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7章 この世界でやりたいこと
7-5. アルが叶えた夢
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街に泊まりながら進み、タガミハの街に入った。タガミハの門は混雑しているが、僕たちは周りの騎士様に誘導されて止まらず入れる。
タガミハの教会には、昇格して今は司祭になったサリュー司祭様が待っていた。
「お久しぶりですね。おふたりが来ると、大騒ぎになっていますよ」
「お久しぶりです。今回はちゃんと報告したのですが」
まあ、報告したからこその騒動だけど仕方がない。アルは、教会関係者の中でもサリュー司祭様にだけはちょっと気安い感じだ。多分年が近くて見習いの時から知っているから、友達のように思っているんだろう。
部屋に入って落ち着いてから、アルもリラックスしてサリュー司祭様と話している。アルに関わったことから冒険者の対応をすることが多い司祭様は、やはりタペラからの脱出が気になるらしい。
「あふれの渦中からの脱出は、普通の冒険者でも出来ますか?」
「上級ダンジョンでは無理でしょう。ブランがいなければ私たちも無理でした」
「地元の冒険者が多く生き残ったようですが、彼らもブラン様が?」
「はい。彼らでギリギリ倒せるくらいに見えないところでモンスターを削ってくれました。ただ、私たちが着く前に、彼らはすでに体制を整えて戦闘していましたので、運が良ければ助かったかもしれません」
「体制と言うのは?」
アルが、あのときSランクパーティーを中心に、階段とセーフティーエリアが近いところを籠城の拠点として交代制で戦闘していたこと、全員でセーフティーエリアの入り口を死守すれば、ブランがいなくても助かった可能性がゼロではないことを説明している。下層から上がってくるモンスターがどれくらいセーフティーエリアにいる冒険者を見逃してくれるのか、それが未知数だから確かなことは言えないが、全く無理だとも言えない。
「なるほど。階段とセーフティーエリアの位置関係が重要なのですね」
「終わるまで休まず戦い続けるのは無理ですので。セーフティーエリアが安全なのかどうかは、見た目で分からないので、いつからモンスターが入れなくなっていたのかは分かりません」
この情報をドガイの冒険者に共有するつもりのようだ。
実はモクリークでも冒険者ギルド主導で、あふれに巻き込まれた時に逃げ込むセーフティーエリアを決めておこうという動きがある。入りきれなくなったらどうするのかという懸念も指摘されているが、少しでも助かる可能性をあげることが重要ではないかと避難場所が設定される方向で調整中だ。
なんだかいい感じにくつろぎながら話をしているので、飲みます?とモクリークのワインを出してみた。
「いいですねえ。モクリークは気候が適していてワインが美味しいと聞きます」
サリュー司祭様じゃなくて、グザビエ司教様がのって来た。もしかして、グザビエ司教様がチーズが好きなのはワインに合うからですか。タサマラの教会に秘蔵のワインとかありそうだ。
よし、司教様へのお土産はワインだ。アイテムボックスのを全部出す勢いで行こう。
「有名なものが揃ってますね。ユウさん、お好きなんですか?」
「いえ、僕はリンゴ酒しか飲めません」
「ユウは、行った先の土地の名物を買うので、こうして溜まっています」
僕は旅先でその土地の名物を買うけど、お酒が有名だととりあえず全種類買ってみたりする。けれど、アルしか飲まないし、ダンジョン内では飲まないので、あまり減らず、アイテムボックスで眠ることになる。こういうときに楽しんでもらえると嬉しい。
これはモクリークのこの辺りで買ったもので、と場所は説明できるが味は知らない。グザビエ司教様は、産地を聞いて、これはおそらく軽口ですね、これにあうのはこのチーズで、と僕よりもアルよりも詳しかった。
ふと気づくと、カリラスさんがすごく優しい笑顔でアルを見てる。
「カリラス、どうした?」
「アレックスの世界を見て回りたいっていう夢がモクリーク内だけでも叶ってんだなって」
「そうだな」
アルも笑い返して、なんだか心がぽかぽかする。
