彼は私を妹と言った薄情者

緑々

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01モグリ

④僕の足跡

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 「またレンに怒られるよ?」
 「あ、シュラン……ごめん」
 「なんで謝るの? 少し空気を吸いたくて窓を開けただけ。気にしないで。 そしたらモグリが居たから、扉を開けたのにもう何処かに行こうとしてたから驚いたわよ」

 そう言ってケラケラと笑う彼女は、僕の隣に腰掛けてきた。 僕を助けてくれた恩人。 僕が大好きになってしまった人。 僕は記憶を戻った後も、彼女を好きで居る事が可能なのだろうか? 何だか胸がザワついて何度も何度も落ち着かせるように撫でた。

 「また、傷が痛むの?」
 「あ、うんん。 今は大丈夫だよ。シュランがいるからかな?」
 「なにそれ。 それにしても、モグリがこの村に流れてからもう三年かあ……あっという間だね」
 「さっきまで僕も同じこと思ってた」

 そうして二人で顔を見合わせながら肩を揺らしながら笑い合う。 彼女の笑いと共に揺れる綺麗な髪の毛がふわりと揺れる。昼間はリボンで結っているから、いつもとは雰囲気も違って見える。

 「あ、みてよシュラン。こんな所にドングリが落ちてるよ」
 「あ、ほんとだ……丸くて可愛い」

 落ちていたどんぐりをいくつか手のひらに乗せてコロコロと遊んでみる。 その中でもいちばん綺麗だと思ったどんぐりを一つ手に取る。

 「何してるの?」
 「ちょっと待ってね、いい事思いついた」

 シュランがぐいっと顔を近寄せて覗き込んで来ていて少し恥ずかしかったし、耳が赤くなっていないかな、なんて心配になる。 こんな所で役に立つとは思わなかった、丈夫な木の枝を細く削って作った針を懐から取り出す。

 村のみんながよく、味見していく?って言うから何本か針を作っていたんだ。レンに見つかった時には「この食いしん坊」ってデコピンをされた事も今では懐かしい一つの思い出だ。

 どんぐりの帽子の少し下に貫通させた穴を覗き込みながら、首を傾げる。

 「んー、一つじゃ物足りないなぁ」

 シュランの話を続けない事には申し訳なかったけど、一個目より二つ目、二つ目より三つ目と様々な形のどんぐりに穴を開けた。 そして自分の髪の毛を適当に結んでいたリボンを解いて、クルクルと細くしながら六つのどんぐりの穴に通す。

 「それ可愛いね」
 「うん。 シュランに似合うかなって思って……これあげるよ」
 「……いいの? 嬉しい、嬉しいよ、ありがとうモグリ。 」

 これあげる、と言った直後に奪うようにして握りしめて満面の笑みでニコニコとしているシュラン。 まさかそんなに喜んで貰えるとは思わなくて自然と口元が緩むのが自分でもわかった。

 その途端にシュランが、僕の髪の毛を手櫛で整えてシュランが多分、ポケットに入れてたであろう緑色のリボンをとって結ってくれた。

 「髪の毛、まとめないで明日の狩りに行ったらレンに怒られるからね……」

 その言葉に確かにと笑う。それに流石にそろそろ寝ないとレンに怒られちゃうな。 そう思って戻る事にした。

 「……明日から暫く遠出してくるね。一ヶ月で戻るから」
 「なんかそんな感じのことハリーヌさん達も言ってた気がする。分かった。気をつけてね。待ってるから」
 「うん。待ってて……帰ってきてから美味しいもの作るから」

 その言葉に僕は思い切り顔を上げてシュランを見た。 シュランの料理はこの村の中でもいちばん美味しいと思っている。毎日食べても食べても飽きない大好きな味。

 そしてシュランの手を握って言った。下心を丸出しだったかもしれない。 きっとレンに聞かれたら殴られるかもしれない。だけど、その時の僕はどうにかしていた。シュランには片思いしている人がいるのに。

「シュレアの手はいつも暖かいね。それに――」

 多分、明確には思い出せないけど確かそれがモグリとしての僕とシュランの最後の会話だった気がする。シュランには馬鹿じゃないのと言われ、背中を押されながら村まで戻ってその日は別れた。 「またね」と言いながら。


――モグリとしての僕は心の底から君を、シュランの事を愛しています。
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