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第三話 ヒロインのいない物語
04-5.彼女は世界の真実を語る
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同情的になってしまう。
私たちのように貴族であれば生まれ持った力の使い方を知ることができただろう。その力は皇国の為に使うべきなのだと幼い頃から言い聞かせられていたのならば、このような事件を引き起こさなかったのではないだろうか。
エイダは私たちが辿る可能性のあった姿だ。
感情的に力を振るい、与えられた居場所から逃れようとすれば、私も同じように狂った笑みを浮かべていたのだろう。
「なぜ、お前は笑っていられる?」
この状況に気づけないのだろうか。
力に溺れたのか。それとも、力を制御する心を放棄してまで手に入れたいものが出来てしまったのか。
「なんで? だって、私はこんなに幸せなんだもの。幸せだから、笑っちゃうのよ。そういうものでしょ?」
お前の故郷の町が滅びそうになったことを知らないのか。
そのようなことはありえないと分かっている。それでも、そんなことを思ってしまうのは仕方がないだろう。
故郷が滅びの危機に陥るほどの襲撃を受けたというのにもかかわらず、魔物を傍において笑っているのだ。幸せだと口にしているのだ。
その異常な姿からは狂気すら感じられる。
「そうか。それがお前の答えか」
魔物の影響を受けたのかもしれない。
人間の心を忘れてしまったのかもしれない。そもそも、最初から良心を持ち合わせていないのかもしれない。
「残念だよ」
攻撃手段を奪うしかないだろう。
簡単に魔物を制御するエイダを目の前にして引き連れて来た部下たちは怯えている。戦力として連れて来たのだが、これでは巻き込まれて命を落とすだけだろう。
エイダの異常さはこの場では私だけが見慣れたものだ。
学院に通っていた頃はここまで異常ではなかった。少なくとも故郷の人々が苦しんでいると知っていても笑っているような人間ではなかった。
「【氷の刃氷の刃】」
白銀の腕輪に魔力を込めて魔法を発動させる。
大量の【氷の刃】は驚いた表情のエイダを避けて魔物たちに突き刺さる。
本来ならば一つ、二つの氷の刃を生成する魔法だが、多量の魔力を込めればその数は変化する。全ての魔物を仕留める為には数えきれないほどの量が必要だった。
その為の準備期間だったとも知らず、嬉しそうに話していたエイダは目を見開いたままだ。
とはいえ、私も余裕があるわけではない。
消費した魔力は膨大だ。何発も放つわけにはいかない。なにより、部下たちを守りながら魔物を凍らせてしまうのには魔力を大量に消費する。
「【凍れ】」
検体材料として騎士団に引き渡す必要があるだろう。
命令を聞く魔物は突然変異個体の可能性もある。その為にも生きたまま凍らせなくてはならない。
【氷の刃】が命中した個所から凍らせていく。致命傷を負っているからだろうか。抵抗せずに魔物が凍っていく姿は恐怖すら感じる。
まさか、エイダの命令に従い続けているのだろうか。
エイダを取り囲んでいた魔物たちが氷漬けになっていく中、彼女は人形のように表情が落ちていた。驚いたからなのだろうか。
それは数秒ほどの変化だったが、なぜか、その表情が引っ掛かる。
なにかを見逃しているのではないだろうか。
魔物を制御するエイダを捕縛することに重点をおいていたが、なにかがおかしい。
「ど、どうして!? この子たちが何をしたというのよ!! 酷い、酷いわ!」
凍り付いていく魔物たちをまだ庇うのか。
生きながら凍り付けにされたのは残酷だと表現されても否定はできない。
それでも検体として生きたまま、騎士団に引き渡す為にはこの方法しかないのだから仕方がないだろう。
人間に危害を与える可能性もないようにするためには、心身の自由を奪うしかない。優先するべきは人間の安全だ。
「もう止めて! みんなが苦しんでいるわ!!」
エイダは魔物を庇うのは、罪だということを知らないのだろうか。
「みんな、良い子なの! 話せばわかってくれるわ!」
魔物を庇えば反逆罪に問われる。
