気付くのが遅すぎた

高瀬船

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まさか、エスコート無しで夜会に参加する日が来るとは…、とフィミリアは細く息を吐き出す。
サミエルはびくり、と体を揺らすとフィミリアから視線を外した。


サミエルと会った際に、ひとつお願いしたい事があったがそれも今では口に出来る雰囲気ではない。

(最後にせめて一度だけ、抱きしめて欲しかったけれど…それも言い辛い雰囲気になってしまったわね)

フィミリアはそっとサミエルを伺い見る。
大きな体を縮こませながら、フィミリアの言葉を断頭台で待つような心情で待っているようだ。

(そんなに怖がらなくてもいいのに…)
フィミリアは悲しげに微笑んだ。

この場所で彼と話す事はもうないのだ。
この後は家に戻り、夜会の事、サミエルとの婚約解消についてを父親へ報告しなくてはならない。
フィミリアは座っていたソファから立ち上がると、サミエルに向かって唇を開いた。

「夜会の件、畏まりました。当日はお父様へエスコートをお願い致しますのでお気になさらず」

サミエルの返答を待たずに、フィミリアは一礼すると、そのまま振り返る事なくその部屋を後にした。
一人残されたサミエルは、そのまま項垂れるように目の前のテーブルに頭を抱えたまま突っ伏し、暫くその場から動く事が出来なかった。









自宅へ戻り、フィミリアは父親と母親にサミエルとの話しを報告する。
やはり婚約は解消する事となった旨を伝えると
父、フレディはやはり怒り狂い、すぐにでも婚約解消の手続きを行う、と言い残しすぐさまサミエルのバーデンウィッド伯爵家へと馬車で向かうため部屋を出て行った。
母、ラティシアもサミエルが夜会で聖女をエスコートする、という言葉を聞いて温厚なラティシアも憤りを顕にしてサミエルを責めた。
二人とも、フィミリアの気持ちを心配してくれ夜会には参加しなくてもいい、と言ってくれたが今回欠席してしまうと、今後の社交がしにくくなってしまう為欠席はせず、父フレディにエスコートして貰いたい事を伝え、快く了承を貰った。


夜会まであと数日。
その日を迎えたら本当にサミエルとはお別れだ。
最後は笑顔でお別れしたい、そして聖女様と幸せになって欲しい。
悲しい結果になってしまったけど、人を愛するという事を学べた。そして、人の気持ちというのは移ろう物だとも学べた。
短い時間だったけど、サミエルと一緒に過ごせた時間は宝物になった。
想い、想われる事は叶わなかったけれど、この宝物を胸にこれから先の人生を過ごして行こう、とフィミリアは数日後に訪れる夜会の準備を始めた。
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