彼は私を妹と言った薄情者

緑々

文字の大きさ
上 下
7 / 15
01モグリ

④僕の足跡

しおりを挟む
 「またレンに怒られるよ?」
 「あ、シュラン……ごめん」
 「なんで謝るの? 少し空気を吸いたくて窓を開けただけ。気にしないで。 そしたらモグリが居たから、扉を開けたのにもう何処かに行こうとしてたから驚いたわよ」

 そう言ってケラケラと笑う彼女は、僕の隣に腰掛けてきた。 僕を助けてくれた恩人。 僕が大好きになってしまった人。 僕は記憶を戻った後も、彼女を好きで居る事が可能なのだろうか? 何だか胸がザワついて何度も何度も落ち着かせるように撫でた。

 「また、傷が痛むの?」
 「あ、うんん。 今は大丈夫だよ。シュランがいるからかな?」
 「なにそれ。 それにしても、モグリがこの村に流れてからもう三年かあ……あっという間だね」
 「さっきまで僕も同じこと思ってた」

 そうして二人で顔を見合わせながら肩を揺らしながら笑い合う。 彼女の笑いと共に揺れる綺麗な髪の毛がふわりと揺れる。昼間はリボンで結っているから、いつもとは雰囲気も違って見える。

 「あ、みてよシュラン。こんな所にドングリが落ちてるよ」
 「あ、ほんとだ……丸くて可愛い」

 落ちていたどんぐりをいくつか手のひらに乗せてコロコロと遊んでみる。 その中でもいちばん綺麗だと思ったどんぐりを一つ手に取る。

 「何してるの?」
 「ちょっと待ってね、いい事思いついた」

 シュランがぐいっと顔を近寄せて覗き込んで来ていて少し恥ずかしかったし、耳が赤くなっていないかな、なんて心配になる。 こんな所で役に立つとは思わなかった、丈夫な木の枝を細く削って作った針を懐から取り出す。

 村のみんながよく、味見していく?って言うから何本か針を作っていたんだ。レンに見つかった時には「この食いしん坊」ってデコピンをされた事も今では懐かしい一つの思い出だ。

 どんぐりの帽子の少し下に貫通させた穴を覗き込みながら、首を傾げる。

 「んー、一つじゃ物足りないなぁ」

 シュランの話を続けない事には申し訳なかったけど、一個目より二つ目、二つ目より三つ目と様々な形のどんぐりに穴を開けた。 そして自分の髪の毛を適当に結んでいたリボンを解いて、クルクルと細くしながら六つのどんぐりの穴に通す。

 「それ可愛いね」
 「うん。 シュランに似合うかなって思って……これあげるよ」
 「……いいの? 嬉しい、嬉しいよ、ありがとうモグリ。 」

 これあげる、と言った直後に奪うようにして握りしめて満面の笑みでニコニコとしているシュラン。 まさかそんなに喜んで貰えるとは思わなくて自然と口元が緩むのが自分でもわかった。

 その途端にシュランが、僕の髪の毛を手櫛で整えてシュランが多分、ポケットに入れてたであろう緑色のリボンをとって結ってくれた。

 「髪の毛、まとめないで明日の狩りに行ったらレンに怒られるからね……」

 その言葉に確かにと笑う。それに流石にそろそろ寝ないとレンに怒られちゃうな。 そう思って戻る事にした。

 「……明日から暫く遠出してくるね。一ヶ月で戻るから」
 「なんかそんな感じのことハリーヌさん達も言ってた気がする。分かった。気をつけてね。待ってるから」
 「うん。待ってて……帰ってきてから美味しいもの作るから」

 その言葉に僕は思い切り顔を上げてシュランを見た。 シュランの料理はこの村の中でもいちばん美味しいと思っている。毎日食べても食べても飽きない大好きな味。

 そしてシュランの手を握って言った。下心を丸出しだったかもしれない。 きっとレンに聞かれたら殴られるかもしれない。だけど、その時の僕はどうにかしていた。シュランには片思いしている人がいるのに。

