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第5章:若い継母と義娘
第19話:継母・真野邦康視点
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「すみません、翔子はお邪魔させていただいていますか?」
疑問ではなく確信をもって声をかける。
もう翔子が家で俺を待つ事はない。
翔子が俺を待つ場所は、白髪稲荷神社子ども食堂と決まっている。
「ああ、ご飯を食べ終わって小上がりで勉強しているよ。
あんたもご飯を食べて帰りな」
「はい、ご馳走になります」
「今日も翔子ちゃんがお手伝いしてくれた、美味しく味わって食べな」
「はい、美味しく食べさせていただきます」
ぶっきらぼうな黒子さんの言葉が何故か心地良い。
直ぐに子ども食堂の定食ではない料理が出される。
常連さんにはうらやましがられるが、俺だけ特別なメニューが出される。
特別とは言っても、高い食材が使われている訳でも手が込んでいる訳でもない。
手が込んでいると言うなら、長時間煮込んだ料理が多い定食の方だ。
むしろ俺の特別料理は簡単にできる物が多い。
俺の主菜は親鶏の胸肉と葉物野菜を炒めた料理だ。
常連さんたちの食器には、親鶏の胸肉をフライにした料理が乗っている。
ちょっとだけフライが食べたいと思ってしまうが、気の迷いだ。
副菜はほとんど同じで、親鶏のモツを甘辛く煮た物は好きな人だけが食べる。
俺だけ1つ多く副菜があって、それはほうれん草と卵のマーガリン炒めだ。
「両方とも翔子ちゃんが炒めてくれたんだよ」
俺の前にだけ炒め物が2つも並んでいるのはその為か。
少しも残さず美味しくいただかせてもらおう。
「おかみさん、お継母さんがお腹空いたって言っているの」
奥から初めて見る女の子がでてきた。
俺は常連さんのように昔から通っている訳ではないので、子ども食堂のお世話になっている子を全員知っている訳ではないが、直ぐに先日電話してきた子だと思った。
「玉子粥ができているから持って行ってあげるよ。
食事のお世話は天子がするから、明菜ちゃんはここで食べちまいな」
「……でも……」
「明菜ちゃんも食べていると言わないと、郁恵も安心して食べられないよ。
分かったらさっさとそこに上がって食べな」
「はい、いただきます」
大人しい子には、これくらい強引に出た方が良いのだろうか?
いや、若輩で男の俺が、女の子相手に強引に出ても碌な事にはならない。
年齢不詳な上に海千山千の大女将だから、強く出ても許されるのだろう。
「郁恵を看病するのだろう、しっかり食べなさい」
厨房から出た五郎さんが、定食を小上がりにまで運んでやる。
主菜が親鶏の胸肉をフライにした物なのは、この子に食べさせるためなのか?
「うわぁ、中にチーズが入っている!」
確か明菜ちゃんという名前だったな、歓声をあげるくらい喜んでいる。
胸肉を開いて中にチーズを詰めてから揚げる、もの凄く手間がかかっている。
人手が少なくて、時間や手間のかかる料理はあまり作らないと聞いたが、これが孫同然に対する愛情か?
「妙な事を考えているんじゃないだろうね?
今日は郁恵の事を心配して集まったボランティアが多かったんだよ。
あの子と一緒にここに通っていた子たちが全員集まって手伝ってくれたから、手の込んだ料理が作れたんだよ」
「なるほど、そう言う事ですか、良く分かりました」
俺は余計な事何も考えないように、集中して食べた。
翔子が作ってくれた炒め物を美味しく味わって食べた。
全部食べ終わって、翔子の勉強が終わるまでコーヒーを飲みながら待った。
翔子は勉強がとても楽しいようだ。
俺には理解できないが、新しい事を覚えられるのが楽しくて仕方がないようだ。
同じ年頃の友達とも仲良くやれているのを見られて安心できた。
「やれ、やれ、いくつになっても手のかかる意地っ張りだよ」
奥の部屋で母親、郁恵さんに玉子粥を食べさせていた天子さんが出てきた。
「郁恵はしっかり全部食べたのかい?」
「ああ、食欲はあるようなんで安心したよ」
「もう意地は張らないと約束させたんだろうね」
「ああ、させたよ、最初はうんと言わなかったが、言わないと私たちが明菜を引き取ると言ったら、あっさりと約束したよ」
「そうかい、それは良かった、だけど、頭から信用した訳じゃないんだろう?」
「当たり前だよ、あの子の意地っ張りは筋金入りだからね。
郁恵とは別に、血の繋がった母親に承諾書を書かせておくよ」
「あの、私を引き取るって言うのは、どういう事ですか?」
食事を終えて小上がりで勉強していた、明菜という名の女の子が聞いた。
あの時、ここに電話してきた子だろう。
俺たちがこのままここにいても良いのだろうか?
込み入った事情を聞いてしまっても良いのだろうか?
