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202:白狼の精霊フェルト
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丸くなって眠っていた狼の子供はキャロに抱き上げられ目を覚ました。眠そうな狼は小さく欠伸をして体を伸ばした。
「かわいい!」三人の女の子達は、夢中になって交代で子狼を抱っこしている。
「どうやらあの子狼が闇精霊の生まれ変わった姿みたいね。そうだ名付けをしないとね」
シルフィーは可愛がられている子狼を眺めながら僕の方を見た。
「ラルフさん、あの子狼の名付けは、あなたがするべきじゃないかと思うんですが?」
しかし、僕はもともと憑依していたラルフさんが名前を付けるのが相応しいと思いラルフさんに声をかけた。
「いいえ、ユーリさん、確かに憑依されていただけとはいえ闇精霊を家族のように感じていたのは事実です。ですが生まれ変わったあの子狼はもうあの闇精霊とは別の存在です。それに……」
言葉を切ると、ラルフさんは可愛がられている子狼に優しい眼差しを向けた。
「闇精霊の望みは生まれ変わって、大精霊フェンリルの心を理解したいと願っていました。それにやはりその強さにも憧れのような気持ちを持っていました。消える瞬間まで私との繋がりは残っていましたので間違いありません……眠っていた私にとっては夢で見た出来事でしたが……」
そう言うと僕の肩を軽く叩いた。
「私は今回の件で殆どの力を失ってしまいました……ですから、これからは先輩方のようにウサギ狩りをして暮らそうと思っています……実際のところ闇精霊に憑依されていなければ、もっと早くそういう暮らしを送っていたでしょうから……ですから、闇精霊の強くなりたいという望みはユーリさん、貴方に託したいのです」
そう話すラルフさんの表情はとても穏やかで安堵した物に見えた。初めて会った時のラルフさんから「十層以下に戻りたいが闇精霊の囁きが、それを許してくれない」というような事を聞いた気がするのだ。
(恐らく正直な気持ちなんだろうな……家族とは思っていてもラルフさんが苦しめられていたのも事実なんだろうし)
「わかりました。どこまで行けるか分かりませんけど期待には応えたいですね」
手を差し延べてきたラルフさんと握手を交わし、僕はラルフさんから闇精霊の最後の願いを託される事になったのだった。
◻ ◼ ◻
「男二人で仲良くしているところをお邪魔して悪いんですけど、私もその闇精霊の願いという物に協力するわよ。もう姉さんと話も付けたし……姉さんは私を見習いとして二十層の遺跡探索に連れて行くつもりだったみたいだけどね……」
そう強気の姿勢で話に割り込んで来たのはサラだった。
「二十層に行けるなら悪い話じゃないんじゃないの?」
サラは少しでも早く強くなりたがっていた筈だった。僕と一緒に行動していては二十層まで到達するのに何時までかかるか分かったものじゃないからだ。
「確かに確実かもしれないけど、そうやって姉さんの後を付いていくだけじゃ駄目なんじゃないかと今回の戦いで思ったのよ……だからユーリと一緒に行ってあげるわ」
サラは少し恥ずかしそうにそう告げたのだった。
「あら~、サラ、お願いの仕方も知らないの? ここはお願いします一緒に連れてって下さいと、言うところじゃないかしら~」
ふよふよと飛んできたフィーネが、サラの頭をペシペシと叩いている。
「いいのよ! これはユーリにも悪い話じゃないんだから!」
相変わらず仲の良いエルフと精霊を眺めていると、向こうではキャロ達に加わってディーネが子狼の能力の確認を行っていた。
「くーん」
子狼が可愛く鳴くと、頭上に氷の霧のような物が生まれた。
「あれって【氷雪】?」
矢の的に放たれた小さな霧は的に到達すると対象を凍らせた。どうやらマリアさん程の広範囲攻撃ではないようだが対象の周囲にも影響がありそうだった。
次に子狼が放ったのは土壁を氷にしたような氷壁だった。土壁みたいな大きさはないが、人間が一人くらいは隠れられそうな大きさはあった。
僕は能力の確認が終わり、また皆と楽しそうに遊び始めた子狼を暫く眺めていたが、ある名前を思い出した。
「フェルト」
僕がそう呼ぶと子狼はピクリと耳を動かしこちらを見た。その名は昔、童謡で読んだ子供の頃より羊と暮らし、羊を食べる物ではなく守るものとして生きた、羊の毛の素材の名前を与えられた狼の名前だった。
「くーん」
その小さな白い子狼は嬉しそうに鳴くと、僕の元に脱兎のごとく走って来たのだった。
「ユーリちゃん、そろそろお茶にしますよ。皆さんも楽しんでいって頂戴」
お茶を運んできたラナさんを見て、キャロ達から歓声があがった。