「シュレアの手はいつも暖かいね。それに――」

 多分、明確には思い出せないけど確かそれがモグリとしての僕とシュランの最後の会話だった気がする。シュランには馬鹿じゃないのと言われ、背中を押されながら村まで戻ってその日は別れた。 「またね」と言いながら。


――モグリとしての僕は心の底から君を、シュランの事を愛しています。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

【コミカライズ&書籍化・取り下げ予定】お幸せに、婚約者様。私も私で、幸せになりますので。

ごろごろみかん。
恋愛
仕事と私、どっちが大切なの? ……なんて、本気で思う日が来るとは思わなかった。 彼は、王族に仕える近衛騎士だ。そして、婚約者の私より護衛対象である王女を優先する。彼は、「王女殿下とは何も無い」と言うけれど、彼女の方はそうでもないみたいですよ? 婚約を解消しろ、と王女殿下にあまりに迫られるので──全て、手放すことにしました。 お幸せに、婚約者様。 私も私で、幸せになりますので。

愛する貴方の心から消えた私は…

矢野りと
恋愛
愛する夫が事故に巻き込まれ隣国で行方不明となったのは一年以上前のこと。 周りが諦めの言葉を口にしても、私は決して諦めなかった。  …彼は絶対に生きている。 そう信じて待ち続けていると、願いが天に通じたのか奇跡的に彼は戻って来た。 だが彼は妻である私のことを忘れてしまっていた。 「すまない、君を愛せない」 そう言った彼の目からは私に対する愛情はなくなっていて…。 *設定はゆるいです。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます

おぜいくと
恋愛
「あなたの秘密を知ってしまったから私は消えます。さようなら」 そう書き残してエアリーはいなくなった…… 緑豊かな高原地帯にあるデニスミール王国の王子ロイスは、来月にエアリーと結婚式を挙げる予定だった。エアリーは隣国アーランドの王女で、元々は政略結婚が目的で引き合わされたのだが、誰にでも平等に接するエアリーの姿勢や穢れを知らない澄んだ目に俺は惹かれた。俺はエアリーに素直な気持ちを伝え、王家に代々伝わる指輪を渡した。エアリーはとても喜んでくれた。俺は早めにエアリーを呼び寄せた。デニスミールでの暮らしに慣れてほしかったからだ。初めは人見知りを発揮していたエアリーだったが、次第に打ち解けていった。 そう思っていたのに。 エアリーは突然姿を消した。俺が渡した指輪を置いて…… ※ストーリーは、ロイスとエアリーそれぞれの視点で交互に進みます。

わたしのことがお嫌いなら、離縁してください~冷遇された妻は、過小評価されている~

絹乃
恋愛
伯爵夫人のフロレンシアは、夫からもメイドからも使用人以下の扱いを受けていた。どんなに離婚してほしいと夫に訴えても、認めてもらえない。夫は自分の愛人を屋敷に迎え、生まれてくる子供の世話すらもフロレンシアに押しつけようと画策する。地味で目立たないフロレンシアに、どんな価値があるか夫もメイドも知らずに。彼女を正しく理解しているのは騎士団の副団長エミリオと、王女のモニカだけだった。※番外編が別にあります。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】愛も信頼も壊れて消えた

miniko
恋愛
「悪女だって噂はどうやら本当だったようね」 王女殿下は私の婚約者の腕にベッタリと絡み付き、嘲笑を浮かべながら私を貶めた。 無表情で吊り目がちな私は、子供の頃から他人に誤解される事が多かった。 だからと言って、悪女呼ばわりされる筋合いなどないのだが・・・。 婚約者は私を庇う事も、王女殿下を振り払うこともせず、困った様な顔をしている。 私は彼の事が好きだった。 優しい人だと思っていた。 だけど───。 彼の態度を見ている内に、私の心の奥で何か大切な物が音を立てて壊れた気がした。 ※感想欄はネタバレ配慮しておりません。ご注意下さい。

処理中です...