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53話

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「私はレオーヌ侯爵の妻よ!? こんな扱いをして許されると思ってるの!?」

 薄暗くて冷たい檻の中で、ロザンナは金切り声を上げていた。
 着ていたドレスは剥ぎ取られて、粗末な服が与えられた。着古された物なのか、強烈な悪臭が鼻をつく。

 もちろん、身につけていた装飾品も没収された。
 あのレッドダイヤモンドのネックレスも。

(ああああああ! こんなところ、今すぐに出たいわ! 気が狂ってしまいそう……!)

 この服を着てから、全身の痒みが止まらない。ボリボリと服の上から掻いていると、ますます痒みが酷くなる。
 独房を見回せば、様々な汚れのついた便器と、カビの生えたベッドだけがある。

 嫌だ、絶対に使いたくない。

「さっさと出しなさい! そうだわ……ライラ、私の娘に会わせてちょうだい!!」

 王太子妃となるライラに命じれば、すぐに釈放されるはず。一縷の望みをかけて叫んでいると、足音が聞こえてきた。どうやら女性のようだ。
 もしかして、とロザンナの顔に希望が浮かぶ。

「来てくれたのね、ライラ……!」
「あら、ライラ嬢は亡くなったのではなくて?」

 その声に、ロザンナは息を呑む。
; 檻の前に立ち止まったのは王妃だった。どうしてここに、と疑問が浮かぶが、今はそれどころではない。

「い、いえ、王妃様! ライラは生きていますわ! ルディック伯爵家のフィオナ、あれは私がお腹を痛めて産んだ我が子です!」
「だけど、彼女は農村で焼死体で発見されたらしいじゃないの」
「あれは偽物ですわ! 村の墓場から見繕ってきた女の死体を焼いただけです!」
「あら。何故そのようなことをしたの?」
「ライラが死んだことにすれば婚姻関係も切れて、あの馬鹿娘と結婚できるからと、あのクソガキが言い出したことです! 私たちは、ただそれに従っただけですわ……」

 鼻を啜る演技をしながら訴える。
 それらの言葉に、何一つ偽りはない。

 レベッカとかいう男爵家の娘。
 あんな下等なものを迎え入れるなんて、レオーヌ侯爵家が汚れると思っていた。
 だが、トーマスが新たな結婚相手に選んだのなら話は別だ。嫌悪感を押し殺して、実の娘のように扱うことを心がけていた。

 そして、このまま行けばトーマスとレベッカは夫婦となり、全てが一件落着のはずだった。
 なのに、全てが水の泡だ。レベッカも、今頃は別の牢屋に入れられているだろう。

 激しい喪失感に、ロザンナは歯軋りをする。
 そして、つい口走ってしまった。

「だいたい……ライラが殺されそうになったわけでもないのに、ルディック伯爵家は大袈裟すぎますわ!」
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