「明菜ちゃんも全部知っておいた方が良いだろう。
これ以上無理をして身体を壊すような事があれば、私たちが明菜ちゃんを引き取ると言って、無理しないと郁恵に約束させたのさ。
まあ、郁恵にも事情があるから、しかたのない所はある。
あんたの新しいお母さんになった郁恵は、両親も兄弟も親戚もいないんだ。
どこかにいるかもしれないが、捨て子だから分からないんだ」
「そんな?!」
「だから、同じ児童養護施設で育った仲間や友達はいるが、家族がいない。
私たちが里親になって家族というモノを教えようとしたが、駄目だった。
だから、頭や心で理想と思う家族を作ろうとしたんだ。
だから、血の繋がらない明菜ちゃんを育てるのに必死だったんだ」
「そんな、実の母親に捨てられた私なんかの為に……」
「明菜ちゃん、血の繋がった実の母親だからと言って、必ず子供に愛情を持てるわけではないんだよ。
子供への愛情を、どこかに落として生まれてくる人間もけっこう多いんだ。
だから、明菜ちゃんが悪い訳でも実のお母さんが悪い訳でもない」
「誰も悪くないのなら、郁恵さんが無理する事もないじゃないですか!」
「そうだね、無理する事はないんだけど、それも性格なんだよ。
あの子は頑張り屋さんの意地っ張りでね、誰かに頼るのが苦手なんだよ。
でももう大丈夫、しっかりと叱っておいたから、もう意地は張らないよ。
ただ、明菜ちゃんも気を付けてやってくれ。
ついつい頑張り過ぎてしまう性格だからね」
「分かりました、私は何をすれば良いのですか?」
「簡単な事さ、朝晩必ずここにご飯を食べに来てお話をするんだ。
学校で給食がない時は、昼も食べに来るんだ。
母親だからって、必ず料理を作らなけりゃいけない訳じゃない。
利用できるモノは利用して、身体を壊さないようにするんだ、できるね?」
「できます、やります、郁恵さんが嫌がっても必ず連れてきます」
「そう言ってくれると安心だよ。
郁恵も明菜ちゃんの言う事なら、私たちの言う事よりも聞くだろう」
これで全て上手く行ったのか?
本当にハッピーエンドなのか?
明菜ちゃんには本当のお母さんがいて、郁恵さんは義母なのか?
血の繋がった本当の母親が、後から何か言ってきたりしないのか?
あ、それで実の母親に承諾書を書かせたと言っていたのか。
疑問ではなく確信をもって声をかける。
もう翔子が家で俺を待つ事はない。
翔子が俺を待つ場所は、白髪稲荷神社子ども食堂と決まっている。
「ああ、ご飯を食べ終わって小上がりで勉強しているよ。
あんたもご飯を食べて帰りな」
「はい、ご馳走になります」
「今日も翔子ちゃんがお手伝いしてくれた、美味しく味わって食べな」
「はい、美味しく食べさせていただきます」
ぶっきらぼうな黒子さんの言葉が何故か心地良い。
直ぐに子ども食堂の定食ではない料理が出される。
常連さんにはうらやましがられるが、俺だけ特別なメニューが出される。
特別とは言っても、高い食材が使われている訳でも手が込んでいる訳でもない。
手が込んでいると言うなら、長時間煮込んだ料理が多い定食の方だ。
むしろ俺の特別料理は簡単にできる物が多い。
俺の主菜は親鶏の胸肉と葉物野菜を炒めた料理だ。
常連さんたちの食器には、親鶏の胸肉をフライにした料理が乗っている。
ちょっとだけフライが食べたいと思ってしまうが、気の迷いだ。
副菜はほとんど同じで、親鶏のモツを甘辛く煮た物は好きな人だけが食べる。
俺だけ1つ多く副菜があって、それはほうれん草と卵のマーガリン炒めだ。
「両方とも翔子ちゃんが炒めてくれたんだよ」
俺の前にだけ炒め物が2つも並んでいるのはその為か。
少しも残さず美味しくいただかせてもらおう。
「おかみさん、お継母さんがお腹空いたって言っているの」
奥から初めて見る女の子がでてきた。
俺は常連さんのように昔から通っている訳ではないので、子ども食堂のお世話になっている子を全員知っている訳ではないが、直ぐに先日電話してきた子だと思った。
「玉子粥ができているから持って行ってあげるよ。
食事のお世話は天子がするから、明菜ちゃんはここで食べちまいな」
「……でも……」
「明菜ちゃんも食べていると言わないと、郁恵も安心して食べられないよ。
分かったらさっさとそこに上がって食べな」
「はい、いただきます」
大人しい子には、これくらい強引に出た方が良いのだろうか?
