自由都市のダンジョン探索者 ~精霊集めてダンジョン攻略~【第一部:初級探索者編完結】

高田 祐一

文字の大きさ
上 下
202 / 213

202:白狼の精霊フェルト

しおりを挟む
 丸くなって眠っていた狼の子供はキャロに抱き上げられ目を覚ました。眠そうな狼は小さく欠伸をして体を伸ばした。

「かわいい!」三人の女の子達は、夢中になって交代で子狼を抱っこしている。

「どうやらあの子狼が闇精霊の生まれ変わった姿みたいね。そうだ名付けをしないとね」

 シルフィーは可愛がられている子狼を眺めながら僕の方を見た。

「ラルフさん、あの子狼の名付けは、あなたがするべきじゃないかと思うんですが?」

 しかし、僕はもともと憑依していたラルフさんが名前を付けるのが相応しいと思いラルフさんに声をかけた。
 
「いいえ、ユーリさん、確かに憑依されていただけとはいえ闇精霊を家族のように感じていたのは事実です。ですが生まれ変わったあの子狼はもうあの闇精霊とは別の存在です。それに……」

 言葉を切ると、ラルフさんは可愛がられている子狼に優しい眼差しを向けた。

「闇精霊の望みは生まれ変わって、大精霊フェンリルの心を理解したいと願っていました。それにやはりその強さにも憧れのような気持ちを持っていました。消える瞬間まで私との繋がりは残っていましたので間違いありません……眠っていた私にとっては夢で見た出来事でしたが……」

 そう言うと僕の肩を軽く叩いた。

「私は今回の件で殆どの力を失ってしまいました……ですから、これからは先輩方のようにウサギ狩りをして暮らそうと思っています……実際のところ闇精霊に憑依されていなければ、もっと早くそういう暮らしを送っていたでしょうから……ですから、闇精霊の強くなりたいという望みはユーリさん、貴方に託したいのです」

 そう話すラルフさんの表情はとても穏やかで安堵した物に見えた。初めて会った時のラルフさんから「十層以下に戻りたいが闇精霊の囁きが、それを許してくれない」というような事を聞いた気がするのだ。

(恐らく正直な気持ちなんだろうな……家族とは思っていてもラルフさんが苦しめられていたのも事実なんだろうし)

「わかりました。どこまで行けるか分かりませんけど期待には応えたいですね」

 手を差し延べてきたラルフさんと握手を交わし、僕はラルフさんから闇精霊の最後の願いを託される事になったのだった。

◻ ◼ ◻

「男二人で仲良くしているところをお邪魔して悪いんですけど、私もその闇精霊の願いという物に協力するわよ。もう姉さんと話も付けたし……姉さんは私を見習いとして二十層の遺跡探索に連れて行くつもりだったみたいだけどね……」

 そう強気の姿勢で話に割り込んで来たのはサラだった。

「二十層に行けるなら悪い話じゃないんじゃないの?」

 サラは少しでも早く強くなりたがっていた筈だった。僕と一緒に行動していては二十層まで到達するのに何時までかかるか分かったものじゃないからだ。

「確かに確実かもしれないけど、そうやって姉さんの後を付いていくだけじゃ駄目なんじゃないかと今回の戦いで思ったのよ……だからユーリと一緒に行ってあげるわ」
 
 サラは少し恥ずかしそうにそう告げたのだった。

「あら~、サラ、お願いの仕方も知らないの? ここはお願いします一緒に連れてって下さいと、言うところじゃないかしら~」

 ふよふよと飛んできたフィーネが、サラの頭をペシペシと叩いている。

「いいのよ! これはユーリにも悪い話じゃないんだから!」

 相変わらず仲の良いエルフと精霊を眺めていると、向こうではキャロ達に加わってディーネが子狼の能力の確認を行っていた。

「くーん」

 子狼が可愛く鳴くと、頭上に氷の霧のような物が生まれた。

「あれって【氷雪】?」

 矢の的に放たれた小さな霧は的に到達すると対象を凍らせた。どうやらマリアさん程の広範囲攻撃ではないようだが対象の周囲にも影響がありそうだった。

 次に子狼が放ったのは土壁を氷にしたような氷壁だった。土壁みたいな大きさはないが、人間が一人くらいは隠れられそうな大きさはあった。

 僕は能力の確認が終わり、また皆と楽しそうに遊び始めた子狼を暫く眺めていたが、ある名前を思い出した。

「フェルト」

 僕がそう呼ぶと子狼はピクリと耳を動かしこちらを見た。その名は昔、童謡で読んだ子供の頃より羊と暮らし、羊を食べる物ではなく守るものとして生きた、羊の毛の素材の名前を与えられた狼の名前だった。

