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201:狼の精霊
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翌日、久しぶりに猪鹿亭の部屋でゆっくりと休んだ僕は、二本の精霊樹のある猪鹿亭の裏庭に来ていた。
裏庭にはラルフさんの姿もあり、その付き添いのようにキャロ達四人の姿と、もう一組サラとフィーネの姿もあった。
ラルフさんは地上に戻った後、行く場所の予定がないことを知った四人に、引っ張られるように孤児院に向かったのだった。
休養が必要なラルフさんが、孤児院の子供達に囲まれて大変な事になりそうだと思ったので、ラルフさんにも猪鹿亭での滞在を勧めようとしたのだが……
リーゼが「病気になった子が入れられる普段使われていない隔離部屋があるから大丈夫! それに孤児院ならお世話を交代で出来るから安心よ!」と強く請け負ってくれたので僕は四人に一旦任せる事にしたのだ。
思っていたよりずっと元気そうで、すっかり四人とも仲良くなっているラルフさんの姿を見て任せて正解だったと思わずにはいられなかった。
「シルフィーがいるので疑っていた訳じゃないんだけど、本当にガザフに精霊樹が元気に根付いて立派に成長しているのね……」
サラがシルフィーの宿る精霊樹に触れながら頻りと感心しているようだ。
「そうね~、精霊樹はある程度成長すれば大気中の魔素を吸収して成育出来るようになるんだけど、そこまで成長するのが一苦労なのよね~」
精霊樹の枝の上でフィーネは、シルフィーとニースを間に挟んで仲良く並んでお喋りしていたようだが、僕とサラの会話を枝の上から聞きつけ会話に参加してきたのだ。
「シルフィー、この角を若木の根元に置けば良いの?」
シルフィーにそう確認を取った僕は、ディーネから受け取った狼の精霊が宿っているという白い角をディーネが宿る精霊樹の若木の根元にそっと置いた。
「新たな枝木を植えて宿らせるのかと思っていたよ」
僕はディーネが妖魔から精霊樹の枝木に宿る事で、浮遊精霊に生まれ変わった時の事を思い出したのだ。
「今回は少し状況が違うのよね……その狼の精霊は既にその角に宿っていて生まれ変わりは完了しているのよ」
シルフィーの説明を聞いて僕には新たな疑問が生まれた。
「なら、これからやろうとしてる事って何なの?」
そこまで終わっているのなら、ディーネの時のように名前を新たに付けるだけじゃないかと思ったのだ。
「まあそうなんだけど……セルフィーナ様が、この元闇精霊の願いを聞き入れてかなり徹底的にやってしまわれたみたいなのよね……このままだとこの角の中で眠り続けそうなのよ、だから精霊石の力を借りて目覚めてさせようと思うの」
(闇精霊は何を望んで、そこまでの生まれ変わりを望んだのだろうか? その理由を僕が知る事はもうないんだろうな……)
「それについでと言っては何だけど……この若木にも更なる成長を遂げて貰おうと考えているのよ、浄化の力を持つ存在は貴重なのよ……本当はもっとゆっくり成長させてあげたかったのだけどね。この地にダンジョンがあるせいでこの都市には驚くほどの魔素が流れ込んで来ているのよ……そうね時間がないのだわ」
シルフィーの最後の台詞は、今思い付いたとでも言うような、何気なく発せられたものだった。
先触れと言われる下級とは言え魔人などという存在と直接的には戦う事はなかったにせよ、その不気味さは僕の心にも重くのしかかった。
「さあ、大地の癒しをお願い」
シルフィーのその言葉を受けてディーネの時と同じく、キャロが右手に精霊石の小石を持ち、ラルフさん、ルナとリーゼ、そしてティムと続き、サラ、最後に僕の順番に並んで手を繋いだ。
僕が最初に魔力循環を行い、最後に魔力の流れを感じたキャロが「【小石さん大地を癒して下さい】」と右手を掲げた。
精霊石の小石から、金色に輝く砂粒のようなものが吹き出し、精霊樹の若木と角の周辺に吸い込まれるように消えていった。
前回と違う事は奔流のように吹き出した砂粒の量と時間だった。そして前回の妖魔だったディーネと同じように根元に置いた角が消えてしまった。
「角、消えちゃったね……」
まるで土に溶けるように消えてしまった角を見てキャロがそう呟いた。
「無事、若木に吸収……もう若木とは呼べないわね」
目の前で見ていても信じられなかった、前回も挿しただけの枝木がキャロくらいの若木に成長してしまったのだが――
「精霊樹がこんな短期間で成木に近い状態に……これエルフィーデ女王国の本国は把握しているのかしら……」
サラの声が少し緊張を帯びているのが分かった。
「どうでしょう~、これって闇精霊が吸収した魔人の魔素を精霊石が癒しとして返してくれたと考えると、無制限にこんな真似が出来る訳じゃなさそうよ~」
フィーネのその意見に僕はホッとした。サラの様子からただならぬ物を感じて緊張してしまっていたのだ。
「あれ? なんか可愛い子がいるよ‼」
