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第三話 ヒロインのいない物語
02-3.答えのない物語を歩む
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* * *
ヒロインではない私にはなにも価値がないわ。
ヒロインの私にだけが価値があるの。
パパとママが認めてくれただけでいいって思うようにしたわ。……本当よ。でもね、それだけで生きていけるような心の強さは私にはもっていなかったの。
だって、そうでしょう。
六年前から私はヒロインとして生きてきたのだもの。
そのせいで大切な人たちを傷つけたわ。
これが神様の下した天罰だっていうのならば、私の命をあげる。
だから、私たちを助けてよ。
私の故郷を壊さないで。私の大切な人たちを奪おうとしないで。
……きっと、私にはもう願う権利もないのだろうけど。
神様。どうか私にもう一度だけ機会を与えてください。
六年前のように、イザベラが私たちを救ってくれた日のように、もう一度だけ生き延びる機会を与えてください。
私はヒロインとしての力を失ってしまったけれども、それでも、まだ死にたくはないの。
* * *
一週間前からクリーマ町は魔物に襲われるようになった。
元々、この時期は魔物の姿が確認されていたけど、でも、これほどに酷いことはなかったってパパもママも言っていたわ。
何日も魔物の襲撃が続くことはありえなかった。
これが天罰だというのならば私は神様を恨むわ。
「エイダちゃん?」
「なあに、ママ」
「難しい顔をしてどうしたの? 考え事?」
「ううん。大丈夫よ。どうしたらみんなを救えるのか、考えていただけだから」
もしも、私が力を失っていなければ誰も死ななくてすんだのだと思う。
ヒロインとしての私にはみんなを癒す魔法が使えたのだもの。それさえ、今も使うことができていれば、私はみんなを死なせずにすんだのに。
「ママ。寝ていてもいいよ」
ママは私を庇って怪我をした。
私なんて庇う価値もないのに。腕が痛いはずなのに。
それでも、ママは私のことばかりを心配する。
今だって寝てなくちゃいけないのに、私のことを心配してくれている。
「なにか、きっと、いい方法があるはずなのよ」
前回は戦争だってしたわ。私欲で引き起こした戦争だったわ。
でも、生死を彷徨う人たちを数えきれないほど奇跡の力で治療することが出来たし、魔物に襲われるようなことはなかったはずよ。
物語が変わってきているとしか言いようがない。
それなら、どこかに打開策があるはず。ここは神様が作った世界だもの。
どこかに攻略する方法があるはずなのよ。
「攻略方法を見つければ、きっと、みんなが助かるはずなのに」
あの時、私が救うことが出来なかったのは、イザベラだけだった。
致命傷だったからなのかもしれない。もしかしたら、イザベラは生きることを諦めてしまったのかもしれない。
「私を信じてくれてるみんなの為にも、なんとかして、方法を見つけなきゃ……」
今は誰も助ける事が出来ないなんて、誰も信じてはくれないの。
当然よね。私は、聖女だったのだもの。
その力はみんなを救う為の力だったのに。私が幸せになる為だけに使い続けたから、だから、聖女の力を持つ資格を失ってしまったんだわ。
それでも、私のことを信じてくれるママたちを見捨てられるわけがない。
資格がないなら取り戻すまでよ。
必死になれば、きっと、方法が見つかるはずだから。
「エイダ!! お前は教会から聖女に選ばれたんだろう!? 娘を助けてくれ!」
「いいや! 先に俺の息子を助けてくれ! 討伐隊に加わって怪我を負ったんだ! 優先するべきだろう!?」
「エイダお姉ちゃんっ、ママを助けてっ」
「ばーちゃんが死んじゃうよ! 助けてよ!!」
私とママを匿って下さっている神父様は言っていたわ。
恐ろしい事の前触れか、神様のお怒りではないかって。
聖女だった私を危険には晒せないって神父様は言ってくださったの。
……私はもう聖女としての力がないってことを言えなかった。
だって、それを言ってしまったらママも危ない所に放り出されてしまうもの。
せめて、ママの傷が癒えるまでは黙っていたって怒られないでしょう? ママが死んでしまったら大変だもの。
私は家族が大切なの。
だから、私に助けを求める声には応えない。
応えたって助けることはできないもの。仕方がないでしょう?
