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取引②

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ノアが倒れているのはまわりを茶色い岩壁に囲まれた空間だった。
頭上にはぽっかりと穴があいているが飛びあがって出られる高さではない。

ノアは身を起こした。 
ノアのまわりを囲むように、猫たちが陣どっている。
シルヴェスターはいない。

「あなたたちは、何?」

ノアは聞いた。

「何ということはない、ただのちょっとした集団だよ」 

ノアが目覚めたときに見下ろしてきていたさび猫が答えた。

「あの、出口はどこですか?」

ノアはあたりを見まわした。

さび猫はふふんと鼻で笑い、爪を出した。 

「お前は俺たちに捕えられたんだ。そんなことも分からないとは驚きだな。まぁ落ち着け。あの魔法猫がやってきたら、いくつか条件を飲んでもらう代わりにお前を解放してやる」

さび猫がにやりと笑った。

私はシルヴェスターをおびきよせるための罠に使われているのだ。ノアはそう気づいた。
条件とは何なのだろうか。
ひしひしとが焦りが募ってくる。
 ただ、これだけは言えた。シルヴェスターはここに来ないに越したことはないのだ。 
でも一一 不安だった。
シルヴェスターがここにいてくれたらいいのにと思った。
ついこの前までは恐ろしいと思っていたのに、心境がこのように変わったのはいつからだろうか。 

「シルヴェスターは来ないかもしれない」

ノアは呟いた。あの魔法猫がこれが罠だということに気づかないわけがない。

「どうだろうな」 

さび猫が顔を傾け、嘲笑うように言った。

「まあ、もしかしたらお前を見捨てるかもな」

「それはどうかな」

聞き覚えのある、不敵な自信に満ちた中性的な声が岩壁に響いた。 
岩壁に囲まれた空間の地面に猫の影が落ちる。

ノアの不安は吹き飛ぶと同じに別の不安が湧き上がってきた。条件のことだ。

岩壁の上の穴から地面までは普通の猫なら飛び下りるのを躊躇する高さがあったが、シルヴェスターはひらりと地面に飛び下り、着地した。 

黒い魔法猫が現われたとたん、ノアを押さえつけていた一頭が彼女ののどにかぎ爪をつき立てた。

「怪しい動きをしてみろ。すぐにこいつののどを切り裂くぞ」

低い声でおどす。

 シルヴェスターはただ鼻を鳴らしただけだった。

「私をここに呼びこんだのは何か理由があるのだろう」

シルヴェスターがさび猫につめよた。
さび猫はその気迫に押されて一歩後ずさった。

「さっさといえ。そしてこいつを解放しろ」

倒れているノアを尾で乱暴に示す。

さび猫は再び落ちつきを取り戻し、もったいぶるよう に仲間と目くばせした。 

「その灰色の猫を解放するいくつかの条件を言おう」

さび猫が言った。

「バリアの魔術の呪文を教えるんだ」

 さび猫とシルヴェスターの視線が空間でぶつかり、白い閃光を閉めかせた。
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