気付くのが遅すぎた

高瀬船

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自分は先日、聖女様と何を約束した?どんな話をした?
あの日の浮かれていた自分に嫌気がさす。
こんな浮ついた気持ちでいたからきっとフィミリアの信頼も、愛情も無くしかけているという事にサミエルは気付かないでいたかった。



数日後、聖女の慰労を目的とした夜会が開かれる。
そこで、自分は婚約者がいながら聖女の相手役を務める、と約束してしまった。
どうフィミリアに切り出せばいい?
慰労名目の夜会が開かれる事はもう既に色々な場所で噂になっている。
その為、フィミリアのハーツウィル家も既に情報を得ているだろう。
子爵になんと詫びればいい、どう説明すればいい。フィミリアにどう詫びればいい。
けれど、このまま黙っている訳にはいかない。
これできっと、完全にフィミリアに見切りをつけられるであろうことはサミエルにも理解出来た。

「フィミリア…すまない…。数日後、聖女様の帰還を祝う事と共に、慰労も兼ねて王宮にて夜会が開かれる…」
「…?そうなのですね、承知しました。私もサミエル様と共に参加させて頂ければ宜しいのでしょうか?」

婚約解消の申し出を受けたとは言え、婚約解消には暫し時間がかかる。
数日後にはまだ婚約者同士である為、フィミリアはサミエルの言葉にそう返した。
そのフィミリアの言葉に、サミエルはくしゃり、と表情を歪ませると、フィミリアの前で頭を下げた。

「すまない…!そこで、俺は聖女様のエスコートをすると自ら申し出てしまったんだ…!」
「……え?」

婚約者がいながら他の女性をエスコートする。
この事が周りからどう見られるか、今のサミエルには痛いほど良くわかる。
自分は、婚約者がいながら他の女性に懸想する身持ちの悪い男と認識され、フィミリアは婚約者に浮気された令嬢、というレッテルが貼られる。
自分の事は自業自得だからいい、だけど、フィミリアは何一つ悪い事などしていない。
けれど、自分が他の女性にうつつを抜かした為に、フィミリアはこれから先軽視される人生を送ってしまう。
だが、今更聖女様へエスコートを断る事など出来ない。自分から申し込んだ事だ。それを今更撤回する等出来ない。

「そうですか…聖女様と共に…」

俯くフィミリアの顔を見る事が出来ない。
自分にはフィミリアに許しを乞う事も、その頬を流れる涙を拭う事も許されない。

隣にいる事が当たり前だった女性。
これから先も、当たり前のように自分と共にこれからを歩んで行くと思っていた女性。
その機会を自ら手放した。

サミエルはぐっと掌を握り込み、もう一度心の中でフィミリアに謝罪した。
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