グザビエ司教様もサリュー司祭様も笑っていて、とても楽しい夜になった。
翌日、キノミヤに1泊して、ついに王都タゴヤだ。
カリラスさんは冒険者を引退して以来の王都らしい。今回、僕たちがダンジョンを攻略している間に、元パーティーメンバーに会いに行く予定だそうだ。
行列の横を止まらず進み、王都の北門をくぐって街の中へ入った。並んでいる人たちは、どこのお貴族様が乗ってるんだろうねえ、なんて言っているのが聞こえるが、モクリークの平民ですよ。
「そういえば、前回帰りに門を出るときに、ブランが子犬の置物になったんですよ。ブランもう1回やってくれる?」
『いいぞ』
ふわっとブランの周りに氷のかけらが舞ったと思ったら、毛が固まった置物になった。
本当に置物に見えると大好評だ。あの時、検問を通るために、僕たちは助祭様の服を着た。あの時のアルはカッコよかったな。
馬車が教会に着いたので、そのままの置物ブランを胸に抱いて降りたら、護衛の団長さんが、従魔はどうしたのだと困惑している。
しまった。教会に着いたから油断したけど、この人がいたんだった。どう答えようか戸惑っていたら、グザビエ司教様が団長さんとの間に入ってくれた。
「大司教が待っていますので、こちらへどうぞ」
そう誘導されたところに、大司教様がとても豪華なお衣装で立って待っていた。団長さんも大司教様の登場に何も言えずに引き下がった。
「氷花のおふたり、よくドガイの中央教会へ参られました。ここを家と思って滞在してください。騎士の方々お勤めご苦労でした」
「大司教様、お出迎えありがとうございます。お言葉に甘えて滞在させていただきます。よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします」
大司教様の視線が一瞬置物ブランで止まったけど、さすがそこは綺麗にごまかして、歓迎してくれたので、僕たちも挨拶をし返した。
そして、団長さんたちを置いたまま、教会の建物に入った。
お部屋は、前にも泊まった宮殿みたいなお部屋だ。うん、分かってた。
そして大司教様のとても丁寧で難しい言葉での挨拶も分かっていたので、今回は慌てず聞くことができた。
「ところでブラン様はなぜそのようなお姿に?」
「前回ケネス司祭様に王都から逃がしてもらったときに置物ブランになったのを懐かしく思って、なってもらいました」
はいどうぞ、とケネス司祭様に渡すと、懐かしいですねえと置物ブランを撫でている。大司教様も、私も撫でていいですか、と震える手を置物ブランに伸ばして、そっと触れた。
ブランはプルプルと氷をはらってふわふわ子犬に戻ると、ケネス司祭様の手から飛び降りて、いつもの大きさに戻った。
『世話になる』
大司教様の豪華なお衣装の裾と、ケネス司祭様の足元にすりっと寄って、それから僕のところに戻って来た。たったそれだけのことで、大司教様が感激しすぎて倒れそうだ。
僕はいつも撫でまわしているから時々忘れるけど、ブランは信仰対象だ。毎日一緒にいるアルも、ブランの背に乗せてもらっているし、ブラッシングはするけど、ちょっと遠慮している。
こういうところがブランに犬扱いするなって怒られるんだな、と反省した。
「コサリマヤでたくさん屋台の料理とチーズを用意してもらいました。ありがとうございます。お礼に聖堂にクリーンの付与をしたいんですが、問題ないですか?」
「付与ですか?」
まだ立ち直れない大司教様に代わって、グザビエ司教様が答えてくれる。
「はい。天井が高いと掃除が大変だろうなと思うので、天井に付与しようと思ってます。ブラン、聖堂にしちゃダメとかないよね?」
『問題ない』
「問題なければ帰りに、他の街の教会にもしたいと思っています」
「ユウはカイドで付与を強制されていたことがあるため、内密にしていただきたいです」
「お帰りになるまでに、大司教と相談しておきます」
それから、ゆっくりお休みくださいと、まだ魂が抜けかけている大司教様をケネス司祭様と二人で支えて部屋を出て行った。
カリラスさんは、部屋が豪華すぎて、傷をつけるのが怖いと入ることを拒否して、廊下から挨拶をして去って行った。
ゆっくりお風呂に入ってから、感謝の気持ちを込めて念入りにブランのブラッシングをした。
「ブランありがとうね」