色々な事が起こり、これからも色々と起こりそうだったが、新たな精霊を仲間に加えた僕の猪鹿亭での今日のお昼は、平和そのものだった。
「かわいい!」三人の女の子達は、夢中になって交代で子狼を抱っこしている。
「どうやらあの子狼が闇精霊の生まれ変わった姿みたいね。そうだ名付けをしないとね」
シルフィーは可愛がられている子狼を眺めながら僕の方を見た。
「ラルフさん、あの子狼の名付けは、あなたがするべきじゃないかと思うんですが?」
しかし、僕はもともと憑依していたラルフさんが名前を付けるのが相応しいと思いラルフさんに声をかけた。
「いいえ、ユーリさん、確かに憑依されていただけとはいえ闇精霊を家族のように感じていたのは事実です。ですが生まれ変わったあの子狼はもうあの闇精霊とは別の存在です。それに……」
言葉を切ると、ラルフさんは可愛がられている子狼に優しい眼差しを向けた。
「闇精霊の望みは生まれ変わって、大精霊フェンリルの心を理解したいと願っていました。それにやはりその強さにも憧れのような気持ちを持っていました。消える瞬間まで私との繋がりは残っていましたので間違いありません……眠っていた私にとっては夢で見た出来事でしたが……」
そう言うと僕の肩を軽く叩いた。
「私は今回の件で殆どの力を失ってしまいました……ですから、これからは先輩方のようにウサギ狩りをして暮らそうと思っています……実際のところ闇精霊に憑依されていなければ、もっと早くそういう暮らしを送っていたでしょうから……ですから、闇精霊の強くなりたいという望みはユーリさん、貴方に託したいのです」
そう話すラルフさんの表情はとても穏やかで安堵した物に見えた。初めて会った時のラルフさんから「十層以下に戻りたいが闇精霊の囁きが、それを許してくれない」というような事を聞いた気がするのだ。
(恐らく正直な気持ちなんだろうな……家族とは思っていてもラルフさんが苦しめられていたのも事実なんだろうし)
「わかりました。どこまで行けるか分かりませんけど期待には応えたいですね」
手を差し延べてきたラルフさんと握手を交わし、僕はラルフさんから闇精霊の最後の願いを託される事になったのだった。
◻ ◼ ◻
「男二人で仲良くしているところをお邪魔して悪いんですけど、私もその闇精霊の願いという物に協力するわよ。もう姉さんと話も付けたし……姉さんは私を見習いとして二十層の遺跡探索に連れて行くつもりだったみたいだけどね……」
そう強気の姿勢で話に割り込んで来たのはサラだった。
「二十層に行けるなら悪い話じゃないんじゃないの?」
サラは少しでも早く強くなりたがっていた筈だった。僕と一緒に行動していては二十層まで到達するのに何時までかかるか分かったものじゃないからだ。
「確かに確実かもしれないけど、そうやって姉さんの後を付いていくだけじゃ駄目なんじゃないかと今回の戦いで思ったのよ……だからユーリと一緒に行ってあげるわ」
サラは少し恥ずかしそうにそう告げたのだった。
「あら~、サラ、お願いの仕方も知らないの? ここはお願いします一緒に連れてって下さいと、言うところじゃないかしら~」
ふよふよと飛んできたフィーネが、サラの頭をペシペシと叩いている。
「いいのよ! これはユーリにも悪い話じゃないんだから!」
相変わらず仲の良いエルフと精霊を眺めていると、向こうではキャロ達に加わってディーネが子狼の能力の確認を行っていた。
「くーん」
子狼が可愛く鳴くと、頭上に氷の霧のような物が生まれた。
「あれって【氷雪】?」
矢の的に放たれた小さな霧は的に到達すると対象を凍らせた。どうやらマリアさん程の広範囲攻撃ではないようだが対象の周囲にも影響がありそうだった。
次に子狼が放ったのは土壁を氷にしたような氷壁だった。土壁みたいな大きさはないが、人間が一人くらいは隠れられそうな大きさはあった。
僕は能力の確認が終わり、また皆と楽しそうに遊び始めた子狼を暫く眺めていたが、ある名前を思い出した。
「フェルト」
僕がそう呼ぶと子狼はピクリと耳を動かしこちらを見た。その名は昔、童謡で読んだ子供の頃より羊と暮らし、羊を食べる物ではなく守るものとして生きた、羊の毛の素材の名前を与えられた狼の名前だった。
「くーん」
その小さな白い子狼は嬉しそうに鳴くと、僕の元に脱兎のごとく走って来たのだった。
「ユーリちゃん、そろそろお茶にしますよ。皆さんも楽しんでいって頂戴」
お茶を運んできたラナさんを見て、キャロ達から歓声があがった。
色々な事が起こり、これからも色々と起こりそうだったが、新たな精霊を仲間に加えた僕の猪鹿亭での今日のお昼は、平和そのものだった。
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