キャロの声が大きくなり、リーゼとルナも大騒ぎを始めた。
庭の精霊樹の根元に、丸くなって小さな狼の子供が眠っていたのだった。
裏庭にはラルフさんの姿もあり、その付き添いのようにキャロ達四人の姿と、もう一組サラとフィーネの姿もあった。
ラルフさんは地上に戻った後、行く場所の予定がないことを知った四人に、引っ張られるように孤児院に向かったのだった。
休養が必要なラルフさんが、孤児院の子供達に囲まれて大変な事になりそうだと思ったので、ラルフさんにも猪鹿亭での滞在を勧めようとしたのだが……
リーゼが「病気になった子が入れられる普段使われていない隔離部屋があるから大丈夫! それに孤児院ならお世話を交代で出来るから安心よ!」と強く請け負ってくれたので僕は四人に一旦任せる事にしたのだ。
思っていたよりずっと元気そうで、すっかり四人とも仲良くなっているラルフさんの姿を見て任せて正解だったと思わずにはいられなかった。
「シルフィーがいるので疑っていた訳じゃないんだけど、本当にガザフに精霊樹が元気に根付いて立派に成長しているのね……」
サラがシルフィーの宿る精霊樹に触れながら頻りと感心しているようだ。
「そうね~、精霊樹はある程度成長すれば大気中の魔素を吸収して成育出来るようになるんだけど、そこまで成長するのが一苦労なのよね~」
精霊樹の枝の上でフィーネは、シルフィーとニースを間に挟んで仲良く並んでお喋りしていたようだが、僕とサラの会話を枝の上から聞きつけ会話に参加してきたのだ。
「シルフィー、この角を若木の根元に置けば良いの?」
シルフィーにそう確認を取った僕は、ディーネから受け取った狼の精霊が宿っているという白い角をディーネが宿る精霊樹の若木の根元にそっと置いた。
「新たな枝木を植えて宿らせるのかと思っていたよ」
僕はディーネが妖魔から精霊樹の枝木に宿る事で、浮遊精霊に生まれ変わった時の事を思い出したのだ。
「今回は少し状況が違うのよね……その狼の精霊は既にその角に宿っていて生まれ変わりは完了しているのよ」
シルフィーの説明を聞いて僕には新たな疑問が生まれた。
「なら、これからやろうとしてる事って何なの?」
そこまで終わっているのなら、ディーネの時のように名前を新たに付けるだけじゃないかと思ったのだ。
「まあそうなんだけど……セルフィーナ様が、この元闇精霊の願いを聞き入れてかなり徹底的にやってしまわれたみたいなのよね……このままだとこの角の中で眠り続けそうなのよ、だから精霊石の力を借りて目覚めてさせようと思うの」
(闇精霊は何を望んで、そこまでの生まれ変わりを望んだのだろうか? その理由を僕が知る事はもうないんだろうな……)
「それについでと言っては何だけど……この若木にも更なる成長を遂げて貰おうと考えているのよ、浄化の力を持つ存在は貴重なのよ……本当はもっとゆっくり成長させてあげたかったのだけどね。この地にダンジョンがあるせいでこの都市には驚くほどの魔素が流れ込んで来ているのよ……そうね時間がないのだわ」
シルフィーの最後の台詞は、今思い付いたとでも言うような、何気なく発せられたものだった。
先触れと言われる下級とは言え魔人などという存在と直接的には戦う事はなかったにせよ、その不気味さは僕の心にも重くのしかかった。
「さあ、大地の癒しをお願い」
シルフィーのその言葉を受けてディーネの時と同じく、キャロが右手に精霊石の小石を持ち、ラルフさん、ルナとリーゼ、そしてティムと続き、サラ、最後に僕の順番に並んで手を繋いだ。
僕が最初に魔力循環を行い、最後に魔力の流れを感じたキャロが「【小石さん大地を癒して下さい】」と右手を掲げた。
精霊石の小石から、金色に輝く砂粒のようなものが吹き出し、精霊樹の若木と角の周辺に吸い込まれるように消えていった。
前回と違う事は奔流のように吹き出した砂粒の量と時間だった。そして前回の妖魔だったディーネと同じように根元に置いた角が消えてしまった。
「角、消えちゃったね……」
まるで土に溶けるように消えてしまった角を見てキャロがそう呟いた。
「無事、若木に吸収……もう若木とは呼べないわね」
目の前で見ていても信じられなかった、前回も挿しただけの枝木がキャロくらいの若木に成長してしまったのだが――
「精霊樹がこんな短期間で成木に近い状態に……これエルフィーデ女王国の本国は把握しているのかしら……」
サラの声が少し緊張を帯びているのが分かった。
「どうでしょう~、これって闇精霊が吸収した魔人の魔素を精霊石が癒しとして返してくれたと考えると、無制限にこんな真似が出来る訳じゃなさそうよ~」
フィーネのその意見に僕はホッとした。サラの様子からただならぬ物を感じて緊張してしまっていたのだ。
「あれ? なんか可愛い子がいるよ‼」
キャロの声が大きくなり、リーゼとルナも大騒ぎを始めた。
庭の精霊樹の根元に、丸くなって小さな狼の子供が眠っていたのだった。
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