『何がだ』
「犬扱いしても怒らないし、ケネス司祭様と大司教様にサービスしてくれたし」
『分かっているなら、犬扱いはやめろ』
「はーい」
ブランのもふもふなお腹に頭を突っ込んで、満足するまで撫でまわした。
タガミハの教会には、昇格して今は司祭になったサリュー司祭様が待っていた。
「お久しぶりですね。おふたりが来ると、大騒ぎになっていますよ」
「お久しぶりです。今回はちゃんと報告したのですが」
まあ、報告したからこその騒動だけど仕方がない。アルは、教会関係者の中でもサリュー司祭様にだけはちょっと気安い感じだ。多分年が近くて見習いの時から知っているから、友達のように思っているんだろう。
部屋に入って落ち着いてから、アルもリラックスしてサリュー司祭様と話している。アルに関わったことから冒険者の対応をすることが多い司祭様は、やはりタペラからの脱出が気になるらしい。
「あふれの渦中からの脱出は、普通の冒険者でも出来ますか?」
「上級ダンジョンでは無理でしょう。ブランがいなければ私たちも無理でした」
「地元の冒険者が多く生き残ったようですが、彼らもブラン様が?」
「はい。彼らでギリギリ倒せるくらいに見えないところでモンスターを削ってくれました。ただ、私たちが着く前に、彼らはすでに体制を整えて戦闘していましたので、運が良ければ助かったかもしれません」
「体制と言うのは?」
アルが、あのときSランクパーティーを中心に、階段とセーフティーエリアが近いところを籠城の拠点として交代制で戦闘していたこと、全員でセーフティーエリアの入り口を死守すれば、ブランがいなくても助かった可能性がゼロではないことを説明している。下層から上がってくるモンスターがどれくらいセーフティーエリアにいる冒険者を見逃してくれるのか、それが未知数だから確かなことは言えないが、全く無理だとも言えない。
「なるほど。階段とセーフティーエリアの位置関係が重要なのですね」
「終わるまで休まず戦い続けるのは無理ですので。セーフティーエリアが安全なのかどうかは、見た目で分からないので、いつからモンスターが入れなくなっていたのかは分かりません」
この情報をドガイの冒険者に共有するつもりのようだ。
実はモクリークでも冒険者ギルド主導で、あふれに巻き込まれた時に逃げ込むセーフティーエリアを決めておこうという動きがある。入りきれなくなったらどうするのかという懸念も指摘されているが、少しでも助かる可能性をあげることが重要ではないかと避難場所が設定される方向で調整中だ。
なんだかいい感じにくつろぎながら話をしているので、飲みます?とモクリークのワインを出してみた。
「いいですねえ。モクリークは気候が適していてワインが美味しいと聞きます」
サリュー司祭様じゃなくて、グザビエ司教様がのって来た。もしかして、グザビエ司教様がチーズが好きなのはワインに合うからですか。タサマラの教会に秘蔵のワインとかありそうだ。
よし、司教様へのお土産はワインだ。アイテムボックスのを全部出す勢いで行こう。
「有名なものが揃ってますね。ユウさん、お好きなんですか?」
「いえ、僕はリンゴ酒しか飲めません」
「ユウは、行った先の土地の名物を買うので、こうして溜まっています」
僕は旅先でその土地の名物を買うけど、お酒が有名だととりあえず全種類買ってみたりする。けれど、アルしか飲まないし、ダンジョン内では飲まないので、あまり減らず、アイテムボックスで眠ることになる。こういうときに楽しんでもらえると嬉しい。
これはモクリークのこの辺りで買ったもので、と場所は説明できるが味は知らない。グザビエ司教様は、産地を聞いて、これはおそらく軽口ですね、これにあうのはこのチーズで、と僕よりもアルよりも詳しかった。
ふと気づくと、カリラスさんがすごく優しい笑顔でアルを見てる。
「カリラス、どうした?」
「アレックスの世界を見て回りたいっていう夢がモクリーク内だけでも叶ってんだなって」
「そうだな」
アルも笑い返して、なんだか心がぽかぽかする。
グザビエ司教様もサリュー司祭様も笑っていて、とても楽しい夜になった。
翌日、キノミヤに1泊して、ついに王都タゴヤだ。
カリラスさんは冒険者を引退して以来の王都らしい。今回、僕たちがダンジョンを攻略している間に、元パーティーメンバーに会いに行く予定だそうだ。
