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第三話 ヒロインのいない物語
02-4.答えのない物語を歩む
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怖くなって教会に隠れていようと言い出した私の我儘を聞き入れてくれて、今も、危ない事はしなくていいって言ってくれる。
「ママ。私はね、ママが思っているような優しい子じゃないわ。みんなを救う力がないからって一週間も教会に引き籠っていられるし、壁の向こう側から聞こえる助けを求める声だって聞こえないふりをするわ。仕方がないじゃないって自分を守る為の言い訳なら山のようにあるわ」
本音を言えば、ママの優しい言葉に甘えていたいわ。
誰だって危ない所に行きたくないでしょ。
「パパと合流さえできれば、町を捨てて、避難しようって言ったわよ。それこそ、みんなのことを捨ててでも、私はパパとママと生きる方法を探すわ」
死にたくないし、怖い思いをしたくないわ。
なにより、家族を失いたくない。
当たり前でしょ? 私だって死にたがりじゃないもの。
「でも、それができないなら他の方法を探すしかないじゃない」
教会にいれば安全は保障されるとわかっているわ。
だからこそ、私は誰かが助けてくれることを願っているだけで何もしようとしなかったのだもの。
「私みたいなのが聖女だって知ったらみんな怒るわね。……そんな顔をしないでよ、ママ。私はわかっているの。怒られるようなことをしてきたのだもの。それでも、パパとママが私を愛してくれるから生きてみようと思ったのよ?」
ここが乙女ゲームの世界だって思って生きてきた。
私がこの世界から愛されるヒロインだって思って生きてきた。
「だから、私は逃げるのをやめるの」
全てが思い通りになるんだって心の底から思っているわ。
今だって、ヒロインとしての力を失ってしまったのは、私への試練なのだと思っているの。
「もう一度、前に進むのよ」
試練を乗り越えたら良いことがあるでしょう?
物語ってそういうものじゃない。
「だからね、ママ。私を大切にしてくれてありがとう。ママとパパの娘だもの。少しでも自慢になれるようなことをしないといけないって思い直したのよ」
ようやく前に進もうと思えたのよ。
一週間も教会に籠っていたからこの生活に嫌気が差したっていうのも理由の一つだけど、それでもいいじゃないの。
「ママ。私ね、ママとパパが思っているよりも最低なことをしてきたのよ。みんなが噂しているよりも最低なことをしたわ。私が幸せになる為に世界があるって心の底から思っていたのよ。……それを言っても、あの時、ママは笑って許してくれたから。パパは幸せになって何が悪いって言ってくれたから、だから、私は自殺をしなかっただけよ」
前回とは全く違う行動をし始めたイザベラは、私が死んでも何も思わなかったかもしれない。
「そんな顔をしないでよ。私は私のしたことに責任を持てるような年齢なのよ? もう子どもじゃないの」
「まだ、子どもよ。ママたちの大切な娘だもの」
「うん。でもね、こんなところで引きこもっているだけだと何も変わらないの」
「そんなのは理想論よ、エイダちゃん。ママとここにいましょう? きっと、落ち着けばパパが迎えに来てくれるわ」
「一週間前も同じことを言っていたわよ、ママ」
「何回でも同じことを言うわ。エイダちゃんが思い留まってくれるなら、ママ、なんだってしてあげるから。だから、ママと一緒にいましょう?」
「ダメよ。私は動かないといけないの。そうしないと、イザベラの隣に並べないままだもの。大好きな人の為になることがしたいの」
私は今でもイザベラのことが大好きなのはなにも変わらないわ。
だって、彼女は私を守ってくれたのよ。
六年前、ただの村娘だった私を守ってくれた彼女のことを嫌いになれるわけがないじゃないの。
「私は行くわ。動かないとなにも変わらないもの」
私はイザベラの隣にいたいの。
大好きな彼女の親友と自信をもって言えるだけの立場がほしいの。
「大丈夫よ、ママ。私、六年間もヒロインをしてきたんだから」
その為には私はなんだってしてきたわ。
今だって、手段を選ばない。
「私ね、大好きな人がいるの。ローレンス様のことも大好きだけど、それよりも大好きな人よ。私の生きる意味といっても過言ではないわ。一週間も教会に籠っていて思い知ったの。私はここでは死にたくないって」
もう一度、イザベラの隣に並ぶのよ。
私だけの英雄の隣に並ぶの。
英雄の隣には聖女がいるのは、物語の定番でしょう?
