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44話
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ルディック伯爵家。レベッカもそれを聞いて、目を大きく見開く。
レオーヌ領の隣に、領地を持っている家だ。ロザンナは彼らを目の敵にしているのか、口汚く罵っていたことがあった。
(ど、どうして伯爵クラスが、メルヴィン殿下と話してるのよ……!?)
自分たちなんて見向きもされなかったのに。
困惑しながら義父に視線を向けると、渋い表情で目を伏せている。
しかし、すぐに大きな歩幅でメルヴィンたちへ近づいていった。
「お、お久しぶりでございます、王太子殿下」
「……ああ。離宮で会った時以来か?」
レオーヌ侯爵に挨拶をされて、メルヴィンは冷ややかな声でそう問いかけた。
「ええ。その節は、大変ご迷惑をおかけいたしました」
「ライラ嬢のことは、私も聞いている。何も力になれず、すまなかったな」
「そのようなことはございません! それに、レベッカの明るさが私たちの寂しさを吹き飛ばしてくれました……」
穏やかに語りながら、レオーヌ侯爵がレベッカを一瞥する。
「こ、こんにちは、メルヴィン殿下。お元気そうで何よりですわ」
レベッカもメルヴィンたちへ歩み寄ると、恭しくカーテシーをする。
「……君は相変わらずなようだな」
「ふふっ。私もお話に混ぜてもらってもよろしいでしょうか?」
口元に笑みを浮かべつつメルヴィンの隣を陣取ろうとするが、厳つい顔の兵士に「申し訳ございませんが」と阻まれてしまう。
むっと顔を顰めるレベッカだが、あることに気づいて目を丸くする。
(あら、杖を新しくしたのね……素敵!)
本日のために新調したのだろう。銀製の補助杖には、傷一つついていない。
グリップの脇にはアメジストが埋め込まれていて、神秘的な輝きを帯びている。
レベッカが杖をまじまじと眺めていると、メルヴィンはルディック伯爵に「場所を変えよう」と移動を促した。
「あ、あの? 私もお話を……」
呼び止めようとするが、メルヴィンたちは振り返ることなくその場から離れていった。
その素っ気ない態度に、レベッカがもどかしさを感じて唇を噛み締めていると、
「ぷっ……くくくっ。メルヴィン殿下も、随分と地味な子を選んだよね」
軽く噴き出しながら、トーマスが口を開く。
どうやら、ルディック伯爵令嬢がメルヴィンの恋人だと思っているらしい。
しかし他の貴族も同じことを考えていたらしく、周囲からも困惑の声が聞こえてくる。
(あんな芋娘がメルヴィン殿下と……!? 冗談じゃないわ!)
ルディック伯爵令嬢は、ストロベリーブロンドを緩く束ねた可愛らしい顔立ちだ。だが、レベッカに比べたら数段も劣る。
彼女がメルヴィンに見初められたなんて、絶対に認めたくなかった。
しかしあの親しげな様子は、そういうことなのだろう。
「いいかい、レベッカ。メルヴィン殿下にはちゃーんと相手がいるんだ。だから君も、変なことを考えないで僕だけを見ているんだよ」
「あ、当たり前じゃない……」
トーマスの言葉に、引き攣った声で相槌を打った時だった。
「レベッカ、あなたにちょっとお話があるの。来てもらえるかしら」
「ええ。お母様……」
柔らかな笑みを浮かべたロザンナに促され、レベッカはパーティー会場から抜け出した。
レオーヌ領の隣に、領地を持っている家だ。ロザンナは彼らを目の敵にしているのか、口汚く罵っていたことがあった。
(ど、どうして伯爵クラスが、メルヴィン殿下と話してるのよ……!?)
自分たちなんて見向きもされなかったのに。
困惑しながら義父に視線を向けると、渋い表情で目を伏せている。
しかし、すぐに大きな歩幅でメルヴィンたちへ近づいていった。
「お、お久しぶりでございます、王太子殿下」
「……ああ。離宮で会った時以来か?」
レオーヌ侯爵に挨拶をされて、メルヴィンは冷ややかな声でそう問いかけた。
「ええ。その節は、大変ご迷惑をおかけいたしました」
「ライラ嬢のことは、私も聞いている。何も力になれず、すまなかったな」
「そのようなことはございません! それに、レベッカの明るさが私たちの寂しさを吹き飛ばしてくれました……」
穏やかに語りながら、レオーヌ侯爵がレベッカを一瞥する。
「こ、こんにちは、メルヴィン殿下。お元気そうで何よりですわ」
レベッカもメルヴィンたちへ歩み寄ると、恭しくカーテシーをする。
「……君は相変わらずなようだな」
「ふふっ。私もお話に混ぜてもらってもよろしいでしょうか?」
口元に笑みを浮かべつつメルヴィンの隣を陣取ろうとするが、厳つい顔の兵士に「申し訳ございませんが」と阻まれてしまう。
むっと顔を顰めるレベッカだが、あることに気づいて目を丸くする。
(あら、杖を新しくしたのね……素敵!)
本日のために新調したのだろう。銀製の補助杖には、傷一つついていない。
グリップの脇にはアメジストが埋め込まれていて、神秘的な輝きを帯びている。
レベッカが杖をまじまじと眺めていると、メルヴィンはルディック伯爵に「場所を変えよう」と移動を促した。
「あ、あの? 私もお話を……」
呼び止めようとするが、メルヴィンたちは振り返ることなくその場から離れていった。
その素っ気ない態度に、レベッカがもどかしさを感じて唇を噛み締めていると、
「ぷっ……くくくっ。メルヴィン殿下も、随分と地味な子を選んだよね」
軽く噴き出しながら、トーマスが口を開く。
どうやら、ルディック伯爵令嬢がメルヴィンの恋人だと思っているらしい。
しかし他の貴族も同じことを考えていたらしく、周囲からも困惑の声が聞こえてくる。
(あんな芋娘がメルヴィン殿下と……!? 冗談じゃないわ!)
ルディック伯爵令嬢は、ストロベリーブロンドを緩く束ねた可愛らしい顔立ちだ。だが、レベッカに比べたら数段も劣る。
彼女がメルヴィンに見初められたなんて、絶対に認めたくなかった。
しかしあの親しげな様子は、そういうことなのだろう。
「いいかい、レベッカ。メルヴィン殿下にはちゃーんと相手がいるんだ。だから君も、変なことを考えないで僕だけを見ているんだよ」
「あ、当たり前じゃない……」
トーマスの言葉に、引き攣った声で相槌を打った時だった。
「レベッカ、あなたにちょっとお話があるの。来てもらえるかしら」
「ええ。お母様……」
柔らかな笑みを浮かべたロザンナに促され、レベッカはパーティー会場から抜け出した。
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