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7章 この世界でやりたいこと

7-3. ドガイへ向けて出発

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 最近はお店や宿を経営するかもという話をしていたけど、それらを全て置いて、今日からドガイに旅行だ。

 ユラカヒのタペラで、僕たちは潜っているダンジョンがあふれるという経験をしたけど、その時に大活躍してくれたブランに、ご褒美としてドガイのチーズを食べさせてあげたい。前回はコサリマヤでチーズを買ったが、それはとても美味しかった。
 そして、アルの友達のカリラスさんが住んでいるタサマラは特殊で魔物が出ない土地なので、酪農が盛んだ。
 カリラスさんに会ってチーズを買うために、僕たちはドガイに行きたい。
 けれど前回、思い立って詳しく報告もせずに山を越えてタサマラへ向かったせいで、騒動になってしまった反省を踏まえて、ギルドにドガイに行きたいと伝えた。それを受けて、ギルドと国が調整してくれているらしいので、連絡を待っていたのが、やっと調整がついたと連絡があったのだ。
 カザナラのギルドから職員が説明に来ると言われて待っていたら、王都ニザナのギルドマスターが来た。この人、本当に俺たちの担当っぽい。

「中央教会に滞在し、ドガイ国王との謁見はありません。タサマラのご友人には王都タゴヤまで来ていただきます。タサマラとコサリマヤのチーズは、全種類中央教会に取り揃えます」
「その代わりに何をすればいい?」
「話が早くて助かります。カルデバラをSランクパーティーマグノリアとともに攻略してください」
「ブラン、いい?」
『(ああ)』
「分かった」

 フスキ領のコーモからドガイ国のコサリマヤに抜ける道があるので、そこからドガイに入国すると、軍が待っていてくれるそうだ。向こうの準備もあるだろうし、20日後に国境へ行くことが決まった。
 そしてまたギルドマスターはブランに貢物をして帰って行った。ギルドマスターは絶対もふらーだ。今度もふもふ談義をしたいな。

「カリラスさんとグザビエ司教様へのお土産何にしようか。マジックバッグはもうあげちゃったし」
「容量大のマジックバッグでいいだろう」
「マグノリアってアルがお世話になったパーティーだよね?そっちもマジックバッグ?」
「いや、カルデバラ攻略のために国に取り上げられるかもしれないから、そっちはダンジョンの武器がいいだろう」
「恐れながら、マジックバッグは避けられた方がよろしいでしょう」
「なぜだ?教会なら国も手を出せないだろう?」

 サジェルが言うには、モクリークではカークトゥルスのおかげでマジックバッグは少しだけ身近になったが、ドガイでは恐らく容量大でもモクリークの特大時間停止くらいの価値になるらしい。そうすると、教会にトラブルを呼び込んでしまうかもしれないので、避けたほうが無難だろうということだった。
 サジェルのお勧めは、聖堂に僕がクリーンの付与をすることだ。大聖堂の天井高いし、お掃除大変そうだもんね。カリラスさんは要相談だ。

 それから食べ物の買い出しをしたりして、ゆっくりと国境に向けて移動を始めた。
 ユラカヒで食料をかなり放出したので、機会があればいろいろ買っている。僕たちは食べないけれど、タペラでの教訓で生ものは物資として渡せないと学んだので、保存食も買い込んだ。


 モクリーク側最後の街であるコーモは盆地で、山の中の川に沿った道を進んで行くと、突如視界が開ける。以前に来たときは、ぐるっと回りを紅葉した木に囲まれる感じがとても素敵だった。冬は寒そうだけど、雪の積もった山に囲まれるのも風情がありそうだ。今は葉が青々としていて生命を感じる。
 集合の日にちにあわせるために、温泉に入って、緑を眺めてのんびりしていた。そのために早く来たんじゃないよ。何かあったら困るからちょっと早めに来ただけだよ。

 コーモからコサリマヤへと行く道は、一応整備されているというだけの、馬車などは走れない山道だ。
 山を越えるのを避けると、山すそを周ってミンギ国に一度入ってからドガイへ入国することになるため、急ぐ旅人は利用するが、馬車が通れないので商会などは通らない。モクリーク側の森の中は魔物も出るので、通る人は少ない。

 僕たちはブランに乗って道を少しそれて森の中を進んだ。コサリマヤに近づくと魔物が減るので、今のうちだとブランが森の中で魔物を追いかけまわしている。今山道を通っている旅人は魔物が出なくてラッキーかも。
 コサリマヤに近くなって魔物が少なくなってからは山道を進み、下りに入ったところで眼下にコサリマヤの街が見えた。僕たちが今いる山の裾野に沿ってタサマラから続く道も見えているから、前回はあの道を通ったんだな。

「1日早く着いちゃったね。大丈夫かな」
「ダメそうなら山の中に戻って野営すればいいだろう」

 ということで、とりあえず山を下ったところ、平地に入って山道から続く道がタサマラからコサリマヤの街に続く街道に合流するあたりで、兵士が陣を張っていた。僕たちのお出迎えかな。
 近づいて声をかけようとしたら、向こうから話しかけられた。