代わりに、みんなを助ける方法を見つけて見せるから。だから、その方法が見つかるまでは安全なところで隠れさせてもらうの。
「ママ。うるさくない? 大丈夫?」
「……大丈夫よ、エイダちゃん」
「もっと、いい部屋を与えてくれたら良かったのに」
「安全な場所にいられるだけでも感謝をしないといけないわ」
「うん、わかっているよ、ママ。ただ、言いたかっただけだから」
今日も私たちが避難をしている教会には、たくさんの人たちが助けを求めてやってくる。
壁の薄い奥の部屋に閉じこもっているようにと神父様の御優しい配慮によって、私とママは助けを求めてくる人たちから逃げることができるの。
分かっているわ。最低だって。
でも、仕方が無いじゃない。
逃げている途中に魔物に襲われて、左腕を骨折したママを置いていくわけにはいかないもの。討伐隊に加わっているパパの安否も分からないし、ここでママのけがが癒えるまで待っていてもいいじゃない。
……力さえ失っていなければ最前線に立ってみんなを助けにいったわ。
神父様から提案されて、怪我に効く魔法薬を生成しているけど、それだってみんなの手元に渡っているのか分からないわ。
神父様に渡した魔法薬がみんなの手元に渡っているのなら、少しは、良くなっているはずなのに、今日も助けを求める声がやまない。
「……ママ」
ヒロインではない私にはなにも価値はないのかもしれない。
みんなを救うことが出来る力を失ってしまった私にはなにも出来ないわ。
「この薬を毎食後、一本ずつ飲んでね。一週間分あるわ。効果は少ないけど、でも、一週間飲み続ければ痛みが取れるわ。私ね、魔法学院に通っていた時に魔法薬作りは得意だったの」
「ええ、知っているわ、エイダちゃん。でも、お薬は神父様に渡さないといけないのよ?」
「そうだけど、でもね、これはママの分よ。ねえ、ママ、これは神父様には渡してはだめよ。神父様に渡す分はこの箱の中にしまってあるわ。ママは私の代わりに、神父様に毎日二十本ずつこの箱から渡してね」
「わかったわ。ねえ、エイダちゃん。なにかをするつもりなの? ママの傍に居てちょうだい。危ない所に行くのはパパだけで充分だわ。エイダちゃんまで危ない所に行く必要は無いのよ? 教会にいましょうよ」
ママはいつも優しい人なの。
薄い壁越しにある大聖堂から聞こえてくるみんなの声を知っているのに。
それでも、一人娘の私の心配をしてくれる。
ヒロインではない私にはなにも価値がないわ。
ヒロインの私にだけが価値があるの。
パパとママが認めてくれただけでいいって思うようにしたわ。……本当よ。でもね、それだけで生きていけるような心の強さは私にはもっていなかったの。
だって、そうでしょう。
六年前から私はヒロインとして生きてきたのだもの。
そのせいで大切な人たちを傷つけたわ。
これが神様の下した天罰だっていうのならば、私の命をあげる。
だから、私たちを助けてよ。
私の故郷を壊さないで。私の大切な人たちを奪おうとしないで。
……きっと、私にはもう願う権利もないのだろうけど。
神様。どうか私にもう一度だけ機会を与えてください。
六年前のように、イザベラが私たちを救ってくれた日のように、もう一度だけ生き延びる機会を与えてください。
私はヒロインとしての力を失ってしまったけれども、それでも、まだ死にたくはないの。
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一週間前からクリーマ町は魔物に襲われるようになった。
元々、この時期は魔物の姿が確認されていたけど、でも、これほどに酷いことはなかったってパパもママも言っていたわ。
何日も魔物の襲撃が続くことはありえなかった。
これが天罰だというのならば私は神様を恨むわ。
「エイダちゃん?」
「なあに、ママ」
「難しい顔をしてどうしたの? 考え事?」
「ううん。大丈夫よ。どうしたらみんなを救えるのか、考えていただけだから」
もしも、私が力を失っていなければ誰も死ななくてすんだのだと思う。
ヒロインとしての私にはみんなを癒す魔法が使えたのだもの。それさえ、今も使うことができていれば、私はみんなを死なせずにすんだのに。
「ママ。寝ていてもいいよ」
ママは私を庇って怪我をした。
私なんて庇う価値もないのに。腕が痛いはずなのに。
それでも、ママは私のことばかりを心配する。
今だって寝てなくちゃいけないのに、私のことを心配してくれている。
「なにか、きっと、いい方法があるはずなのよ」
前回は戦争だってしたわ。私欲で引き起こした戦争だったわ。
