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54.三年前の約束②(怖さレベル:★★★)

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どういうことなのかと、再び例の白い塊に目線を戻せば、

(……え、っ?)

ヒュン

ほんのわずか。

またたく間に視界から消えうせたそれは――
肌から髪の毛まで真っ白な、人の頭部のように見えました。

「あ、あんた……あれ……」

見間違いでは決して無い。

窓の枠のところ、じっと覗くようにして存在していたそれは、
どう考えても、普通の人間ではありません。

私は動揺でしどろもどろになりつつ、妹を振り返りました。

ミナコはがくがくと首を上下に揺すりつつ、言葉に迷うようにして、
神妙に呟きました。

「あれ……たぶん、サナちゃん、だと思う」
「……は……?」

サナちゃん。
事故で亡くなった、妹の親友。

それが、すでに葬儀も済ませた後だっていうのに、ここに現れた?

「い、いやいや……ゆ、幽霊だっていうの?」

私の、精一杯の強がりの笑みを、妹は真顔で一蹴しました。

「……お姉ちゃんもわかってるでしょ。ここ、三階だし……あんなところに人は立てないって」

妙に冷静な妹が、たんたんと事実を述べました。

「う……で、でも、どうして? あんた、別に呪われたり、
 恨まれたりするいわれはないじゃない」

今回の事故で、加害者である運転手にとり憑くのであればまだしも、
妹はいっしょに事故に巻き込まれた被害者同士です。

確かに妹は生きて、彼女は亡くなってという理不尽さはありますが、
それは神のみぞ知ることで、ミナコに責任があることではありません。

そんな疑問に、妹は伏せた目をわずかに上げて、グッと下唇を噛みました。

「約束……してて」
「……約束?」
「うん。……二人が離れ離れになっても、ぜったいにまた会おうね、っていう、約束」

離れ離れになっても、会いに来る。

それは、来年卒業を控えた彼女たちにとって、よくあるような内容の、それ。

「あ、会いにって……まさか……」
「こんな……こんなコト起こるなんて、思っても無くて。
 あたしとサナちゃん、大学別々の予定だったから……遠く離れてもまたちょくちょく会おうね、って、
 そういう意味だったんだけど……」

そう言うと、妹は再び床に目を落として、

「……サナちゃんが、ずっと出てきてて。
 こっちに来て、って……一緒に行こう、離れ離れなんてイヤだ、って、ずっと囁いてきて」

と、懺悔のようにつぶやいたのです。

「ずっとって……い、いつから」
「…………。事故にあって、目が覚めた次の日、から」

というと、今日で四日目、ということになります。

妹がやけにボーッとしたり、鬱々としていたのは、
友人の死のショックによるものだけではなく、こんな事実があったなんて。

私はグッと拳を握りしめ、覚悟を決めました。

「……わかった。今はまだ入院中だし、お寺にも神社にも行けないから……
 姉ちゃんか、お母さんが必ずついてるようにする」
「えっ……し、信じてくれるの?」

ミナコは、考え過ぎと笑われるとでも思っていたのか、
目を大きく見開きました。

「信じるもなにも……さっき、見ちゃったしね」

あの僅かな間でサッと引っ込んだ白い顔。

幻覚と言いきるにはタイミングがおかしいし、
妹も見ているのならば、ほぼほぼ間違いありません。

「あんたを死なせるわけにはいかないよ。……事故で亡くなったのはかわいそうだし、
 あちらの家族も辛いと思う。でも……だからといって、あんたを連れていいってわけにはならない」

それに、彼女はお葬式も終わり、
戒名もつけられ、供養もされているはずなのです。

ということは、あれは悪霊にでもなってしまったサナちゃんなのか、
それともそう見せている別の何かなのかもしれません。

「お姉ちゃん……ありがとう……」

半泣きで縋りついてくる妹をあやしつつ、
私はどうすればその友人を成仏させられるか、ジッと考えを巡らせていました。



翌日。

半信半疑の母に、一応は正直に事情を話し、
とりあえず幻かもしれないけれど、
不安がっているから傍を離れないでやって欲しいと念押しをして私は外出していました。

しかし、心当たりなど何一つなく、
友人にそういった方面に詳しい人もおりません。

とりあえず、片っ端から寺か神社を巡って、
お守りの購入と相談に回ることに決め、さっそくスマホで近くの施設を検索することにしました。

「……とり憑かれている、ですか」

幾つか目のある神社。

平日の昼という神社内はひと気があまりなく、
お守り販売の小さな建物にいた若いバイトらしき男性に声をかければ、
少しして、神主さんらしき人を連れてきてくれました。

(よしっ……)

今まで回ってきた三つの神社とお寺では、正直、あまり良い反応を貰えず、
門前払いとまではいかぬものの、お祓いの話一つ受けてもらえなかったため、
私は手ごたえを感じて内心ガッツポーズをしました。

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