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第十一章

419 トルヴァランって

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冒険者達は、今か今かとその時を待っていた。

そして、唐突に上空に映像が映し出された。はっきりと各所が映し出されるそれに、冒険者達がどよめく。

「あ~、これあれじゃん。マリーたんっ!」
「王都のオスローたんかもじゃん? ってか、二人ともかな? 守護妖精ってやっぱすごいんだなあ」

そんな声が集まっている冒険者達の中から聞こえてくる。

だが、事情がわかるのはユースールとトルヴァラン王都で活動する冒険者達だけだ。彼らは教会のお披露目の時など、何度かこれを見ている。

「あ、あの……これ……守護妖精って?」
「魔導具とかじゃねえの?」
「んあ? いや、魔導具も使ってんだろ。コウヤが作ったやつな。けど、こうやって上空に映すのは、魔導具じゃ無理っつてたから」
「ああ。魔導具だと、映すのに白い壁とか布が要るらしいな」
「だから、マリーちゃんが協力するって言ってたんだよな~。これかあ」

上空に映像を映す魔法は可能だが、魔導具ではそこまで調整できないというのを、コウヤを知る冒険者達は聞いて知っている。

知らない者たちは、魔導具がどうのと言う以前の問題なのだが、コウヤがすごい魔導具を作れるというのは、彼らの中では既に当たり前なので、そこには気付かない。

「こ、コウヤ? マリーちゃん……?」

コウヤを知っている冒険者は多い。以前南の島国であった集団暴走スタンピードに参加した冒険者達は、もれなくコウヤを認識していた。

投擲スキルを極めると、すごいことになるのだと実践して見せた印象も強く残っているようだ。

「コウヤって、あの可愛くて有能なギルド職員の子だろ? あの子、魔導具も作れるんだ~」
「ギルド職員なのに、多分俺らより強いしな。そうだっ。投擲スキルっ、俺、【大】までいったぞっ」
「マジかっ。俺ももう少しだと思うんだけどなあ。なんでもっと早くやり始めなかったんだろ……それこそ、冒険者登録した頃から鍛えてれば今頃……」
「それよっ。すげえ無駄にしたよな……」

投擲スキルという、その辺の石コロでも鍛えられるスキルを無駄スキルとしていたことが悔しくて仕方ないらしい。

「腹空かせながら貯めた金で剣買って、何とかやってた頃の自分に言ってやりたいぜ……先ず石を拾えと」
「そして今更石拾ってる俺たちってな」
「もう癖だよな。なんか持ってないと落ち着かない」
「あっ、お前らも? 俺らもココ。この袋に十は入れて持ってる。熟練度が【大】になると貫通するから、剣より楽だよな。まあ、今回みたいな乱戦になる所だと方向とか気を付けんといかんが」

熟練度【中】でも当たるとのたうち回る威力。【大】で骨も関係なく貫通する。

「あたしは、その過程で手に入った『必中スキル』の方が重要だと思うけどね」 
「あ~、アレやばいよな。剣でもなんかブレなくなったってえの? 上手くなった感じすんだよな」
「ねっ、ヤバいよね。アレよ。踏み込みのコツが分かったって感じ。距離感? が掴みやすくなって、力の入れ具合を理解した的なアレよ」
「ああ、アレだな」

冒険者達の多くは感覚で生きている。説明下手だ。それでも伝わるので問題はない。

「『必中スキル』持ちの魔法師だと、魔法の飛距離がめっちゃ延びるって聞いたよ。トルヴァランの魔法師達は、魔法を打つ倍の時間を投擲の練習に費やしてるんだってさ。まあ、魔力にも限界あるし、いい考えだよね」
「あっ、それもコウヤ様の発案です。お陰でここからだと、あの赤いバルーンまで魔法が届きますよ」
「「「「「はあ!?」」」」」

聞いていたトルヴァランの魔法師の一人が当たり前のように告げているが、この感覚はおかしい。

迷宮化した土地の各フィールドの中央に、大きなバルーンが浮いている。コウヤ的には、昔懐かしい開店や特売を知らせるビルの屋上に浮かせるバルーンだ。

そのバルーンの下にはスクリーンにもなる白い布が繋がっている。そこには、フィールドの特徴や出現している魔獣や魔物の数が表示される予定だ。更にはバルーンにも仕掛けがある。

そのバルーンまでは、集合しているこの場から、軽く四百メートルほどあった。普通、一般的な魔法の砲撃距離は五十から百メートルが限界だ。高低差を使って距離を出すことは可能だが、ここからと言ったのだ。明らかにおかしいと誰もが気付く。

しかし、もはや以前の常識を忘れたトルヴァランの魔法師達は、これが当然のこととしている。

「今回はやりませんよ? 必要ないですしね。ただ、だいたいあれくらいの距離を援護できますから、後ろは任せてください。同じグループですよね?」
「え、あ、はい。お願いします」

そうして、そこここで挨拶合戦が始まる。腕に全員巻いている腕章には、番号や色が付いており、同じ番号の者たちで一つのフィールドを担当する。人数としては、四パーティから五パーティ単位で、三十人ほどだ。

その中には、トルヴァランの魔法師や騎士達が散らばって配置されている。

「お願いします。こちらの方が『鷹の目スキル』【極】をお待ちですので、フィールド内は全部見えますから、ご安心を」
「一応、このグループの指揮補佐です。よろしく」
「え、あ……あなた騎士じゃ?」

騎士の制服を着ているのですぐにわかる。冒険者達も少し気にしていた。とはいえ、トルヴァランの冒険者達には彼らはもはや仲間だ。

「はい。トルヴァラン所属です。ですが、私もこちらの魔法師も、冒険者としての活動もしていますので、同業者として接してください」

彼らには、もちろん戦闘にも参加してもらうが、多くのパーティでの合同となるため、一応の副指揮官として配置していたのだ。ただし、一番の指揮官は冒険者でお願いしている。その方が角が立たない。

更に言えば、彼らは報酬なし。今回は実地訓練としての参加だ。

「……あっ、そっか、トルヴァランって、王族も冒険者をするって……マジか……」
「はい。王弟殿下も参加されます。数日かかる作戦ですし、我々は交代で実地訓練も兼ねた参加です。コウヤ様のケータリングもあるので、楽しみなんです!」
「け、ケータ……え?」

騎士達の狙いは大半がソレだ。食事に釣られたのだ。そのためなら、どんな訓練でも笑顔でこなせると思っている。実際、そうなりそうだ。

魔法師達も期待しているが、彼らは食事より、思いっきり魔法を試せるというポイントが一番だ。

「私たちは食事を報酬として楽しみにしているってことです。魔法も試したい放題ですからねっ。私たちもワクワクしてますっ」
「迷宮内だと威力とか気を付けないといけませんからね」
「それはそれで魔力操作系のスキルが鍛えられて良いんですけど、やっぱり外が一番です」
「ベルセンの集団暴走スタンピードの時も楽しんだそうじゃないですか」
「アレは燃えますよっ。それに、冒険者の方たちの魔法の使い方も見えて良かったです。今回も……ふふふ」
「「「「「……」」」」」

冒険者達は、頼もしい仲間が居るんだと思うことにした。他は考えない。思考放棄は得意だ。

そこで、ようやく動きがあった。映像にタリスが映し出されたのだ。

いよいよだと、冒険者達は目を輝かせた。

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二日空きます。
よろしくお願いします◎


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