彼は私を妹と言った薄情者

緑々

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01モグリ

②僕の足跡

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――悶々と色々なことを考えていると背中をポンポンと叩かれて「眠れないのか?」と声をかけられた。レンだ。 どうやらまた夜中に椅子に座って頬杖をしながら、ボーッと過去の事を思い出していたらしい。

 「もうすぐ、この村に来て三年になるからかな。皆との日常ばかり思い出してしまうんだ。なんだか記憶を思い出さなくてもいいやって思えてしまうほど、この村は幸せで、楽しい事ばかりだよ」
 「ふっ……それは嬉しい限りだな。俺もお前がそう言ってくれて嬉しいよ。それにしても毎日のように夜中に起きていたら寝不足になるから程々にな」

 レンに頭をくしゃくしゃと撫でて貰いながら、それは確かにそうだ、と笑ってしまう。 手を引かれてさあ自分のベッドに戻りなさいと言われ、立ち上がった時に胸に走るチリチリとした痛みに顔を歪めてもう一度椅子に座ってしまう。

 「それも最近は多いな……本当に隣町の医者に行かなくて平気か?」
 「このくらい大丈夫だよ……多分古傷が疼いてるだけだと思うから」

 そう言って彼は僕の背中を優しく撫で続けてくれた。 僕もそれに身を委ねるように深呼吸をして、左胸から左脇腹にかけてをそっとなぞる。

 記憶を失う前に獣か何かに襲われたのか、僕の体には深く抉られたような傷跡が残っている。シュランやレンにもあと少しでも心臓に近いところを抉られていたら即死していたはずだと言われたくらいの傷。

 この傷と向き合う度に、早く記憶を思いださ無ければいけないような気持ちに支配される一方で、思い出したところで本当にそれは幸せなのだろうか、と考えてしまう自分もいる。だから記憶は戻らなくてもいいや、なんて事も考えてしまう。

 村のみんなが必死に記憶が戻るように、優しく声をかけて暖かく接してくれている。だからこのままここで暮らしたいな、なんて甘えたことは言えない。言えるはずもない。

 「ごめんね、もう落ち着いた……あ、ありがとう」
 「気にすんな、それ飲んだらもう寝るぞ」

 額に浮かんでいる汗を腕で拭ってから、水の入った手渡されたコップを一気に飲み干した。 飲み干した頃にはすでにレンは自分のベットに戻っていたから僕も急いで自分の所に戻る。 主に枯葉で出来たクッションを麻布で包んだものだけど、寝心地はとっても良い。

 この辺りは虫が多いから最初はその点も心配していた。けれど、どうやらハリーヌさんはこの村で唯一魔法に適正があるらしく、虫除けの魔法で編み込んだ特別な麻布らしい。

 レンが言うには昔は毎日のように「なんで唯一の魔法使いなのに虫除けの魔法なのよ!そこはもっと、こう光魔法とか? 癒し魔法とか? 炎とか!服を一瞬で生み出せるようなものじゃないのかしら」と言ってうるさかったらしい。 普段はニコニコとしているハリーヌさんしか知らないため、その光景を想像して暫くは肩を震わせて笑っていたっけな。

――「寝ろ、モグリ」

 いつの間にかクスクスと声に出して笑ってしまっていたのか、レンにまた声をかけられてしまう。今度は少しイライラとした様子で。流石に申し訳なくなって思い切り目を閉じる。

 目を閉じたけれど、どうやら完全に目が覚めてしまったようで夢の中に誘われるような感覚が一切感じられない。 これは、もう諦めるしか無いかな。 そう思って思い切り体を起こした。
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