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7章 この世界でやりたいこと

7-4. 出張屋台が来た

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 翌日の朝は、ゆっくり目に部屋で朝食をいただいた後、カリラスさんが部屋を訪ねてきた。グザビエ司教様は教会のお仕事があるそうで、一人でどうしていいか分かんないんだよ、と言っている。

「そのウルフ、様?、前会ったとき子犬だったよな?」
「タサマラに従魔として入ったら目立つだろうってことで、子犬になってもらったんですよ」
「大きさ変えられるのか」
「本当の姿はもっと大きいです」

 へえ、とブランをしげしげと眺めている。
 それから、あふれに巻き込まれたってこっちまで噂が来たけど本当か?と聞かれて、あふれの話や、お互いの近況報告をしていたら、朝食を運んできてくれた司祭様が、部屋に来た。そして、よろしければお越しくださいと言われて、案内された先に、チーズと屋台料理が勢ぞろいしていた。

『おい、これは食ってもよいのか』
「ちょっと、ブランお行儀良くしてよ」
「ブラン様のために用意したものですから、お好きなだけでどうぞ。気に入られたものはまたご用意しますので」

 ここに来る途中からブランの鼻が仕事をしていたので、部屋に入ってすぐに並べられた料理にロックオンしている。お願いだから、ブランのこと神聖視している司教様たちの前でヨダレたらしたりしないでよ。
 壁際には、チーズがずらっと並んでいるが、カリラスさんによると、半分以上がタサマラのチーズらしい。カリラスさんに説明してもらおうと思ったが、チーズ好きのグザビエ司教様が来て説明してくれるらしいので待っていよう。
 で、ブランは、と見たら、片っ端から食べているから、きっとこれ全部食べちゃうな。前にタゴヤの中央教会で用意された屋台の料理を全部食べたのが伝わっているんだろう、見守っている人たちは驚いていない。そばについている司祭様が、ブランのSとかAとかって採点をメモしている。

「すごい食べっぷりだな」
「前回コサリマヤの屋台でブランが気に入ったものをたくさん買ったんですけど、すぐなくなっちゃって。タペラのあふれから脱出できたのはブランのおかげなので、お肉たくさん買おうって言ったら、ここのチーズも食べたいって。それで、アルもカリラスさんに会いたいし、ドガイに行こうってなったんです」
「それはこの国のものとして、タサマラの司教として、とても嬉しいですね」

 グザビエ司教様が、あふれの脱出の話も聞きたいですが、まずはチーズですね、と並んだチーズの端から、説明と試食が始まった。
 モッツァレラチーズのような生っぽいのはなくて、乾燥してそうなチーズばかりだ。僕はそもそもプロセスチーズととろけるチーズと、姉の好物のモッツァレラチーズしか知らないので、チーズには詳しくないし、説明を聞いても原料も形も色も硬さも香りもいろいろあって、これは覚えられそうにない。前回はお店の人にパンに乗せたりそのまま食べられるチーズを教えてもらってそれを大量購入したのだ。

「ブラン、このチーズって鑑定で種類分かる?」
『分かるぞ』
「料理方法は?」
『料理しないのに知るわけないだろう』
「そっかあ」

 そのやり取りを聞いたグザビエ司教様が、種類と料理方法を簡単にまとめて、渡してくれることになった。これでモクリークのお店に頼んで料理を作ってもらえる。
 よし、ここは大人買いだ。

「ここにあるの全部下さい!」

 一生で一度は使ってみたい言葉No.1を、まさか使う日がくるとは。
 カリラスさんがあ然としてて、アルが苦笑しているけど、ブランのためであって、僕が食いしん坊なわけじゃないよ。
 どうぞ収納してくださいと言われたので、片っ端から収納していった。5年分はありそうだ。
 ふう。いいお買い物ができた。といっても、お金は受け取ってもらえなかったので、お代は後で寄付しておこう。


 僕は信仰心というものを甘く見ていたのかもしれない。
 翌日、ブランがS評価をつけた屋台全てが教会に出張してきた。

「やはり目の前で作られるのを見るのは、何よりも美味しいスパイスですからね」

 教会裏の車止めに屋台が並んでいるので、ちょっとお祭りっぽい。一般の信者さんは入れないところだけど、騎士団の団長さん含めお迎えに来てくれた人たちが、警護に立っている。教会は断ったらしいけど、外だからってことで警護しているそうだ。
 全部買い取るから作れるだけ作ってくださいとお願いしてあるので、順番に作るところを見て出来たてをもらって食べ、他の屋台の物が出来上がったら助祭様が持ってきてくれるので収納する。なんて快適な屋台巡り。
 ちなみにブランがA評価をつけた料理は、助祭様や見習いの方が買い出しに行ってくれた。