いや、若輩で男の俺が、女の子相手に強引に出ても碌な事にはならない。
年齢不詳な上に海千山千の大女将だから、強く出ても許されるのだろう。
「郁恵を看病するのだろう、しっかり食べなさい」
厨房から出た五郎さんが、定食を小上がりにまで運んでやる。
主菜が親鶏の胸肉をフライにした物なのは、この子に食べさせるためなのか?
「うわぁ、中にチーズが入っている!」
確か明菜ちゃんという名前だったな、歓声をあげるくらい喜んでいる。
胸肉を開いて中にチーズを詰めてから揚げる、もの凄く手間がかかっている。
人手が少なくて、時間や手間のかかる料理はあまり作らないと聞いたが、これが孫同然に対する愛情か?
「妙な事を考えているんじゃないだろうね?
今日は郁恵の事を心配して集まったボランティアが多かったんだよ。
あの子と一緒にここに通っていた子たちが全員集まって手伝ってくれたから、手の込んだ料理が作れたんだよ」
「なるほど、そう言う事ですか、良く分かりました」
俺は余計な事何も考えないように、集中して食べた。
翔子が作ってくれた炒め物を美味しく味わって食べた。
全部食べ終わって、翔子の勉強が終わるまでコーヒーを飲みながら待った。
翔子は勉強がとても楽しいようだ。
俺には理解できないが、新しい事を覚えられるのが楽しくて仕方がないようだ。
同じ年頃の友達とも仲良くやれているのを見られて安心できた。
「やれ、やれ、いくつになっても手のかかる意地っ張りだよ」
奥の部屋で母親、郁恵さんに玉子粥を食べさせていた天子さんが出てきた。
「郁恵はしっかり全部食べたのかい?」
「ああ、食欲はあるようなんで安心したよ」
「もう意地は張らないと約束させたんだろうね」
「ああ、させたよ、最初はうんと言わなかったが、言わないと私たちが明菜を引き取ると言ったら、あっさりと約束したよ」
「そうかい、それは良かった、だけど、頭から信用した訳じゃないんだろう?」
「当たり前だよ、あの子の意地っ張りは筋金入りだからね。
郁恵とは別に、血の繋がった母親に承諾書を書かせておくよ」
「あの、私を引き取るって言うのは、どういう事ですか?」
食事を終えて小上がりで勉強していた、明菜という名の女の子が聞いた。
あの時、ここに電話してきた子だろう。
俺たちがこのままここにいても良いのだろうか?
込み入った事情を聞いてしまっても良いのだろうか?
「明菜ちゃんも全部知っておいた方が良いだろう。
これ以上無理をして身体を壊すような事があれば、私たちが明菜ちゃんを引き取ると言って、無理しないと郁恵に約束させたのさ。
まあ、郁恵にも事情があるから、しかたのない所はある。
あんたの新しいお母さんになった郁恵は、両親も兄弟も親戚もいないんだ。
どこかにいるかもしれないが、捨て子だから分からないんだ」
「そんな?!」
「だから、同じ児童養護施設で育った仲間や友達はいるが、家族がいない。
私たちが里親になって家族というモノを教えようとしたが、駄目だった。
だから、頭や心で理想と思う家族を作ろうとしたんだ。
だから、血の繋がらない明菜ちゃんを育てるのに必死だったんだ」
「そんな、実の母親に捨てられた私なんかの為に……」
「明菜ちゃん、血の繋がった実の母親だからと言って、必ず子供に愛情を持てるわけではないんだよ。
子供への愛情を、どこかに落として生まれてくる人間もけっこう多いんだ。
だから、明菜ちゃんが悪い訳でも実のお母さんが悪い訳でもない」
「誰も悪くないのなら、郁恵さんが無理する事もないじゃないですか!」
「そうだね、無理する事はないんだけど、それも性格なんだよ。
あの子は頑張り屋さんの意地っ張りでね、誰かに頼るのが苦手なんだよ。
でももう大丈夫、しっかりと叱っておいたから、もう意地は張らないよ。
ただ、明菜ちゃんも気を付けてやってくれ。
ついつい頑張り過ぎてしまう性格だからね」
「分かりました、私は何をすれば良いのですか?」
「簡単な事さ、朝晩必ずここにご飯を食べに来てお話をするんだ。
学校で給食がない時は、昼も食べに来るんだ。
母親だからって、必ず料理を作らなけりゃいけない訳じゃない。
利用できるモノは利用して、身体を壊さないようにするんだ、できるね?」
「できます、やります、郁恵さんが嫌がっても必ず連れてきます」
「そう言ってくれると安心だよ。
郁恵も明菜ちゃんの言う事なら、私たちの言う事よりも聞くだろう」
これで全て上手く行ったのか?
本当にハッピーエンドなのか?
明菜ちゃんには本当のお母さんがいて、郁恵さんは義母なのか?
血の繋がった本当の母親が、後から何か言ってきたりしないのか?
あ、それで実の母親に承諾書を書かせたと言っていたのか。
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