、パーツとかについては専門家じゃないので詳しくない。調べるにしても、恐らくバカにならないコストがかかるし。だから、実際に作ってもらった方が早い。ミニチュアの模型を作成して、それから実際に作ると、どれほどの大きさになるか。どんなパーツが必要か。そういったことは、君らにほぼ全面的に任せることになる」

「アンタの知識が、頼りにならないのか……」

 その表情には、翳りが見える。

「ゴメンよ、無能で」
「別に責めてないわ。無能でもないし。ただ、ちょっと不安なだけよ」

 その否定と弱音は、エイジを驚かせる。やはり、第一印象というのは重要なものである。

「んんと、それからフォラスさんには、巻尺の製作を頼みたい。紙など曲がるものに目盛りを描いて、円や曲面の長さを計れるように。円周率の話も後ほどしておこう」
「なるほど、曲面用の定規というわけですか。承知しましたよ」
「出来ることは少ないし、恐らくこれからは全体の指揮や生産部門への協力が主になるけど。それでも、できる限りの協力はするよ。じゃあ設計図、描いていこうか」

 エイジは紙を、そして金属塊を取り出す。

「分かることは少ない。けれどこれだけは言える……何より大事なのはブレーキだ! 安全装置だ! あとは、蒸気圧や速度を示す計器。絶対にこれは整えるよう!」
「そうですね、分かります。では、その旨を書き留めておきましょう」

「で、アンタはなんでそんなもん取り出したわけ」
「これを変形させて、模型にするからだ。さあ、始めよう」


 協議を重ねること二時間。昼を過ぎ、頭が疲れ、エイジも言えることが無くなってきたところで、お開きとなった。

「スイーツが食べたい……」

 そんなことをぼやきながら、食堂でぐったりしているエイジ。そんな彼に迫る影。

「エイジ様、テミス様がお呼びです」
「ふぐぇ……」

 変な声を出しながら、テーブルに突っ伏してしまう。

「……対応できない旨、お断りしますか?」
「いや、行くよ。うん、すぐ行く……」

 のそのそと立ち上がり、ゆったりとした足取り。

「ご無理はなさらないでください!」
「だ~いじょ~ぶ~……本調子じゃないだけ」

 のたのた動くエイジに、シルヴァが心配そうに傍に引っ付く。

「で、彼女どこにいる?」
「三階、リラックスルームにゴク様と」
「よーし、上まで行かなくていい~」

 そのまま階段まで行くと、変わらずやる気無さげにフラフラしたまま、いきなり人間では出し得ない速度で三階まで上る。あまりに前触れがなく、シルヴァが驚き暫く反応できないほどであった。

「おー、ここにいるかぁ~?」
「はい、ここにおります」

 椅子や簡易ベッドが並ぶ部屋。その中央で、テミスはピシッと姿勢正しく待っていた。

「そんな肩肘張って疲れないん?」
「慣れていますから」
「で、何の用さな」

 そんな彼女に遠慮する様子もなく、エイジは近くの椅子に腰掛ける。手を差し出し促すが、されど彼女は立ったまま。そこに漸くシルヴァも追いつく。

「はい、指示を仰ごうかと」
「もう何かした?」
「いいえ、何も。勝手に動いて、貴方の想定と違うことをしたら怒られ……いえ、足を引っ張ってしまうと思ったので」

 彼女の真っ直ぐな視線には、エイジも強く出られない。

「そう……じゃあ、指示を出す」
「お願いします」
「オネガイジマス」

 皇女の横に、ゴグも膝をついて指示を乞う。

「では……。まーず、オレが先行して、この城のワープ室と、アストラスに転移陣を設置し、リンクさせる。なんで、キミらは人集めて。向こうに行く作業員をね。転移魔術陣、物資は転送できない、というかしづらいから、輸送班は普通に向かわせる必要があるけどネ。とゆーわけでぇ、行ってきまーす!」

「エッ……エッ…」
「「…………」」

 椅子を蹴り倒す勢いで立ち上がり、走り去るエイジ。そんな彼にゴグは戸惑い、彼女らは目を見合わせて、肩を竦めるしかなかった。

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