「モクリークの氷花のおふたりでしょうか。私はドガイ国王の命によりお迎えに参りました、第二騎士団団長のハベルです」
「氷花のアレックスとユウです。お出迎えありがとうございます。1日早く着いてしまいましたが大丈夫でしょうか」
「はい。まずは教会へご案内いたしますので、馬車にお乗りいただけますか?その従魔は目立ってしまいますので」

 ということで、用意されていたとても綺麗な装飾のついた馬車に、アルと僕で乗っている。ブランは僕たちの足元だ。
 団長さんたちは馬車の周りを馬で囲って進んでいるんだけど、ファンタジーって感じだ。

「騎士と兵士って何が違うの?」
「国によって違うが、騎士は特権階級、兵士は平民だな」
「だからアルが丁寧な言葉で喋ってるんだ」
「騎士団団長ともなれば、貴族出身じゃないか」
「へえ。モクリークにも騎士っているの?」
「モクリークはそういう区別をしないで、全員まとめて兵士だ。モンスターに身分なんて言ったところで意味がないからだろう」

 たしかに。騎士なんで見逃してって言ったって聞いてくれるわけがない。

「ブラン、屋台で買い物は無理かも。ごめんね」
『(前にカザナラでやったみたいに、馬車で近くまで行けないのか)』
「教会の方にお願いしてみようか。それか、変装してこっそり行けるかな?」
「アイテムボックスでバレるぞ」

 そうだった。前回ここの屋台で買いまくったおかげで、容量の大きいマジックバッグを持っていると思われて、馬車を襲撃されそうになったんだ。アルとブランが気付いていたから撃退したけど。
 そんな話をしていたら、門の近くまで馬車は進んでいて、門の周りにたくさん人がいるので、団長さんに言われて窓を閉めた。そのまま、馬車の中も確認されず、身分証も見せずに、街に入った。貴族の人たちはこれが一般的らしいけど、セキュリティ甘々だな。
 街の中では窓を開けちゃいけないと言われ、景色も見えずにやることもないので、アルに、カリラスさんとの思い出話を聞いていた。
 アルとカリラスさんは、前に来た時に会った『カレンデュラ』に見習いとして入ったけど、ケネス司祭様に紹介されたもう1つのパーティーが、当時からSランクで、今回薬箱ダンジョンに一緒に潜る『マグノリア』だ。カリラスさんがSランクパーティーなんて畏れ多くて無理というので、当時Bランクだったカレンデュラに入れてもらうことが決まったそうだ。

 馬車が止まって扉が外から開けられたので降りると、グザビエ司教様とカリラスさんがいた。

「アレックスさん、ユウさん、ようこそいらっしゃいました。お疲れではありませんか?」
「はい。司教様がいらっしゃるとは思っていませんでした」
「よお、アレックス。なんか俺も一緒にタゴヤに行くことになったんだけど」
「悪いな。チーズを買うのとお前に会うのにドガイに行きたいって言ったらこうなった」

 グザビエ司教様と握手を交わした後、カリラスさんとお互いに肩を抱いて挨拶しているのがカッコいい。

「お久しぶりです。わざわざ来ていただいてすみません」
「いえいえ、実家のお父さんとしては、家出息子が帰ってくるなら会いに来ませんとね」

 あ、その設定まだ有効なんですね。
 グザビエ司教様の後ろに立っていた、この教会の司教様にも挨拶して、とりあえず中に入りましょうと促されて、建物の中に入った。
 騎士団の人は、教会の中まで着いてきたいようだったけど、司教様たちが許可しなかった。何度も同じやり取りをしているっぽいから、騎士の希望を教会が突っぱねているんだろう。

 案内されたお部屋は、やっぱりこの教会で一番いいお部屋っぽかった。
 部屋に入って扉を閉めたところで、グザビエ司教様とこの教会の司教様が頭を下げた。カリラスさんは驚いていないから、事前に説明していたんだろう。

「ブラン様、ご挨拶が遅れましたが、ドガイの教会へのご降臨、恐悦至極にございます」
『よい。王都まで一緒に行くんだ。普通にしろ』

 ほんとに喋るんだ、とカリラスさんが思わずといった感じで呟いたので、アルが前回紹介できなくて悪かったなと謝っている。
 そういえば、前回アルがペットって紹介して、ブランが拗ねちゃったんだった。

 1日早く着いてしまったので、ここで2泊するそうだ。
 カリラスさんは王都に一緒に行っても行かなくてもいいんだけど、アルと話したいし、パーティーメンバーと会ったりもしたいので、一緒に行ってくれる。
 カリラスさんは、司教様と一緒に神官用のお部屋に泊まる。この豪華なお部屋の隣の部屋も準備されていたらしいけど本人が断ったそうだ。分かる、調度品壊しそうで怖いよね。

 山越えしてきた僕たちが今日はゆっくりできるようにと歓迎イベントなどもなく、早めに休むことになった。
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