彼は私を妹と言った薄情者

緑々

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01モグリ

③僕の足跡

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 さっき声をかけてくれたと思ったのに、レンはいつの間にかスヤスヤと寝息を立てていた。起こさないようにゆっくりと足音を立てないように外に出てみる。

 全て木で作られている事や、作られてからおそらく何十年も経っていることからどうしてもミシミシと鳴ってしまうのは防ぎようがなかった。

 扉を固定していた木の板で外して外に出る。 やはり中と違って外はそこそこ冷えるようで、一瞬で震えてしまう。でもやっぱり気分転換にはちょうど良かったかもしれない。

 そして何となく自然と隣の家に目が向かう。どうやらシュランはまだ起きているようだ。 ほんのりとロウソクの灯が窓辺から見えていた。

 今の時間にお邪魔する訳にも、行かないよな。 行ったらそれこそ明日にでもレンに首を絞められてしまいそうだ。 レンはシュランの二つ上の年齢らしい。 だけど、もう十年近くシュランに片思いをしているらしい。 なぜ、告白しないのかと聞いたことがあったな。

 普段はお調子者の一面がある癖に、告白が失敗して今の関係が壊れてしまうことが嫌なのだって珍しく俯いた表情で語ってくれたのを思い出す。 それを聞いて、じゃあ僕がシュランに告白しちゃおうかな、取られる前にって言ったら頭を三回くらい殴られた。暫くタンコブが出来て痛かった。

 冗談でもそれだけは言うんじゃねえ!なんて、かなり怒られたのを思い出す。だけど、僕もその時ばかりは真剣な表情で答えたんだ。 「冗談じゃない。 本気でシュランが好きになってしまったんだ」って。

 それを言ったらレンはなんて言ったと思う? 「……記憶が戻るまでは絶対に告白するな。記憶が戻っても本当に好きなら勝手にしろ」って。

 記憶が戻るまで……その言葉は確かに納得をした。記憶が戻ってもシュランが好きなのかと言われて、自信を持って肯定できるだけの度量を持ち合わせていなかった。多分レンにはそれを見抜かれていたんだと思う。

 それに、前に村長にも言われたことがあるんだ。 記憶を戻すのを渋っておるな? と。 レンにだって家族は居るはずじゃ、両親もそうだし、もしかしたら結婚もしているかもしれない。子どもだっていたかもしれない。え?記憶を思い出したくないって言ってない?そうじゃったかな? 老人の戯言だとおもって聞き流しとくれ。すまんかったな。

 そう言われたことがある。 腰も曲がっていて、この村の誰よりも背が小さいのに、立派な髭を生やして豪快に笑う村長。 そんな村長に何度、何度背を押されてきたことか。

 だからこそ、記憶を取り戻すまでシュランに告白は出来ない。 だからレンに僕が記憶を取り戻すよりも前にシュランに告白した方が良いよって言った。 なのにレンは深くため息を吐いた。 衝撃の事実だった。

 「シュランがどこの馬の骨かも分からん男に恋してるってのに、告白できるかばぁぁぁか」

 と言われた。そのすぐ後に掴み合いの喧嘩をしたっけ。 なんでそれを早く言ってくれなかったんだよ!って。 シュラン本人が恋をしているんじゃ、僕が記憶を戻した所で告白できる訳が無いじゃんか!と反論もしたな。 その後に鈍感野郎がって罵られた。 煽られたんだ。 僕が記憶を取り戻したら告白したいなって決意した時にもそう思っていたのかと。

 それから暫くは、多分、三日くらいは口も聞いてなかったと思う。 三日で済んだのはシュランからの雷があったからかな。 そこそこ大きい獲物を見つけた時に、レンと喧嘩していたせいで上手く連携が取れずに大怪我をしてしまった。

 それからはいつも通りに……まぁ時折、どっちの方がシュランの事を好きなのかみたいな議論は増えたけど、仲良く過ごせていると思う。

 そんな事を考えながら、シュランの家を見ていたらシュランが窓を開けて、その時に目が合ってしまった。 流石に自分でも不審者過ぎたかなと、反省をした。窓越しに手を振ってきたから振り返して、もう少し奥の方まで歩いてみる。

 そして、一つの大きな木の下に座る。 深呼吸をする。昼間とはまた違った空気感がある。上を見上げればキラキラと輝く星が見える。

 「誰なんだろうね、君は」

 こうやって星空を見上げる度に、最近は何かを感じるんだ。いつのひか、どこかで誰かと肩を組みながら見上げていたような、そんな不思議な感覚。 僕と背丈もそんなに変わらない、愛おしい、守りたくなる存在が居たような気がするんだ。
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