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第5章:若い継母と義娘
第18話:恋・真野邦康視点
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お母さんが病気で倒れたと言う幼い子供からの電話が不意にかかってきた。
それなのに、黒子さんは全く慌てる事なくテキパキと指示をだしていた。
奥で休んでいた男衆に指示して、直ぐに母子が住むアパートに向かわせた。
懇意の信頼できる病院に電話して、急患に対応してもらえるようにした。
これで良く聞く、救急車が病院をたらい回しにされる事もない。
「天子、金子、郁恵の好きな物の中から腹に溜まる物を作ってやりな」
「「あいよ、任せな」」
黒子さんは奥で休んでいた天子さんと金子さんを呼んで、電話をかけてきた子供さんの好物を作るように指示した。
朝早くか夜遅くにしか来ない俺はまだ会った事がないが、電話をかけてきた子供は、ここでご飯を食べさせてもらっているようだ。
「電話をかけてきた子は焼きおにぎりが好きなんですか?」
天子さんが網の上で焼く、味噌を塗ったおにぎりの好い香りに、食欲をそそられながら聞いてみた。
「いや、子供の方じゃないよ、倒れた母親の方さ。
あの子は小さい頃から赤味噌の焼きおにぎりが大好きなんだ」
昭和の半ばから、毎日3食もの食事を恵まれない子供たちに与え続けると言う事が、どれほど大変な事なのか、全然わかっていなかった。
手助けした子供が大きくなっても縁が切れる訳じゃない。
誰も頼る人がいなかったから、ここでお世話になったのだ。
大人になっても、最後の最後に頼れるのはここしかないのだ。
一体どれくらいたくさんの子供たちが、ここのお陰で生きて来られたのだろう?
その全員とは言わないが、かなりの人数が、大人になってからも女将さんたちを頼って来るのだろう。
今回の子供も、最後に頼る場所として、お母さんからここの電話を教えられていたから、来た事もないここに電話してきたのだ。
ぬくぬくと育って来た、優しい両親のそろった奴らよりは分かっている心算だったが、姉ちゃんという庇護者がいた俺は全く分かっていなかった。
1人前の大工になってから、たった1人の姪を育てるだけでも、お金も時間も大変だったのに、中学を出たばかりの16歳の姉ちゃんは、どれだけ大変だったろう。
姉ちゃんには、最後に頼れる場所なんてどこにもなかった。
この子ども食堂の資金をどう集めているか分からないが、入れ替わり立ち代わり頼って来る親子に手を差し伸べるのに、どれほどの人手とお金がいるのだろう。
保険証もない親や子が病気になった時には、どうやって治療費を集めたのか?
俺が病気で寝込んだ時、俺など死んでも構わないと言う態度の親戚の中で、姉ちゃんはどれほど心細く不安だったのだろうか?
俺は、本当に何も分かっていなかった、おねえちゃん、ごめん。
姉ちゃんがあいつと結婚すると言った時、もっと心から祝福してあげたらよかったのに、本当にごめん、おねえちゃん。
俺が自分の至らなさを反省している間に、ここでお世話になったお母さんが好きだと言う、腹に溜まる弁当が出来上がっていた。
普段はあまり気にしているとは思えない、彩も考えられたお弁当だ。
お母さん用と子供用の2つが用意されていた。
焼きおにぎりが入っている方がお母さん用で、ピンクのふりかけと黄色い炒り玉子が、きれいに白御飯の上にかけられているのが子供用だろう。
親鶏の肉が硬いからだろう、肉料理は甘く煮たつくねが入れられている。
刺激的な香りで分かるが、魚料理はツナと胡瓜を酢で和えたものが入っている。
そうか、酢の物にしたのは、直ぐに食べられなくても傷まないようにだな。
野菜もここの定番になっているピクルスと糠漬が入っている。
「叔父さん、大丈夫かなぁ?」
翔子が物凄く不安な表情をしている。
幼かった翔子は現場にいなかったから、姉ちゃんたちの事故を覚えていない。
覚えているのは、心無い腐れ外道共の悪口雑言だけだ。
「大丈夫、心配いらないよ、太郎と次郎が助けに行ったから大丈夫。
郁恵はちょっと意地張りな所があるから、無理したんだろう。
休めばすぐに元気になるさ、何の心配もいらないよ」
鉄火肌の黒子さんが自信満々に言うと、俺まで安心してしまう。
まるで女大親方が仕切る現場に入った時のようだ。
さっきまで不安そうにしていた子供たちの表情が、一気にやわらかくなった。
ぶるるるるる。
「太郎かい、どうした?」
黒子さんが和服の懐からスマホを取った。
固定電話ではなくマナーモードのスマホに連絡してきたのは、子供たちを不安にさせない為なのだろうな。
何度もこのような事を経験しているからこそ、細やかな心遣いができるのだろう。
黒子さんたちが1番大切にしているのは、子供たちの心なのかもしれない。
だからこそ、子ども食堂の雰囲気は居心地が良いのだろう。
「今救急車が来ました、子供が物凄く不安そうなので、次郎と一緒に付き添います。
シフトの変更をお願いします」
「分かったよ、直ぐに助っ人を頼むから心配しなくていい。
太郎が大丈夫と思うまで付き添ってやりな。
ああ、太郎と次郎の分も弁当を届けてやる。
分かってるとは思うが、しっかり食べさせてやるんだよ」
「分かっています、お任せください」
本当に色々慣れているのだな。
それにしても、黒子さんたちがお世話した女性なのに、母一人子一人の家庭を築いてしまったのは何故だろう?
