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8の扉 デヴァイ

美しい檻

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「ねえ。前に、ダーダネルスは。が「美しい檻」だって、言ってたよね?」


美しい白の空間、あの時から「なにか」が通った礼拝堂の中は、空気が澄んでとても居心地が良い。

ゆっくりと辺りを見渡しながら歩を進めていた私は、くるりと振り返って白に透ける銀髪を見た。

この、中で見るとやはり銀髪の彼は、同じ様に内部を観察しながら感じた事を教えてくれた。


「以前とは。少し、違いますね。」

「はい。」

何かを言いたそうに口を開いたユークレース。
しかしダーダネルスにチラリと見られると、口をつぐんでしまった。

この二人の立場はダーダネルスが上らしい。
きっと年齢はそう、変わらないが家格が上なのだろう。

まぁダーダネルスはなんだかビシッとしてて、「委員長」みたいだからね…家格じゃなくても黙っちゃいそう。

そんな事を考えながらも、フラフラと白の空間を歩く。

光なのか、灯りなのか。

内部は明るく、それもとても心地がいい要因なのだと分かる。

大きく息を吸いながら、次の言葉を待っていた。


「何か、は具体的には分かりませんが。軽く、なった気はします。向こうは、明らかに明るくなりましたしね。」

「あっ!どう?ダーダネルスは畑は行った?」

そう言えば子供たちの事を聞きたいんだった。
確かネイアやセイアも、何人かは畑の実験をしている筈だ。

しかし、私の期待の込もった眼差しに薄茶の瞳は芳しくない色を見せる。
何か、あったのだろうか?

そう言えばウイントフークさんが………。


私の石をこの前奪われたばかりだ。
イストリアに渡すのが間に合わなかったのだろうか。

きっと顔に出ている私を安心させる為か、少し微笑んだダーダネルスはチラリとユークレースを見ながら、こう言った。

「いえ、この前ので。足りた様です。しかしやはり差は、どうしても歴然としています。」

「うん?でもネイアにも石を………」

あれ?
配った、って言ってもいいのかな?

私は、構わないけど…。


チラリと見上げた瞳は既にユークレースに「外へ出る様に」促している。

「あ、待って!」

でも。

つい、呼び止めていた自分が、いた。

ユークレースを信頼している、と言うのもあるけれど。

「これから」は。
できれば、一部の人のみ、知る事が多いのではなくが。

「本当のこと」を知って、自分で判断して欲しいと、思ったからだ。

ユークレースは、この話を知っても他言しないだろう。

勿論、耳にしてすぐに話す人もいるとは思う。
でも、「言ってはいけないこと」でも無いし「全体のことを考え話すかどうか判断する」力は、必要だと思う。

きっと私の事を利用しようとする人は、話すだろうし危険な目に遭うかもしれないけれど。

も含めて、きっと全部ひっくるめて、まな板の上に出して、切るか切らないか、料理するのか、捨てるのか。

決めたらいいと、思うのだ。


「結局、なんでも秘密にするからややこしくなるんだと思うんだよね………。」
「しかし姫、………」
「でも、ユークレースは言わないもん。ね?」

私達にじっと見つめられ、ベンチの向こうにいる彼は少し困った顔を見せた。

けれどもきちんと、私の目を確認すると。

「勿論。僕はあなたを、尊敬していますから。」

「えっ。」

尊敬?
そんな、大変なことに??

