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54.三年前の約束①(怖さレベル:★★★)

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(怖さレベル:★★★:旧2ch 洒落怖くらいの話)

友人との、かけがえのない約束。

それはたわいのないものから、
一生を賭すような大事なものまであると思います。

それが、微笑ましいもので終われば良い思い出であり、
大事な友情のかけ橋となるでしょう。

しかし、それが果たして、
良くない方面のものに取り入られるキッカケとなることもあるかもしれません。

そう、三年前。

私たちが経験した、とある出来事のように。



そう、あれはある夏の日でした。

すでに学生は夏休み、という夏本番。

私は社会人で、この暑さのなかでもあくせくと働きに出ていましたが、
十離れた妹は、エアコンの効いた自宅や友人の家へ遊びにと、悠々自適に毎日を送っているようでした。

そんな、アスファルトで蒸し焼きにされるじゃないかと思うほど、
激しい暑さに見舞われたある日の午後。

私がいつものように会社で部材の発注書をまとめていると、
重ねられた書類の横で、ブルブルと携帯電話が着信を告げました。

(仕事中に……なんだろ)

普段であれば後回しにする仕事中の着信ですが、
画面表示に出たのはめずらしく母。

何かあったのかと一抹の不安に見舞われつつ、
オフィスを出て廊下で通話に切り替えると、

「もしもし? なにかあった?」
『……ミナコが、ミナコが事故に巻き込まれて……』
「えっ、ミナコが!?」

妹のミナコ。
涙混じりの母が言うには、彼女が車に轢かれて病院へ搬送されたのだというのです。

『今、お父さんの車で病院に向かってて……
 あなたも会社を早退して、できるだけ早く来てやって』
「う、うん、わかった」

動揺で震える声を必死で落ち着かせつつ、
上司に慌てて事情を説明し、すぐさま病院へと直行しました。



「……ミナコ」

漂白されたような病室の中。
寝台に寝かされた妹は、あちこち包帯だらけです。

傍らにはすでに両親の姿があり、
母などはギュッと両手で横になった妹の手を握りしめていします。

「ああ、来てくれてよかった……ミナコね、命に別状はないって」

と、現れたこちらを見て、
母は目に涙をためながら頷きました。

「ほ、ほんと!? ……ああ、良かった……」

私は緊張していた身体から一気に力が抜けて、ヘナヘナとイスに座り込みました。
母の切羽詰まった口調から、生死の境をさ迷うほどの重症なのかと、ある種覚悟をしていたのです。

その当人は、麻酔でも効いているのか、
目を閉じてスヤスヤと眠っているようでした。

「……しかし、なぁ」

けれど、そんなホッと落ち着いた空気の中、
父が眉間にシワを寄せ、小さく呟きました。

「うちの……ミナコは良かったが……相川さんのうちは」
「相川……さん?」

相川というのは、妹と同級生の女の子で、
この夏休みもよく彼女と共にプールやらショッピングやらと出かけていた相手です。

「相川……サナちゃんのこと? それがどうしたの」

しかし、この流れからその名前が出てくる、というのがつながりません。

私が父に視線を向けると、父はグッと口を引き結び、
躊躇するように眉間を揉んだ後、ポツリと言いました。

「その、サナって子は……ミナコと一緒に轢かれて……亡くなったんだ」
「……えっ?」

亡くなった――サナちゃんが?

それは、その子をミナコの話でしか聞いたことのない私ですら、大きく衝撃を受ける内容でした。

しかも、話の感じからして、妹と一緒に事故に巻き込まれ、
ミナコだけが助かった――ということで。

無論、悪いのは事故を起こした運転手ですが、
目覚めてそれを知ったら、どんなに妹は自分を責めるでしょう。

それに、サナちゃんの家族、相川さん一家はどれほど辛いことか。

私は二重に訪れた衝撃に、もはや言葉もありませんでした。



「…………」
「もう、またボーッとしてるの?」

あれから数日経過し、妹は未だ病院に入院しているものの、
すっかり身体を動かせるようになりました。

とはいえ、両足にはヒビが入っているし、
全身にダメージを受けている為、移動は車イスでしかままなりません。

しかしそれでも、五体満足で脳に後遺症もないということだけでも、
両親、それに私にとっては喜ばしい事です。

「……サナちゃん」

けれど、妹は友人の死を知ってしまいました。

『信号は……うん、点滅してた。あたしもサナちゃんも、ヤバい、早く渡らなきゃって駆け足で……
 だから、後ろから左折のトラックが来てることにも気づかなくて。』

意識を取り戻して聴取を受けている時、
妹はとつとつと感情を押し殺すように語りました。

『あたしの方が足が速いから……ほんの一歩くらいだけど、前に出てて。
 ドン! て音がして……ハッと振り向いたら、大きな塊……トラックが突っ込んできて』

最後の方など、言葉にならないようなありさまで、
涙で声をとぎらせながらそう話していました。

彼女、相川さんは昨日葬儀を執り行ったものの、
一番の友人を目前で亡くした妹のショックは計り知れず、
妹は始終俯き、ひたすらに涙を流していました。

今日も、私が来てなにかを話しかけても生返事ばかりで、
思いつめたかのようにジッと窓の外ばかりを見つめているのです。

こればかりは、本人の心の整理がつかなければどうしようもないのだろう、
と励ましの言葉もなく、窓の外を眺める妹をただただ見つめていた時。

(……ん?)

窓の桟、鉄のサッシの部分に白いものが見えます。

(ティッシュでもくっついた……?)

白い塊が、風の入るサッシの部分で揺れていました。

私がそのゴミをとろうと、二歩、三歩、窓辺に近寄ると、

「お姉ちゃん、ダメ……!」

グッ、と。

傍らの妹にそでを引っ張られました。

「えっ? いや、あのゴミ拾わないと」

こんな元気があったのかと、驚きつつ妹に反論するも、

「ごっ……ゴミじゃない、アレ……ゴミなんかじゃない」

プルプルと小刻みに身体を震わせながら、はっきりと言いきりました。

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