黒子さんたちに色々と教えられているのなら、変な男には引っかからないと思うのだが、俺や翔子のように、交通事故にでもあったのかな?
「何か気になる事でもあるのかい?」
「あ、いえ、その、え~と」
倒れた女性に対して失礼な事を考えていたので、とっさに何も言えなかった。
適当な事を言って誤魔化そうかと、一瞬思ってしまったが、黒子さんの目を見ているとそんな事はできないと思った。
「その、黒子さんたちに色々教わった女性が、親一人子一人の家庭を築いたのが不思議だと思ってしまったのです」
「邦康さん、あんたまだ本気で女を愛した事がないだろう?」
男のメンツにかけて素直に頷けない、そう思ってしまったが、とても真剣な黒子さんの表情を見ると噓は言えなかった。
「はい、本気で好きになれる女性とはまだ出会えていません」
「本当の恋ってのは、頭ではどうしようもできないモノでね。
打算やしがらみで家庭を築くようにはいかないんだよ。
どれだけ困難な相手でも、好きになったらどうしようもないんだよ。
とはいえ、好きな相手と結婚したから幸せになれるとは限らない。
打算や計算で一緒になった方が、世間一般的な幸せな家庭を築けることもある。
とはいえ、心から好きになれる相手と出会えないのも不幸だ。
郁恵は心から愛せる男と出会って一緒になった、それだけの事さ。
困っているなら助けてやる、それだけの事さ」
それなのに、黒子さんは全く慌てる事なくテキパキと指示をだしていた。
奥で休んでいた男衆に指示して、直ぐに母子が住むアパートに向かわせた。
懇意の信頼できる病院に電話して、急患に対応してもらえるようにした。
これで良く聞く、救急車が病院をたらい回しにされる事もない。
「天子、金子、郁恵の好きな物の中から腹に溜まる物を作ってやりな」
「「あいよ、任せな」」
黒子さんは奥で休んでいた天子さんと金子さんを呼んで、電話をかけてきた子供さんの好物を作るように指示した。
朝早くか夜遅くにしか来ない俺はまだ会った事がないが、電話をかけてきた子供は、ここでご飯を食べさせてもらっているようだ。
「電話をかけてきた子は焼きおにぎりが好きなんですか?」
天子さんが網の上で焼く、味噌を塗ったおにぎりの好い香りに、食欲をそそられながら聞いてみた。
「いや、子供の方じゃないよ、倒れた母親の方さ。
あの子は小さい頃から赤味噌の焼きおにぎりが大好きなんだ」
昭和の半ばから、毎日3食もの食事を恵まれない子供たちに与え続けると言う事が、どれほど大変な事なのか、全然わかっていなかった。
手助けした子供が大きくなっても縁が切れる訳じゃない。
誰も頼る人がいなかったから、ここでお世話になったのだ。
大人になっても、最後の最後に頼れるのはここしかないのだ。
一体どれくらいたくさんの子供たちが、ここのお陰で生きて来られたのだろう?
その全員とは言わないが、かなりの人数が、大人になってからも女将さんたちを頼って来るのだろう。
今回の子供も、最後に頼る場所として、お母さんからここの電話を教えられていたから、来た事もないここに電話してきたのだ。
ぬくぬくと育って来た、優しい両親のそろった奴らよりは分かっている心算だったが、姉ちゃんという庇護者がいた俺は全く分かっていなかった。
1人前の大工になってから、たった1人の姪を育てるだけでも、お金も時間も大変だったのに、中学を出たばかりの16歳の姉ちゃんは、どれだけ大変だったろう。
姉ちゃんには、最後に頼れる場所なんてどこにもなかった。
この子ども食堂の資金をどう集めているか分からないが、入れ替わり立ち代わり頼って来る親子に手を差し伸べるのに、どれほどの人手とお金がいるのだろう。
保険証もない親や子が病気になった時には、どうやって治療費を集めたのか?
