気付くのが遅すぎた

高瀬船

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「婚約を…考える時間…?」

フィミリアから言われた言葉に、サミエルは唖然とする。

「ちょっと…待って欲しい…考える…、考えるとは?」

サミエルはフィミリアに告げられた言葉を理解出来ない、と言うように額に手を当て狼狽える。
何故急に、と呟いた言葉にフィミリアはサミエルの瞳をしっかりと見つめながら言葉を続けた。

「言葉の通りです、サミエル様。何故このような言葉を私が伝えるか、サミエル様が一番お分かりかと思います。」
「──先日、の聖女様と俺の姿を見て、このような事を言うのか…?」
「それ以外に理由がございますか?」

─私には婚約者が他の女性を想っている状態で婚約の継続も、ましてや婚姻に進むことは出来そうにありません。
とフィミリアはキッパリとサミエルに告げた。


フィミリアの真っ直ぐな言葉に、サミエルは言葉を返すことが出来ない。
婚約者がいる身ながら、他の女性に懸想していた事は事実で。
しかも、幼い頃から将来を約束していた女性だ。
優しい彼女であれば、見て見ぬふりをしてくれるかもしれない、自分が他の女性に想いを寄せていても許してくれるかもしれない、とそんな烏滸がましい事を考えていた。

自分がフィミリアと同じ立場になったら許せるだろうか。
見て見ぬふり等出来るだろうか。

そこまで考えて、サミエルは自分がとても不義理な事をしている、とやっと気付く。


「すまない、フィミリア…君がいながら俺は──」
「…もう、いいのです。サミエル様に想う方がいるのは事実。近々、婚約を解消致しましょう…」


─婚約解消
その言葉を聞いて、サミエルは俯いていた状態からぱっと顔を上げる。

こんな、大事に。
幼少時から続いていた両家の婚約を、自分のせいで解消しなければいけない事になってしまったその事実に、息が上手く出来なくなる。

「嫌、だ…フィミリア、婚約解消だけはやめてくれ…すまない、本当に君には申し訳なく思っているんだ」

サミエルは縋るようにフィミリアへ視線を移す。
不義理を犯した自分が言えた事では無いことはわかっている。
だけど、婚約解消は、それだけは…
解消してしまったら、今後フィミリアと会う事が出来なくなる。
今まで二人で過ごした時間も、確かに育んだ二人の気持ちも、全てが消え去ってしまう。

自分が滅茶苦茶なことを話している事はわかっている。
不義理を果たしておいて、婚約者のままでいたい、等許される事が無い事はわかっている。
けれど、フィミリアとの繋がりが無くなってしまう事にサミエルは何よりも恐怖を感じてしまった。
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