アワアワしている私を前に、こちらへ近づいて来るユークレース。

白い装飾や床、壁、オルガンを指しながら愛おしそうに口を開いた。

「僕に「色を表していい」と、言ったのはあなただ。それからは。自分でも、いい仕事ができていると、思います。これまで誰も認めてくれなかったけれど、自分でも解っていなかったんです。。これだけでも、出来が全く違ってきます。僕にとって、表現は命だ。この空間に、こうして息吹が芽生えて。誰しもが、何かしら感じている筈です。」

「僕達は、まだ。「終わり」じゃ、ないと。」


生成りの光が、白の床をサアッと通る。

誰も口を開かない白い礼拝堂の中は、「清浄」のみが存在できる、空間となって。

私達をゆっくりとその白の中に浸して、いた。


正直、私は涙を堪えて、いたけど。

やはりこの空間に通ったチカラ、デヴァイ全体での空気が少し軽くなったのだと、あの全体礼拝の朝を思い出して胸が熱くなる。


 解る人には、解るんだ。


それが無性に、嬉し過ぎて。


泣くのを堪えて出てきた蝶達が、この白の空間に鮮やかな「色」を差してゆく。


ああ、なんだか、もう。

このまま、真っ白になっちゃわないかな………。


高い、天井迄を彩り嬉しそうに舞う蝶達が目に眩しい。

無言で側のベンチに腰掛け、そのまま横になりただ、天井を見ていた。

お行儀が悪いかもしれないけど。
こんなの、堪能しないと無理だ。

私は、私の中から出たこの美しい蝶達すら、また自分の糧にして。

進むんだ。

美しい、ものを見て。


だって。私は。


 美しく、在りたい から。


見た目じゃない。
そういう事じゃ、なくて。

存在として、美しく在りたいんだ。

だって。


 「 私は  小さな 星  ♪  」


口を突いて出る、あの謳。

最近、口癖の様に謳う、あの子守唄だ。


私を剥いて、全部脱いで、丸裸にしたならば、在る光は。

きっと美しい、ものであって。

なんにもない、何も、持ってないんだけど。

ただ、美しさだけは、あるんだ。


ただ、ただそこに、在って。

周りを、ひたすらに照らす、そんな光。


小さいけれど、確かにそこに、ある光。


そんなのが、いい。


そういうもので、在りたい。



適当に謳う私の子守唄は、初めの一小節だけは決まった節なのだけど、その後は適当だ。

段々と崩れ始めた歌に、蝶達が舞い降りてきたのが分かる。

「フフッ」

ヘタクソだからかな??

辺りを見ると、既にダーダネルスは少し離れたベンチで上を見上げ、この景色を堪能している様に見える。

彼の中の栄養にも、なればいいと思うけど。


案の定ユークレースは、ほぼ惚けた様に上を見上げ手が忙しそうに宙を動いている。
きっと自分の中にスケッチでも、しているのだろう。

気持ちは分かる。

景色を留めておきたいと。

思うのは、何かを創り出す者ならば皆が持つ、感情だと思うから。


「………あ。」

そう言えば。


「絵が、上手い人って。何処に、いますかね?」

いきなり起き上がった私に面食らう二人は顔を見合わせている。

あの旧い神殿で感じた、あの時の。

「時が止まった」、感覚。


きっと、ここの廊下にある絵のレベルならばを再現できる様な気が、するんだけど?

それともあれ、まじないなのかな………??


「どうしました?」

「…………うーん。でも、きっとにはいないかも知れません。多分、いるとすれば銀でしょうね………。」

答えてくれたのはユークレースだ。
やはり、そちら系に詳しいのだろう。

ダーダネルスは私を心配している様だけど、銀なら?
うーん、どうだろうか。
これは本部長案件かしら………。



「おやおや、これは。どうした事か。」

固まった私達三人を振り向かせた、聞き覚えのある声。

「ヨル!凄いですね!」

「ちょっと派手過ぎやしないかい。」

現れたのはフリジアとメルリナイトだ。

「どうして………?」

きっとユークレースは入ってこれないまじないでも張っていたのだろう。
しかしきっと、魔女には通用しなかったに違いない。

楽しそうにはしゃぐメルリナイトと、フリジアにダメ出しをされているユークレースを見ながらダーダネルスに頷いて、ベンチに腰掛けた。

きっとここからあの話は長い筈だ。


そうして私は、ダーダネルスからグロッシュラーの近況を聞きながら蝶とくるくる回る、ピンクの髪を見ていたのであった。

うむ。

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