俺が病気で寝込んだ時、俺など死んでも構わないと言う態度の親戚の中で、姉ちゃんはどれほど心細く不安だったのだろうか?
俺は、本当に何も分かっていなかった、おねえちゃん、ごめん。
姉ちゃんがあいつと結婚すると言った時、もっと心から祝福してあげたらよかったのに、本当にごめん、おねえちゃん。
俺が自分の至らなさを反省している間に、ここでお世話になったお母さんが好きだと言う、腹に溜まる弁当が出来上がっていた。
普段はあまり気にしているとは思えない、彩も考えられたお弁当だ。
お母さん用と子供用の2つが用意されていた。
焼きおにぎりが入っている方がお母さん用で、ピンクのふりかけと黄色い炒り玉子が、きれいに白御飯の上にかけられているのが子供用だろう。
親鶏の肉が硬いからだろう、肉料理は甘く煮たつくねが入れられている。
刺激的な香りで分かるが、魚料理はツナと胡瓜を酢で和えたものが入っている。
そうか、酢の物にしたのは、直ぐに食べられなくても傷まないようにだな。
野菜もここの定番になっているピクルスと糠漬が入っている。
「叔父さん、大丈夫かなぁ?」
翔子が物凄く不安な表情をしている。
幼かった翔子は現場にいなかったから、姉ちゃんたちの事故を覚えていない。
覚えているのは、心無い腐れ外道共の悪口雑言だけだ。
「大丈夫、心配いらないよ、太郎と次郎が助けに行ったから大丈夫。
郁恵はちょっと意地張りな所があるから、無理したんだろう。
休めばすぐに元気になるさ、何の心配もいらないよ」
鉄火肌の黒子さんが自信満々に言うと、俺まで安心してしまう。
まるで女大親方が仕切る現場に入った時のようだ。
さっきまで不安そうにしていた子供たちの表情が、一気にやわらかくなった。
ぶるるるるる。
「太郎かい、どうした?」
黒子さんが和服の懐からスマホを取った。
固定電話ではなくマナーモードのスマホに連絡してきたのは、子供たちを不安にさせない為なのだろうな。
何度もこのような事を経験しているからこそ、細やかな心遣いができるのだろう。
黒子さんたちが1番大切にしているのは、子供たちの心なのかもしれない。
だからこそ、子ども食堂の雰囲気は居心地が良いのだろう。
「今救急車が来ました、子供が物凄く不安そうなので、次郎と一緒に付き添います。
シフトの変更をお願いします」
「分かったよ、直ぐに助っ人を頼むから心配しなくていい。
太郎が大丈夫と思うまで付き添ってやりな。
ああ、太郎と次郎の分も弁当を届けてやる。
分かってるとは思うが、しっかり食べさせてやるんだよ」
「分かっています、お任せください」
本当に色々慣れているのだな。
それにしても、黒子さんたちがお世話した女性なのに、母一人子一人の家庭を築いてしまったのは何故だろう?
黒子さんたちに色々と教えられているのなら、変な男には引っかからないと思うのだが、俺や翔子のように、交通事故にでもあったのかな?
「何か気になる事でもあるのかい?」
「あ、いえ、その、え~と」
倒れた女性に対して失礼な事を考えていたので、とっさに何も言えなかった。
適当な事を言って誤魔化そうかと、一瞬思ってしまったが、黒子さんの目を見ているとそんな事はできないと思った。
「その、黒子さんたちに色々教わった女性が、親一人子一人の家庭を築いたのが不思議だと思ってしまったのです」
「邦康さん、あんたまだ本気で女を愛した事がないだろう?」
男のメンツにかけて素直に頷けない、そう思ってしまったが、とても真剣な黒子さんの表情を見ると噓は言えなかった。
「はい、本気で好きになれる女性とはまだ出会えていません」
「本当の恋ってのは、頭ではどうしようもできないモノでね。
打算やしがらみで家庭を築くようにはいかないんだよ。
どれだけ困難な相手でも、好きになったらどうしようもないんだよ。
とはいえ、好きな相手と結婚したから幸せになれるとは限らない。
打算や計算で一緒になった方が、世間一般的な幸せな家庭を築けることもある。
とはいえ、心から好きになれる相手と出会えないのも不幸だ。
郁恵は心から愛せる男と出会って一緒になった、それだけの事さ。
困っているなら助けてやる、それだけの事さ」
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