皇国に害を成そうとしたと判断されるのは誰だって知っていることだ。知らなかったというのならば、それは、無知という名の罪だ。
「公爵閣下、許可を」
「分かっている。エイダを捕縛しろ」
ルーシーは地面を蹴り上げて飛び上がった。
いつ見ても無駄がない。あの動きを習得する為にはまだまだ鍛錬が足らない。感心しながら見ていればエイダは直ぐに地面に叩き付けられた。
魔物を相手にする必要がなくなったからだろうか。
ルーシーの動きには迷いも恐怖もなかった。
「【電撃衝撃】」
「ぎゃああああああああああああっ!!」
叩き付けられた直後にエイダの身体が跳ねあがる。
聞いたこともない悲鳴だ。それもそうだろう。ルーシーが得意としている【電気衝撃】は恐ろしい魔法だ。
「ああああああああっ!!」
身体中に走る電気の痛みは意識を失う事すら出来ない。
失っても直ぐに覚醒させられる痛みだそうだ。
「いぎゃああああっ!!」
逃げられる事を阻止する為とはいえ、躊躇なく人に対して使う技ではない。
そのくらいに非情な姿を見せる必要があったのだから仕方がない。アリアを可愛がっているルーシーのことだから、私情の恨みも晴らしているのだろう。
「……お前が大人しくていればこのような事にはならなかっただろう」
平民は平民らしく大人しくていれば良かったのだ。
皇帝陛下の治安を乱すようなことをしなければ良かったのだ。
「皇国の害になるのならば排除する」
二度とアリアに関わらなければ、二度と私に関わろうとしなければ、私はその命を見逃しても良いと思っていた。
祖父からは甘いと言われるが、それでも、罪を悔いているのならば見逃しても良いと思っていた。
「残念だ、エイダ。お前とは分かち合えそうもないよ」
それがアリアの願いだったからだ。
優しすぎるアリアはエイダの命を奪えば、ローレンス様が悲しまれると心配していた。だからこそ、なにも問題がなければ見逃してほしいと言ったのだ。
他人の心配ばかりをする優しい異母妹の願いだからこそ、見逃していた。
「エイダ。意識は残っているだろう」
【電気衝撃】の痛みから解放されても一時間は身動きがとる事は出来ない。
「話をしよう」
身体の自由が奪われたかのような恐怖を味わいながらも逃げることが出来ないのが、この魔法の恐ろしいところである。
私たちのように貴族であれば生まれ持った力の使い方を知ることができただろう。その力は皇国の為に使うべきなのだと幼い頃から言い聞かせられていたのならば、このような事件を引き起こさなかったのではないだろうか。
エイダは私たちが辿る可能性のあった姿だ。
感情的に力を振るい、与えられた居場所から逃れようとすれば、私も同じように狂った笑みを浮かべていたのだろう。
「なぜ、お前は笑っていられる?」
この状況に気づけないのだろうか。
力に溺れたのか。それとも、力を制御する心を放棄してまで手に入れたいものが出来てしまったのか。
「なんで? だって、私はこんなに幸せなんだもの。幸せだから、笑っちゃうのよ。そういうものでしょ?」
お前の故郷の町が滅びそうになったことを知らないのか。
そのようなことはありえないと分かっている。それでも、そんなことを思ってしまうのは仕方がないだろう。
故郷が滅びの危機に陥るほどの襲撃を受けたというのにもかかわらず、魔物を傍において笑っているのだ。幸せだと口にしているのだ。
その異常な姿からは狂気すら感じられる。
「そうか。それがお前の答えか」
魔物の影響を受けたのかもしれない。
人間の心を忘れてしまったのかもしれない。そもそも、最初から良心を持ち合わせていないのかもしれない。
「残念だよ」
攻撃手段を奪うしかないだろう。
簡単に魔物を制御するエイダを目の前にして引き連れて来た部下たちは怯えている。戦力として連れて来たのだが、これでは巻き込まれて命を落とすだけだろう。
エイダの異常さはこの場では私だけが見慣れたものだ。
学院に通っていた頃はここまで異常ではなかった。少なくとも故郷の人々が苦しんでいると知っていても笑っているような人間ではなかった。
「【氷の刃氷の刃】」
白銀の腕輪に魔力を込めて魔法を発動させる。
大量の【氷の刃】は驚いた表情のエイダを避けて魔物たちに突き刺さる。