でも、生死を彷徨う人たちを数えきれないほど奇跡の力で治療することが出来たし、魔物に襲われるようなことはなかったはずよ。
物語が変わってきているとしか言いようがない。
それなら、どこかに打開策があるはず。ここは神様が作った世界だもの。
どこかに攻略する方法があるはずなのよ。
「攻略方法を見つければ、きっと、みんなが助かるはずなのに」
あの時、私が救うことが出来なかったのは、イザベラだけだった。
致命傷だったからなのかもしれない。もしかしたら、イザベラは生きることを諦めてしまったのかもしれない。
「私を信じてくれてるみんなの為にも、なんとかして、方法を見つけなきゃ……」
今は誰も助ける事が出来ないなんて、誰も信じてはくれないの。
当然よね。私は、聖女だったのだもの。
その力はみんなを救う為の力だったのに。私が幸せになる為だけに使い続けたから、だから、聖女の力を持つ資格を失ってしまったんだわ。
それでも、私のことを信じてくれるママたちを見捨てられるわけがない。
資格がないなら取り戻すまでよ。
必死になれば、きっと、方法が見つかるはずだから。
「エイダ!! お前は教会から聖女に選ばれたんだろう!? 娘を助けてくれ!」
「いいや! 先に俺の息子を助けてくれ! 討伐隊に加わって怪我を負ったんだ! 優先するべきだろう!?」
「エイダお姉ちゃんっ、ママを助けてっ」
「ばーちゃんが死んじゃうよ! 助けてよ!!」
私とママを匿って下さっている神父様は言っていたわ。
恐ろしい事の前触れか、神様のお怒りではないかって。
聖女だった私を危険には晒せないって神父様は言ってくださったの。
……私はもう聖女としての力がないってことを言えなかった。
だって、それを言ってしまったらママも危ない所に放り出されてしまうもの。
せめて、ママの傷が癒えるまでは黙っていたって怒られないでしょう? ママが死んでしまったら大変だもの。
私は家族が大切なの。
だから、私に助けを求める声には応えない。
応えたって助けることはできないもの。仕方がないでしょう?
代わりに、みんなを助ける方法を見つけて見せるから。だから、その方法が見つかるまでは安全なところで隠れさせてもらうの。
「ママ。うるさくない? 大丈夫?」
「……大丈夫よ、エイダちゃん」
「もっと、いい部屋を与えてくれたら良かったのに」
「安全な場所にいられるだけでも感謝をしないといけないわ」
「うん、わかっているよ、ママ。ただ、言いたかっただけだから」
今日も私たちが避難をしている教会には、たくさんの人たちが助けを求めてやってくる。
壁の薄い奥の部屋に閉じこもっているようにと神父様の御優しい配慮によって、私とママは助けを求めてくる人たちから逃げることができるの。
分かっているわ。最低だって。
でも、仕方が無いじゃない。
逃げている途中に魔物に襲われて、左腕を骨折したママを置いていくわけにはいかないもの。討伐隊に加わっているパパの安否も分からないし、ここでママのけがが癒えるまで待っていてもいいじゃない。
……力さえ失っていなければ最前線に立ってみんなを助けにいったわ。
神父様から提案されて、怪我に効く魔法薬を生成しているけど、それだってみんなの手元に渡っているのか分からないわ。
神父様に渡した魔法薬がみんなの手元に渡っているのなら、少しは、良くなっているはずなのに、今日も助けを求める声がやまない。
「……ママ」
ヒロインではない私にはなにも価値はないのかもしれない。
みんなを救うことが出来る力を失ってしまった私にはなにも出来ないわ。
「この薬を毎食後、一本ずつ飲んでね。一週間分あるわ。効果は少ないけど、でも、一週間飲み続ければ痛みが取れるわ。私ね、魔法学院に通っていた時に魔法薬作りは得意だったの」
「ええ、知っているわ、エイダちゃん。でも、お薬は神父様に渡さないといけないのよ?」
「そうだけど、でもね、これはママの分よ。ねえ、ママ、これは神父様には渡してはだめよ。神父様に渡す分はこの箱の中にしまってあるわ。ママは私の代わりに、神父様に毎日二十本ずつこの箱から渡してね」
「わかったわ。ねえ、エイダちゃん。なにかをするつもりなの? ママの傍に居てちょうだい。危ない所に行くのはパパだけで充分だわ。エイダちゃんまで危ない所に行く必要は無いのよ? 教会にいましょうよ」
ママはいつも優しい人なの。
薄い壁越しにある大聖堂から聞こえてくるみんなの声を知っているのに。
それでも、一人娘の私の心配をしてくれる。
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