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第四世代

彗編 人間というもの

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回転翼機は、さすがにハチ子よりも非常に大きな音がするので、集落のすぐ近くまで来てもらうのは憚られた。だから、

「エレクシア、頼む」

と告げると、

「承知しました」

彼女は一切の躊躇なく承諾してくれて、回転翼機が来る方向へと<救急救命モード>で向かった。彼女なら、回転翼機の飛行速度とほとんど変わらない速度で密林の中さえ移動できる。

こうして、しょうの縄張りを少し外れた辺りで合流し、やはりジャンプしてそのまま回転翼機に掴まり、赤ん坊を受け取ってすぐさま引き返してきた。

「バイタル安定しています。状態は悪くありません」

とんでもない速度で密林の中を駆け抜けながら、他の動物達がいればそれを曲芸のように躱しながら、彼女はそう告げてくる。蓮華れんげの時にはもう搬送中に危険な状態だったが、今回は違うということだ。

助かる可能性が十分にある。

そして集落まで戻ってくると真っ先に光莉ひかり号へと飛び込み、赤ん坊を治療カプセルへと収める。これにより詳細な解析がなされ、赤ん坊はほぼ健康な状態だというのが確認された。救出されたタイミングが良かったんだ。

一方、クロコディアの母親の方も、意識を取り戻し、

「? …?」

自分が生んだはずの赤ん坊がいないことに戸惑っている様子だったものの、実際に生まれたのを目の当たりにしていたらそのまま食ってしまっていただろうから、申し訳ないが返せない。

すまない。

それに、野生のクロコディアの場合、<アーマード・ピラルク>をはじめとした肉食の猛獣のような魚は数多くいて、生まれてすぐ命を落とす子供も珍しくはないはずだった。

だから母親も、気を失っていた間にそういうのに襲われてしまったんだと判断してくれるんじゃないかな。

地球人の場合、母親と子供をこんな形で引き離すのは酷いと思われるにしても、正直、野生の場合だと出産の時は非常に危険で、母子共に命を落とすことも珍しくないだろう。だから、生んだ子が死んだり攫われたりすればすぐに気持ちを切り替えて次というのも当然だったりする。

何度も言うように、嘆いている間に命を落としかねないような環境じゃ、そういうもんだよな。

その一方で、こんなことを考えてるのは俺自身に対する<言い訳>でもあるのは事実。やっぱり母親と子供を引き離すことについては引け目も感じるんだよ。引き離さなきゃ九分九厘殺されてたのは間違いないにしても、それとは別に申し訳なさも拭い切れない。

これもまた人間というものだよなあ……

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