「くーん」

 その小さな白い子狼は嬉しそうに鳴くと、僕の元に脱兎のごとく走って来たのだった。
 
「ユーリちゃん、そろそろお茶にしますよ。皆さんも楽しんでいって頂戴」

 お茶を運んできたラナさんを見て、キャロ達から歓声があがった。

 色々な事が起こり、これからも色々と起こりそうだったが、新たな精霊を仲間に加えた僕の猪鹿亭での今日のお昼は、平和そのものだった。
しおりを挟む
感想 13

あなたにおすすめの小説

異端の紅赤マギ

みどりのたぬき
ファンタジー
【なろう83000PV超え】 --------------------------------------------- その日、瀧田暖はいつもの様にコンビニへ夕食の調達に出掛けた。 いつもの街並みは、何故か真上から視線を感じて見上げた天上で暖を見る巨大な『眼』と視線を交わした瞬間激変した。 それまで見ていたいた街並みは巨大な『眼』を見た瞬間、全くの別物へと変貌を遂げていた。 「ここは異世界だ!!」 退屈な日常から解き放たれ、悠々自適の冒険者生活を期待した暖に襲いかかる絶望。 「冒険者なんて職業は存在しない!?」 「俺には魔力が無い!?」 これは自身の『能力』を使えばイージーモードなのに何故か超絶ヘルモードへと突き進む一人の人ならざる者の物語・・・ --------------------------------------------------------------------------- 「初投稿作品」で色々と至らない点、文章も稚拙だったりするかもしれませんが、一生懸命書いていきます。 また、時間があれば表現等見直しを行っていきたいと思っています。※特に1章辺りは大幅に表現等変更予定です、時間があれば・・・ ★次章執筆大幅に遅れています。 ★なんやかんやありまして...

パークラ認定されてパーティーから追放されたから田舎でスローライフを送ろうと思う

ユースケ
ファンタジー
俺ことソーマ=イグベルトはとある特殊なスキルを持っている。 そのスキルはある特殊な条件下でのみ発動するパッシブスキルで、パーティーメンバーはもちろん、自分自身の身体能力やスキル効果を倍増させる優れもの。 だけどその条件がなかなか厄介だった。 何故ならその条件というのが────

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

婚約破棄されて辺境へ追放されました。でもステータスがほぼMAXだったので平気です!スローライフを楽しむぞっ♪

naturalsoft
恋愛
シオン・スカーレット公爵令嬢は転生者であった。夢だった剣と魔法の世界に転生し、剣の鍛錬と魔法の鍛錬と勉強をずっとしており、攻略者の好感度を上げなかったため、婚約破棄されました。 「あれ?ここって乙女ゲーの世界だったの?」 まっ、いいかっ! 持ち前の能天気さとポジティブ思考で、辺境へ追放されても元気に頑張って生きてます!

【ヤベェ】異世界転移したった【助けてwww】

一樹
ファンタジー
色々あって、転移後追放されてしまった主人公。 追放後に、持ち物がチート化していることに気づく。 無事、元の世界と連絡をとる事に成功する。 そして、始まったのは、どこかで見た事のある、【あるある展開】のオンパレード! 異世界転移珍道中、掲示板実況始まり始まり。 【諸注意】 以前投稿した同名の短編の連載版になります。 連載は不定期。むしろ途中で止まる可能性、エタる可能性がとても高いです。 なんでも大丈夫な方向けです。 小説の形をしていないので、読む人を選びます。 以上の内容を踏まえた上で閲覧をお願いします。 disりに見えてしまう表現があります。 以上の点から気分を害されても責任は負えません。 閲覧は自己責任でお願いします。 小説家になろう、pixivでも投稿しています。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

処理中です...