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第四世代

深編 虐げられない保障

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新暦〇〇三八年五月五日



野生で生きる上では、<賃金を得るための労働>なんてのは必要ないよな。まあそもそも<賃金>なんてものが存在しないんだから当然と言えば当然か。

だから<働く>ということについて何かを学ぶ必要もない。生きるために戦うことができればそれで済むし、力が及ばなければただ死ぬだけだ。

しかし、地球人は、<社会>を作るにあたって<仕事>というものを作り、<労働>という概念を生み出してきた。それにより、人間社会で生きることができるようにしてきたわけだ。

なにしろ、野生の動物と同じように、ただただ狩猟や採集によって糧を得るなら、別に労働によって賃金を得る必要はないし、そこに覚えなきゃいけないルールもない。

それはつまり、

『<守らなきゃいけないルール>もない』

ということでもある。

ほまれは、まだまだ未熟な子供でありながら自身の縄張りを主張する雄叫びを上げて他の群れを怒らせたりもしたが、野生の場合は実はそれさえ、

『守らなければいけない』

というわけでもなかったりする。

守らなかった場合は大変なリスクを伴ったりもするものの、敢えてそのリスクを冒すことでむしろ得るものがあったりするのも事実なんだ。

『守らないのは勝手だが、結果はすべて自分が負う』

のが野生ってことだな。

対して地球人の場合は、<人権>というものがある。なにかやらかしても、基本的な人権の部分は守られるわけだ。

無謀な冒険をして遭難しても、救助要請を出せば救助に来てもらえるしな。

実際、有名人が冒険旅行に出発した途端に遭難して救助されるということもあったよな。

さらには、犯罪を犯しても、やっぱり人権については守られるわけで。

別にそれを責めたいわけじゃない。<人間社会>というものを穏当に維持するためには、理由があるからといって排除されるようなことがないのが必要なのは確かだし。

何度も言うように、人間、特に地球人ってのは<恨みを忘れない生き物>だ。そして、虐げられれば武器を手にして抵抗や反撃を試みることもある生き物でもある。つまり、人間を虐げるのは結局のところ社会の不安定化を招くってことだな。

だからこそ、『人権を守る』という形で、

<虐げられない保障>

が必要なんだ。

野生の生き物は、身の危険を感じればその場では抵抗や反撃を行うとしても、時間が経ってから復讐を試みるなんてことはまずしない。そこまで恨みを引きずらないってことだろう。

そして、ルールを守らずにやらかしても影響は限定的だ。最悪、群れが一つどうにかなる程度で済んでしまう。

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