「これはね、私に与えられた最後のチャンスなの」
私はそうなりたいの。大好きな人の為に生きていきたいの。
「六年前のやり直しなのよ」
私はヒロインじゃなくなってしまった。
重罪を背負った町娘というべきかもしれないわ。簡単な魔法薬を作ることしか出来ない魔女の成り損ない。
それでも、私はようやく私になれたの。
前世や乙女ゲームに囚われて暴走していたヒロイン擬きではなくて、ただのエイダになれたの。
それはパパとママが私を愛してくれているって、初めて気づいたから。
だから、私は今度こそ生き残るの。
そして、ヒロインでもない、ただの私としてイザベラの隣に並ぶのよ。それはヒロインだった頃よりも難しいことだってことは分かっているわ。
「私は自分の力で生き残ってみせるわ。だからね、ママ、そんな顔をしないでよ」
「……エイダちゃん。わかるでしょう? エイダちゃんは感情的になりすぎよ。公爵閣下は領民を守ってくださっただけなの。エイダちゃんが特別だったわけじゃないわ」
「わかっているわ。だから、特別になるのよ」
「いい加減に諦めてちょうだい。公爵閣下の特別になれるのは、アリアお嬢様だけなのよ」
「そんなのわからないじゃない! あの女よりも私の方がイザベラの隣に相応しいわ!!」
ママの言いたいことがわからないわけじゃない。
でも、そんなのは簡単に受け入れられない。
「エイダちゃん。一方的に付き纏うのは良いことじゃないわ」
ママは間違っていない。
そんなことは、わかっている。
「公爵閣下だって迷惑しているわ。だから、もう諦めてちょうだい」
「嫌よ。諦めるなんてできないわ!」
「エイダちゃん、学院で何を経験したのかわからないけど、でも、もう立場が違うのよ。手が届かない人なの。だから、それはエイダちゃんを苦しめるだけだわ」
間違いを正そうとするママの気持ちは理解できるわ。でも、わかりたくない。
「……ママにはわからないわよ」
私は多くの関係のない人を巻き込んできたわ。
私は、誰かの為になにかをする資格は無いのかもしれない。
「誰かを犠牲にしてでも、傍にいたいって思える人がいるの。きっと、ママにはわからないわ。……ママが正しくても、私は止まれないの。止まったら、二度と私はイザベラに近づけないもの」
それが間違っていることなんて言われなくてもわかっている。
「ママ。私はね、ママが思っているような優しい子じゃないわ。みんなを救う力がないからって一週間も教会に引き籠っていられるし、壁の向こう側から聞こえる助けを求める声だって聞こえないふりをするわ。仕方がないじゃないって自分を守る為の言い訳なら山のようにあるわ」
本音を言えば、ママの優しい言葉に甘えていたいわ。
誰だって危ない所に行きたくないでしょ。
「パパと合流さえできれば、町を捨てて、避難しようって言ったわよ。それこそ、みんなのことを捨ててでも、私はパパとママと生きる方法を探すわ」
死にたくないし、怖い思いをしたくないわ。
なにより、家族を失いたくない。
当たり前でしょ? 私だって死にたがりじゃないもの。
「でも、それができないなら他の方法を探すしかないじゃない」
教会にいれば安全は保障されるとわかっているわ。
だからこそ、私は誰かが助けてくれることを願っているだけで何もしようとしなかったのだもの。
「私みたいなのが聖女だって知ったらみんな怒るわね。……そんな顔をしないでよ、ママ。私はわかっているの。怒られるようなことをしてきたのだもの。それでも、パパとママが私を愛してくれるから生きてみようと思ったのよ?」
ここが乙女ゲームの世界だって思って生きてきた。
私がこの世界から愛されるヒロインだって思って生きてきた。
「だから、私は逃げるのをやめるの」
全てが思い通りになるんだって心の底から思っているわ。
今だって、ヒロインとしての力を失ってしまったのは、私への試練なのだと思っているの。
「もう一度、前に進むのよ」
試練を乗り越えたら良いことがあるでしょう?
