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43話
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パーティーの会場は、王宮の東側にあるホールとなっている。侍女に案内されながら、そこへ向かう。
「すごい……! 王宮はこんなに立派なのね!」
レベッカは興奮で頬を紅潮させながら、周囲を見回していた。
彼女の元実家は、パーティーに出席したことがない。貧乏男爵家と陰口を叩かれるからだ。
「そうかなぁ? うちの屋敷とあまり変わらないよ」
トーマスは前髪を指で掻き分けながら、軽く鼻を鳴らした。
「……トーマス様は負けず嫌いね」
「本当のことを言っただけさ。初めて来た時からずっとそう思って……」
「……どうしたの?」
急に口をつぐんだ婚約者に、レベッカが首を傾げる。
「い、いや。ちょっと面倒臭いことを思い出しただけだよ。ははは……」
トーマスの顔は、明らかに引き攣っていた。
パーティーには国内の貴族だけではなく、豪商や他国の貴族も参加している。
錚々たる顔ぶれだが、トーマスに怖じ気づく様子はない。自分もその一員だと認識しているからだ。
「ソルベリア公爵様、お待ちしておりました」
トーマスに声をかけてきたのは、レオーヌ侯爵だった。
その横では、派手な赤いドレスを着た侯爵夫人ロザンナが優雅に扇を仰いでいる。
「久しぶりね、レベッカ。公爵様にご迷惑をおかけしていない?」
「ええ。トーマス様と仲良くしているわ。ね?」
「うん。ちょっとわがままなところもあるけど、そこが可愛いと思っているよ」
レベッカに目配せされて、トーマスは尊大な口調で答えた。レベッカが一瞬、真顔になったことには気づいていない。
「国王陛下たちにも、挨拶をしておかないとね。どこにいるか分かるかい?」
「陛下と王妃殿下なら、あちらにいらっしゃいます」
レオーヌ侯爵が視線を向けた先では、国王夫妻が貴族たちと談笑をしていた。
「あ、あの……メルヴィン殿下はどちらにいるの?」
目当ての人物がいないことに気づき、レベッカがホール内を見渡しながら尋ねる。
「王太子殿下は、今年もご欠席しているんじゃないかしら。あのお方は、このような場には出てこないらしいし……」
ロザンナが残念そうに話している時だった。
突如、会場内が静まり返る。
参加者たちの視線は、一点に注がれていた。
ゆっくりと開かれた扉から、濃紺の髪の青年が姿を見せたのだ。
白を基調とした正装に身を包んだ王太子殿下に、ホール内がざわつく。
「メルヴィン王太子殿下だ……まさかパーティーにご出席していたとは……」
「嘘……あんなに素敵な男性でしたの…!?」
「噂と全然違うじゃないか……!」
両脇にいる兵士とともに、歩き始める。
その先にいたのは──なんと、レベッカ。
カツン、カツンと杖が床を叩く音が響き渡るなか、レベッカは両手で口元を覆う。
(ちょ、ちょっとちょっと! やっぱり私のことを覚えていてくれたのね! やったわ、これで王太子妃の座は私のもの……)
だが、メルヴィンはあっさりと通り過ぎていった。
「え?」
慌てて振り返ると、メルヴィンは自分たちの後方にいた貴族たちに挨拶をしていた。
にこやかな表情の夫妻と、十代半ばの娘。
「ルディック伯爵家……」
ロザンナは声を震わせながら、彼らの名を呟いた。
「すごい……! 王宮はこんなに立派なのね!」
レベッカは興奮で頬を紅潮させながら、周囲を見回していた。
彼女の元実家は、パーティーに出席したことがない。貧乏男爵家と陰口を叩かれるからだ。
「そうかなぁ? うちの屋敷とあまり変わらないよ」
トーマスは前髪を指で掻き分けながら、軽く鼻を鳴らした。
「……トーマス様は負けず嫌いね」
「本当のことを言っただけさ。初めて来た時からずっとそう思って……」
「……どうしたの?」
急に口をつぐんだ婚約者に、レベッカが首を傾げる。
「い、いや。ちょっと面倒臭いことを思い出しただけだよ。ははは……」
トーマスの顔は、明らかに引き攣っていた。
パーティーには国内の貴族だけではなく、豪商や他国の貴族も参加している。
錚々たる顔ぶれだが、トーマスに怖じ気づく様子はない。自分もその一員だと認識しているからだ。
「ソルベリア公爵様、お待ちしておりました」
トーマスに声をかけてきたのは、レオーヌ侯爵だった。
その横では、派手な赤いドレスを着た侯爵夫人ロザンナが優雅に扇を仰いでいる。
「久しぶりね、レベッカ。公爵様にご迷惑をおかけしていない?」
「ええ。トーマス様と仲良くしているわ。ね?」
「うん。ちょっとわがままなところもあるけど、そこが可愛いと思っているよ」
レベッカに目配せされて、トーマスは尊大な口調で答えた。レベッカが一瞬、真顔になったことには気づいていない。
「国王陛下たちにも、挨拶をしておかないとね。どこにいるか分かるかい?」
「陛下と王妃殿下なら、あちらにいらっしゃいます」
レオーヌ侯爵が視線を向けた先では、国王夫妻が貴族たちと談笑をしていた。
「あ、あの……メルヴィン殿下はどちらにいるの?」
目当ての人物がいないことに気づき、レベッカがホール内を見渡しながら尋ねる。
「王太子殿下は、今年もご欠席しているんじゃないかしら。あのお方は、このような場には出てこないらしいし……」
ロザンナが残念そうに話している時だった。
突如、会場内が静まり返る。
参加者たちの視線は、一点に注がれていた。
ゆっくりと開かれた扉から、濃紺の髪の青年が姿を見せたのだ。
白を基調とした正装に身を包んだ王太子殿下に、ホール内がざわつく。
「メルヴィン王太子殿下だ……まさかパーティーにご出席していたとは……」
「嘘……あんなに素敵な男性でしたの…!?」
「噂と全然違うじゃないか……!」
両脇にいる兵士とともに、歩き始める。
その先にいたのは──なんと、レベッカ。
カツン、カツンと杖が床を叩く音が響き渡るなか、レベッカは両手で口元を覆う。
(ちょ、ちょっとちょっと! やっぱり私のことを覚えていてくれたのね! やったわ、これで王太子妃の座は私のもの……)
だが、メルヴィンはあっさりと通り過ぎていった。
「え?」
慌てて振り返ると、メルヴィンは自分たちの後方にいた貴族たちに挨拶をしていた。
にこやかな表情の夫妻と、十代半ばの娘。
「ルディック伯爵家……」
ロザンナは声を震わせながら、彼らの名を呟いた。
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