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54話

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「……今、何と仰ったのかしら?」

 王妃の頬が僅かにひくついた。しかし、そんな変化に気づく余裕など、今のロザンナにはない。

「大袈裟と申したのです! 私たちが殺そうとしたのは、あくまでルディック家の実子ですわ! それに、結果として死なずに済んだですから、私たちが牢屋に入る必要性はありません!」
「そういうわけにはいかないわ。だって人を殺めようとした人間を、外に放つなんて危ない真似できないもの」
「人聞きの悪いことを仰らないでくださいまし! たった一人を毒殺しようとしただけで、決して無差別に人を殺すつもりはございません! だって、私は侯爵夫人ですわよ? 今まで領民のことばかりを考えて──」
「はぁ……」

 常軌を逸した言い分を、王妃の深い溜め息が遮る。
 そこでロザンナは、我に返って両手で口を覆った。

「お、王妃様っ? 今のは違いますわ。言葉のあやと言いますか……」
「もういいわ。それよりも伝えたいことがあります」
「え?」
「あなたとレオーヌ侯爵令嬢には、終身刑が課せられるわ」
「しゅ……」

 ロザンナの顔が凍りつく。
 法律に疎くても、どのような刑罰なのかは理解できる。

 死ぬまでここから出られない。
 汚い場所で、汚い囚人服を着せられて、ずっと。


「いやぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 ロザンナは絶叫しながら、鉄格子の隙間から王妃に向かって手を伸ばす。

「出して出して出してちょうだいっ!」
「王太子妃の義妹を殺そうとしたのだから無理よ」
「お、夫が黙っちゃいないわ! きっと私を助け出してくださるはずなんだから……!」
「いいえ。レオーヌ侯爵はあなたの減刑を求めてなどいないわ。むしろ、あなたを切り捨てようとしているの」

 そう言いながら、王妃は折り畳まれた一枚の紙を檻の中に差し入れた。

「侯爵からあなた宛ての手紙よ」
「あなたぁ……っ!」

 震える手で紙を受け取り、開いてみる。
 そこに書いてあった文に目を通し、ロザンナはその場に崩れ落ちた。

 それは、レオーヌ侯爵直筆の離縁状だった。



「……もうよろしいでしょうか、王妃殿下」
「ええ。これで気が済んだわ。ありがとう」

 警備兵に礼を言って、地下牢獄を後にする。
 重罪人との面会。本当はこのようなことをすべきではないと分かっているが、ロザンナは親しい間柄であるルディック伯爵家を狙ったのだ。
 あの女が絶望に堕ちる様を、この目に焼きつけたかった。

(あそこでどの程度生きられるかしら?)

 たとえ侯爵夫人であっても、忖度は一切しない。
 プライドの高いあの女には、これから長い時間をかけて苦しませる。
 きっとフィオナも、そのことを望んでいるはずだ。

(だけど、レオーヌ侯爵も意味のないことをするわね)

 彼がロザンナを捨てたのは、自分に火の粉がかからないためだろう。
 しかし、既に手遅れだ。今、この国で一番不穏な状況になっているのはソルベリア領。そして次点に挙げられるのがレオーヌ領だった。

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