物語ってそういうものじゃない。
「だからね、ママ。私を大切にしてくれてありがとう。ママとパパの娘だもの。少しでも自慢になれるようなことをしないといけないって思い直したのよ」
ようやく前に進もうと思えたのよ。
一週間も教会に籠っていたからこの生活に嫌気が差したっていうのも理由の一つだけど、それでもいいじゃないの。
「ママ。私ね、ママとパパが思っているよりも最低なことをしてきたのよ。みんなが噂しているよりも最低なことをしたわ。私が幸せになる為に世界があるって心の底から思っていたのよ。……それを言っても、あの時、ママは笑って許してくれたから。パパは幸せになって何が悪いって言ってくれたから、だから、私は自殺をしなかっただけよ」
前回とは全く違う行動をし始めたイザベラは、私が死んでも何も思わなかったかもしれない。
「そんな顔をしないでよ。私は私のしたことに責任を持てるような年齢なのよ? もう子どもじゃないの」
「まだ、子どもよ。ママたちの大切な娘だもの」
「うん。でもね、こんなところで引きこもっているだけだと何も変わらないの」
「そんなのは理想論よ、エイダちゃん。ママとここにいましょう? きっと、落ち着けばパパが迎えに来てくれるわ」
「一週間前も同じことを言っていたわよ、ママ」
「何回でも同じことを言うわ。エイダちゃんが思い留まってくれるなら、ママ、なんだってしてあげるから。だから、ママと一緒にいましょう?」
「ダメよ。私は動かないといけないの。そうしないと、イザベラの隣に並べないままだもの。大好きな人の為になることがしたいの」
私は今でもイザベラのことが大好きなのはなにも変わらないわ。
だって、彼女は私を守ってくれたのよ。
六年前、ただの村娘だった私を守ってくれた彼女のことを嫌いになれるわけがないじゃないの。
「私は行くわ。動かないとなにも変わらないもの」
私はイザベラの隣にいたいの。
大好きな彼女の親友と自信をもって言えるだけの立場がほしいの。
「大丈夫よ、ママ。私、六年間もヒロインをしてきたんだから」
その為には私はなんだってしてきたわ。
今だって、手段を選ばない。
「私ね、大好きな人がいるの。ローレンス様のことも大好きだけど、それよりも大好きな人よ。私の生きる意味といっても過言ではないわ。一週間も教会に籠っていて思い知ったの。私はここでは死にたくないって」
もう一度、イザベラの隣に並ぶのよ。
私だけの英雄の隣に並ぶの。
英雄の隣には聖女がいるのは、物語の定番でしょう?
「これはね、私に与えられた最後のチャンスなの」
私はそうなりたいの。大好きな人の為に生きていきたいの。
「六年前のやり直しなのよ」
私はヒロインじゃなくなってしまった。
重罪を背負った町娘というべきかもしれないわ。簡単な魔法薬を作ることしか出来ない魔女の成り損ない。
それでも、私はようやく私になれたの。
前世や乙女ゲームに囚われて暴走していたヒロイン擬きではなくて、ただのエイダになれたの。
それはパパとママが私を愛してくれているって、初めて気づいたから。
だから、私は今度こそ生き残るの。
そして、ヒロインでもない、ただの私としてイザベラの隣に並ぶのよ。それはヒロインだった頃よりも難しいことだってことは分かっているわ。
「私は自分の力で生き残ってみせるわ。だからね、ママ、そんな顔をしないでよ」
「……エイダちゃん。わかるでしょう? エイダちゃんは感情的になりすぎよ。公爵閣下は領民を守ってくださっただけなの。エイダちゃんが特別だったわけじゃないわ」
「わかっているわ。だから、特別になるのよ」
「いい加減に諦めてちょうだい。公爵閣下の特別になれるのは、アリアお嬢様だけなのよ」
「そんなのわからないじゃない! あの女よりも私の方がイザベラの隣に相応しいわ!!」
ママの言いたいことがわからないわけじゃない。
でも、そんなのは簡単に受け入れられない。
「エイダちゃん。一方的に付き纏うのは良いことじゃないわ」
ママは間違っていない。
そんなことは、わかっている。
「公爵閣下だって迷惑しているわ。だから、もう諦めてちょうだい」
「嫌よ。諦めるなんてできないわ!」
「エイダちゃん、学院で何を経験したのかわからないけど、でも、もう立場が違うのよ。手が届かない人なの。だから、それはエイダちゃんを苦しめるだけだわ」
間違いを正そうとするママの気持ちは理解できるわ。でも、わかりたくない。
「……ママにはわからないわよ」
私は多くの関係のない人を巻き込んできたわ。
私は、誰かの為になにかをする資格は無いのかもしれない。
「誰かを犠牲にしてでも、傍にいたいって思える人がいるの。きっと、ママにはわからないわ。……ママが正しくても、私は止まれないの。止まったら、二度と私はイザベラに近づけないもの」
それが間違っていることなんて言われなくてもわかっている。
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