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シモーヌ

ここにいる意味(彼女にもそれはある)

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新暦〇〇〇九年二月八日。



「これはここ、こっちのはここ、分かる?」

「はい、分かりました」

ひかりにそう指示を受けて洗濯物を片付けていたのはイレーネだった。メイフェアが作ってくれた<義手>を右手に付け、ぎこちないながらもある程度は手として役にも立つそれを使って器用に服を畳み、クローゼットに仕舞っていく。

新しいことを覚えられないと言っても、日用品や服の置き場所くらいなら覚えることもできる。もちろん、人の名前も。ただ、データとしてずっと蓄積していくことができないんだ。だから<気を利かせる>ということができない。

メイトギアは主人に関するデータを蓄積していくことで、主人が何を望みどういう気持ちでいるかということも察することができるようになる。それができないということだ。

正直、人間社会においては、それができないメイトギアに価値はない。そういう意味ではイレーネは完全に『壊れて』いる。動作してても、それは『メイトギアとしての機能を果たしている』とは言わない。

ただ、ひかりはそんなイレーネのことが気になるようだ。まるで<妹>の世話でもするかのように構ってやっている。

いや、ある意味ではひかりにとっては新しい妹なんだろうな。

あかりもいずれひかりと同じようになっていくだろうが、その前にイレーネの世話をすることになったか。

その様子が何だか微笑ましい。

「イレーネ、絵本読んであげる」

作業が終わると、ひかりはそう言って絵本を開いて、イレーネに読み聞かせていた。

以前はめいに対してそうしてたが、そのめいかくというパートナーができたことであまりここに寄りつかなくなり、なんとなく、寂しい思いもしていたのかもしれない。そこにイレーネが来たことで、絶好の相手になったということか。

って、これじゃ俺の<嫁>と言うより、<娘>みたいなものだな。

でもまあいいか。ひかりの遊び相手になってくれたなら、それで十分に役に立ってると言えるだろう。

<役に立たないロボット>にならずに済んだということだな。

こうして俺は、ひかりが読む絵本に耳を傾けるイレーネの姿を見て、ホッとするものを感じることができたんだ。メイトギアとしては欠陥品でも、彼女がここにいる意味はちゃんとある。それがなによりだった。

もし今後も、こういう形でメイトギアが発見されたとしても、これで安心かもしれない。何だかんだと役には立ってくれるだろうし。

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