「これ旨いな」
「ブランの鼻が選んだものは間違いないからな」
「いつもこんな風に買ってるのか?」
「ああ。ブランもユウも食べ物には妥協しないから、気に入ったものは大量に購入する」
「アイテムボックスがあるとやることすげえな」

 アイテムボックス内の時間が止まっていて、容量に制限がないからこそできることだから、否定はしない。

「最近俺たちの支出を確認する機会があったんだが、支出のほとんどは食費だ。次が宿代」
「やっぱりいい宿泊まるのか」
「風呂がついててブランが一緒に入れる宿じゃないと、ユウが泊まらない」
「貴族かよ」
「平民です。ちょっと生活に妥協できないだけです」

 それってちょっと?って言ってるけどちょっとなの。一度上げた生活水準は落とせないってテレビで言ってたから、仕方ない。
 途中で隣にある孤児院の子どもたちが匂いにひかれて覗いていたので、呼んで一緒に食べた。勉強の時間だったそうだけど、お肉の美味しそうな匂いが漂ってくるので、じっとしていられなかったらしい。それはこっちが悪いよね。ご飯の前だから1つだけって言われて、どれを選ぶか迷ってウロウロしているのがとっても可愛かった。


 翌日、朝からタゴヤに向けて出発だ。
 薬箱ダンジョンを攻略したらここに帰ってきて解散になる。多分途中でドガイ国が予定を変えて僕たちがモクリークに帰れなくなるのを防ぐためにそうしてくれたんだろう。
 見送りのここの教会の司教様たちに、行ってきますと挨拶して、馬車に乗り込んだ。今回は、グザビエ司教様とカリラスさんも同じ馬車だ。

「ブラン、狭いから小っちゃくなって」
『お前は俺の扱いがどんどん雑になるな』
「喋ったら外に聞こえるよ?」
『こちらからの声は聞こえないように遮音の結界を張った』
「そのようなことができるのですか」

 子犬ブランを膝に抱いて、もふもふ撫でまわす。ひっくり返してお腹を撫でていたら、手を噛まれた。この体勢はお気に召さないらしい。

『で、何を聞きたいんだ』
「え?何が?」
『俺に聞きたいことがあるから、同行してるんだろう?』

 ああ、グザビエ司教様に言っているのか。だから遮音してるのか。

「もし可能ならと思ってはおりましたが、国が勝手をしないようにというのが一番の目的です」
『アルが世話になったようだから、答えられることには答えてやる』
「ブラン様にとってはアレックスさんも加護の対象なのですか?」
『違う。ユウの番だからだ』

 番?!ブランの中ではそういう認識なのか。
 ユウに感謝だな、とアルが肩を抱いてこめかみにキスしてくれるけど、向かいに司教様とカリラスさんが座っているので、顔を上げられない。
 僕が真っ赤になっているのを見て、司教様がクスクス笑っている。

「タペラのあふれから冒険者を助けたのも、ユウさんの願いだからですか」
『少し違う。手を貸さなければ全員死んでいただろうから、それを見てユウが悲しむのを防ぐためだ』
「モクリークの教会より情報を頂きまして、下層にいらっしゃったと聞きましたが、そのまま攻略して転移陣で地上に戻らず、階層を上がっていくことを選ばれたのは何故ですか?」
「そういえば、なんで?」
『言っただろう。あふれの渦中にいるのは初めてだったんだ。転移陣が動く保証がない』
「安全かどうかわからないって言ってたね。もしかして、いざとなったら地上まで全部吹き飛ばすつもりだった?」
『いざとなればな』

 カリラスさんが、吹き飛ばすってどういうことだよって言ってるけど、多分本当に最終手段なんだろうけど、ブランには出来るんだと思う。地上まで大きな穴ができちゃうのかな。
 僕たちだけじゃなく、他の冒険者まで守ってくれて、ありがとね。

 それから司教様は世間話のような感じで、僕とアルも含めていろんな話をしながら情報収集していた。流石だ。
 モクリークのマジックバッグがドロップするダンジョン『カークトゥルス』はやっぱり気になるようだ。

 その中でとても興味深い話があった。神獣は他にもいるのかどうか。
 ブランによると、神獣は他にもいるらしい。神獣のいる目的や、役目があるのかなどは答えてもらえなかったけど、神獣がいるってことは答えてくれた。
 アルと契約してくれないかなあ。
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