本来ならば一つ、二つの氷の刃を生成する魔法だが、多量の魔力を込めればその数は変化する。全ての魔物を仕留める為には数えきれないほどの量が必要だった。
その為の準備期間だったとも知らず、嬉しそうに話していたエイダは目を見開いたままだ。
とはいえ、私も余裕があるわけではない。
消費した魔力は膨大だ。何発も放つわけにはいかない。なにより、部下たちを守りながら魔物を凍らせてしまうのには魔力を大量に消費する。
「【凍れ】」
検体材料として騎士団に引き渡す必要があるだろう。
命令を聞く魔物は突然変異個体の可能性もある。その為にも生きたまま凍らせなくてはならない。
【氷の刃】が命中した個所から凍らせていく。致命傷を負っているからだろうか。抵抗せずに魔物が凍っていく姿は恐怖すら感じる。
まさか、エイダの命令に従い続けているのだろうか。
エイダを取り囲んでいた魔物たちが氷漬けになっていく中、彼女は人形のように表情が落ちていた。驚いたからなのだろうか。
それは数秒ほどの変化だったが、なぜか、その表情が引っ掛かる。
なにかを見逃しているのではないだろうか。
魔物を制御するエイダを捕縛することに重点をおいていたが、なにかがおかしい。
「ど、どうして!? この子たちが何をしたというのよ!! 酷い、酷いわ!」
凍り付いていく魔物たちをまだ庇うのか。
生きながら凍り付けにされたのは残酷だと表現されても否定はできない。
それでも検体として生きたまま、騎士団に引き渡す為にはこの方法しかないのだから仕方がないだろう。
人間に危害を与える可能性もないようにするためには、心身の自由を奪うしかない。優先するべきは人間の安全だ。
「もう止めて! みんなが苦しんでいるわ!!」
エイダは魔物を庇うのは、罪だということを知らないのだろうか。
「みんな、良い子なの! 話せばわかってくれるわ!」
魔物を庇えば反逆罪に問われる。
皇国に害を成そうとしたと判断されるのは誰だって知っていることだ。知らなかったというのならば、それは、無知という名の罪だ。
「公爵閣下、許可を」
「分かっている。エイダを捕縛しろ」
ルーシーは地面を蹴り上げて飛び上がった。
いつ見ても無駄がない。あの動きを習得する為にはまだまだ鍛錬が足らない。感心しながら見ていればエイダは直ぐに地面に叩き付けられた。
魔物を相手にする必要がなくなったからだろうか。
ルーシーの動きには迷いも恐怖もなかった。
「【電撃衝撃】」
「ぎゃああああああああああああっ!!」
叩き付けられた直後にエイダの身体が跳ねあがる。
聞いたこともない悲鳴だ。それもそうだろう。ルーシーが得意としている【電気衝撃】は恐ろしい魔法だ。
「ああああああああっ!!」
身体中に走る電気の痛みは意識を失う事すら出来ない。
失っても直ぐに覚醒させられる痛みだそうだ。
「いぎゃああああっ!!」
逃げられる事を阻止する為とはいえ、躊躇なく人に対して使う技ではない。
そのくらいに非情な姿を見せる必要があったのだから仕方がない。アリアを可愛がっているルーシーのことだから、私情の恨みも晴らしているのだろう。
「……お前が大人しくていればこのような事にはならなかっただろう」
平民は平民らしく大人しくていれば良かったのだ。
皇帝陛下の治安を乱すようなことをしなければ良かったのだ。
「皇国の害になるのならば排除する」
二度とアリアに関わらなければ、二度と私に関わろうとしなければ、私はその命を見逃しても良いと思っていた。
祖父からは甘いと言われるが、それでも、罪を悔いているのならば見逃しても良いと思っていた。
「残念だ、エイダ。お前とは分かち合えそうもないよ」
それがアリアの願いだったからだ。
優しすぎるアリアはエイダの命を奪えば、ローレンス様が悲しまれると心配していた。だからこそ、なにも問題がなければ見逃してほしいと言ったのだ。
他人の心配ばかりをする優しい異母妹の願いだからこそ、見逃していた。
「エイダ。意識は残っているだろう」
【電気衝撃】の痛みから解放されても一時間は身動きがとる事は出来ない。
「話をしよう」
身体の自由が奪われたかのような恐怖を味わいながらも逃げることが出来ないのが、この魔法の恐ろしいところである。
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