行列の横を止まらず進み、王都の北門をくぐって街の中へ入った。並んでいる人たちは、どこのお貴族様が乗ってるんだろうねえ、なんて言っているのが聞こえるが、モクリークの平民ですよ。
「そういえば、前回帰りに門を出るときに、ブランが子犬の置物になったんですよ。ブランもう1回やってくれる?」
『いいぞ』
ふわっとブランの周りに氷のかけらが舞ったと思ったら、毛が固まった置物になった。
本当に置物に見えると大好評だ。あの時、検問を通るために、僕たちは助祭様の服を着た。あの時のアルはカッコよかったな。
馬車が教会に着いたので、そのままの置物ブランを胸に抱いて降りたら、護衛の団長さんが、従魔はどうしたのだと困惑している。
しまった。教会に着いたから油断したけど、この人がいたんだった。どう答えようか戸惑っていたら、グザビエ司教様が団長さんとの間に入ってくれた。
「大司教が待っていますので、こちらへどうぞ」
そう誘導されたところに、大司教様がとても豪華なお衣装で立って待っていた。団長さんも大司教様の登場に何も言えずに引き下がった。
「氷花のおふたり、よくドガイの中央教会へ参られました。ここを家と思って滞在してください。騎士の方々お勤めご苦労でした」
「大司教様、お出迎えありがとうございます。お言葉に甘えて滞在させていただきます。よろしくお願いいたします」
「よろしくお願いします」
大司教様の視線が一瞬置物ブランで止まったけど、さすがそこは綺麗にごまかして、歓迎してくれたので、僕たちも挨拶をし返した。
そして、団長さんたちを置いたまま、教会の建物に入った。
お部屋は、前にも泊まった宮殿みたいなお部屋だ。うん、分かってた。
そして大司教様のとても丁寧で難しい言葉での挨拶も分かっていたので、今回は慌てず聞くことができた。
「ところでブラン様はなぜそのようなお姿に?」
「前回ケネス司祭様に王都から逃がしてもらったときに置物ブランになったのを懐かしく思って、なってもらいました」
はいどうぞ、とケネス司祭様に渡すと、懐かしいですねえと置物ブランを撫でている。大司教様も、私も撫でていいですか、と震える手を置物ブランに伸ばして、そっと触れた。
ブランはプルプルと氷をはらってふわふわ子犬に戻ると、ケネス司祭様の手から飛び降りて、いつもの大きさに戻った。
『世話になる』
大司教様の豪華なお衣装の裾と、ケネス司祭様の足元にすりっと寄って、それから僕のところに戻って来た。たったそれだけのことで、大司教様が感激しすぎて倒れそうだ。
僕はいつも撫でまわしているから時々忘れるけど、ブランは信仰対象だ。毎日一緒にいるアルも、ブランの背に乗せてもらっているし、ブラッシングはするけど、ちょっと遠慮している。
こういうところがブランに犬扱いするなって怒られるんだな、と反省した。
「コサリマヤでたくさん屋台の料理とチーズを用意してもらいました。ありがとうございます。お礼に聖堂にクリーンの付与をしたいんですが、問題ないですか?」
「付与ですか?」
まだ立ち直れない大司教様に代わって、グザビエ司教様が答えてくれる。
「はい。天井が高いと掃除が大変だろうなと思うので、天井に付与しようと思ってます。ブラン、聖堂にしちゃダメとかないよね?」
『問題ない』
「問題なければ帰りに、他の街の教会にもしたいと思っています」
「ユウはカイドで付与を強制されていたことがあるため、内密にしていただきたいです」
「お帰りになるまでに、大司教と相談しておきます」
それから、ゆっくりお休みくださいと、まだ魂が抜けかけている大司教様をケネス司祭様と二人で支えて部屋を出て行った。
カリラスさんは、部屋が豪華すぎて、傷をつけるのが怖いと入ることを拒否して、廊下から挨拶をして去って行った。
ゆっくりお風呂に入ってから、感謝の気持ちを込めて念入りにブランのブラッシングをした。
「ブランありがとうね」
『何がだ』
「犬扱いしても怒らないし、ケネス司祭様と大司教様にサービスしてくれたし」
『分かっているなら、犬扱いはやめろ』
「はーい」
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